前提

埼玉県の設備系専門工事会社で、施工部隊を立て直すために経験者採用が急務になっていた

首都圏で設備系の専門工事を手がける、20名弱規模の会社の話です。

工事部は以前、十数名の体制でした。ところが人間関係のもつれや退職が重なり、いまは現場を見られる社員が数名まで減っています。協力会社はいるため、現場そのものが止まっているわけではありません。ただ、社内の施工部隊が薄くなると、段取りや品質確認、急な対応の負担が既存社員に寄っていきます。

社長の感覚としても、優先順位ははっきりしていました。

「結局、社内の工事部が弱い。人を増やさないとな、というのが優先順位として高いです」

欲しい人材は、完全な未経験者だけではありません。教育には時間がかかります。できれば10年ほど現場を経験していて、一定程度ひとりで動ける職人がほしい。さらに、将来は独立も視野に入れているような人に来てもらえれば、会社にとっても本人にとっても良い形を作れるのではないか、という考えがありました。

一方で、求人媒体にはすでに出しています。総合求人媒体にも、職人向け媒体にも出してきました。それでも反応は鈍い。

「工事系の媒体に出しても、全然来ないんだよ」

この感覚は、いま多くの専門工事会社が持っているものだと思います。求人票を出せば応募が来る時代ではなくなりました。特に職人採用では、媒体に載せる前に、会社の魅力そのものをどう見せるかが問われています。

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課題

求人票には載っているのに、職人から見ると働く未来が見えにくい

この会社には、実は採用で打ち出せる材料がありました。

社長はこう話していました。

「うちの会社は、仕事もそんなにヘビーじゃないし、将来性もある。ほかの工事屋さんに話すと『それ、優遇しているんですか』って言われるくらいなんです」

つまり、社内には魅力があります。

ただし、それが外に伝わっていません。求人票の中で「未経験歓迎」「経験者優遇」「資格取得支援」「独立支援あり」と並べても、求職者にはなかなか刺さりません。なぜなら、職人側が知りたいのは制度名ではなく、自分がこの会社に入ったあと、どういう人生を歩けるのかだからです。

特に職人採用では、求職者の関心は大きく二つに分かれます。

ひとつは、将来独立したい人です。

「いまは会社員や一人親方として動いているけれど、仕事が安定するか不安」 「技術はあるが、営業や車両、道具、仕事の取り方に不安がある」 「いきなり独立するのは怖いが、数年後には自分でやってみたい」

もうひとつは、長く安心して働きたい人です。

「若いうちは稼げても、40代、50代になったら体が持つのか」 「怪我をしたときに収入が止まるのは怖い」 「現場だけでなく、管理や指導側に回れる道はあるのか」

この二つは、どちらが正解という話ではありません。

独立に向く人もいます。会社員として安定して力を発揮する人もいます。大事なのは、会社側がその違いを理解したうえで、採用時点から二つのキャリアを見せることです。

この会社の社長も、そこに気づいていました。

「画面に二つあって、こっちが独立の道、こっちが会社にずっといる道。押したらそれぞれの説明に進むようなページを作りたいんです」

これは単なる採用ページのデザインの話ではありません。

職人に対して、会社が用意できる未来を整理する話です。

背景

仕事はあるのに人がいない会社ほど、採用媒体だけでは選ばれにくくなっている

建設業の中小企業では、「仕事はある。でも人がいない」という状況が珍しくありません。

足場、内装、防水、電気、設備。業種によって細かな悩みは違います。ただ、多くの会社で共通しているのは、人がいればもっと仕事を受けられるということです。

人がいないために、外注に頼る。外注費が上がる。売上は立っても利益が残りにくい。社内に職人を抱えられれば、もっと現場を回せるのに、採用が進まない。こうした循環に入っている会社は多いです。

ただ、採用市場を見ると、職人は完全に取り合いです。

求人媒体に出している会社はたくさんあります。職人向けの求人サービスも増えています。SNSで見かける建設系求人もあります。それでも「出せば来る」わけではありません。

この会社でも、総合求人媒体の原稿に違和感がありました。

「原稿が来ているんだけど、あんまり気に入らない。AIも使って、もう少し良い文章に変えようと思っている」

この違和感は大事です。

求人原稿が悪いというより、会社の本当の強みが原稿になる前に整理されていないことが多いからです。

たとえば、この会社にはすでに独立支援の原型がありました。

ある外部の若手職人に、数か月かけて仕事を覚えてもらい、段階的に報酬を上げながら、最終的には自分の車を持って独立に近い形で動いてもらう。別の社員についても、社内に残すより外注化したほうが本人にも会社にも合うかもしれない、という検討がありました。

「独立支援のパターンは、そこで一つできているんですよね」

ただ、ここで注意したいのは、独立支援を「なんとなく良さそうな制度」として打ち出さないことです。

独立にはメリットもあります。短期的には稼ぎやすい場面もあります。自由度もあります。

一方で、仕事を取る力、車両や道具の準備、怪我をしたときの備え、取引先との関係づくりも必要になります。会社から仕事を紹介される形で独立した場合も、その会社との関係が崩れれば仕事が減る可能性があります。

社長はこの点もかなり現実的に見ていました。

「独立って、合う人と合わない人がいる。独立したところで、全然うまくいかない人もいるからね」

だからこそ、採用で見せるべきなのは「独立できます」という一言ではありません。

独立したい人には、どの段階で何を身につけ、どこまで会社が支援し、どこから本人の責任になるのかを見せる必要があります。

同時に、会社に残る道も魅力として見せる必要があります。

社長は、40代以降の職人の働き方にも目を向けていました。

「45歳くらいで独立するメリットは、あまりないと思っているんです。それなら会社員として働いたほうが、怪我をしたときの保証もある」

この感覚も、現場を知っている会社ほどリアルです。

若い時期に独立して勝負する道もある。年齢を重ねたら、資格を取り、現場管理や後輩指導に回り、60代、70代まで関われる道もある。これを採用時点で見せられれば、職人にとっての安心感はかなり変わります。

解決

独立希望者と安定志向者の両方に、入社後の道筋を見せる採用設計

職人採用を強くするには、媒体選びの前に、まず採用ブランディングの骨格を作る必要があります。

この会社で考えられていた方向性は、とても参考になります。

採用ページや求人票の入口で、二つの道を明確に見せる形です。

  • 将来、自分でやっていきたい人向けの道
  • 会社に所属し、長く安心して働きたい人向けの道

この二つを分けて見せるだけで、求職者は自分ごととして読みやすくなります。

独立希望者には「3年後にどうなれるか」を具体化する

独立希望者に刺さるのは、「独立支援あり」という言葉ではありません。

知りたいのは、もっと具体的なことです。

たとえば、次のような項目です。

  • 1年目にどの工事を覚えるのか
  • どの現場を任せられるようになるのか
  • 資格や講習はどのタイミングで取るのか
  • 車両や道具は会社が貸すのか、本人が用意するのか
  • 独立後に仕事紹介はあるのか
  • 会社以外の仕事を取ることはできるのか
  • 報酬や単価はどのように上がるのか
  • 独立後も相談できる相手がいるのか

この会社では、「3年ほどで送り出す」というイメージがありました。

これを採用の言葉にするなら、3年間の成長ステップとして見せると伝わりやすくなります。

1年目は現場の基礎と安全を覚える。2年目はひとりで動ける工事を増やす。3年目は車両、道具、段取り、見積り、顧客対応まで覚え、独立に向けた準備をする。

もちろん、全員が3年で独立できるとは限りません。職種や本人の経験によっても変わります。だから断定しすぎず、「独立を目指せるモデル」として設計するのが現実的です。

また、独立後の関係も大切です。

会社から仕事を紹介する。協力会社として関わる。繁忙期に応援してもらう。本人が自分で取った仕事も尊重する。こうした関係性を最初から説明できると、独立希望者は安心します。

安定志向者には「年齢を重ねた後の働き方」を見せる

一方で、会社に長く残る道も、きちんと採用の魅力になります。

特に職人の場合、若いうちは体力で動けます。ただ、30代後半、40代、50代になると、働き方への不安が出てきます。

「怪我をしたらどうなるのか」 「ずっと現場作業だけでいけるのか」 「年齢を重ねても居場所はあるのか」

ここに対して、会社側が答えを持っていると強いです。

たとえば、この会社では、職人から次のようなステップアップを考えていました。

  • 資格取得を進める
  • 現場管理を任せる
  • 後輩や協力会社の指導に回る
  • 全国の協力先に技術や品質を教える立場になる
  • 60代以降も関われる役割を作る

この見せ方は、独立支援と同じくらい重要です。

職人採用というと、どうしても「稼げます」「手に職がつきます」に寄りがちです。もちろんそれも大切です。ただ、長く働きたい人には、体力勝負の先にある役割を見せるほうが響きます。

社長の言葉にも、それが出ていました。

「資格を取って、現場管理をして、指導員みたいな立場で70歳まで働ける。そういう見せ方をすると、不安がなくなる気がするんです」

これは、求人票の一行で終わらせるにはもったいない内容です。

採用ページの中で、年齢別の働き方として見せる。実際の社員のキャリア例として見せる。面接で説明できる資料にする。そこまで落とし込むと、会社の安心感が伝わります。

ページを作る前に、制度の中身を先に決める

採用ページやLPを作ること自体は有効です。

ただし、ページを先に作ると、言葉だけが先行します。大事なのは、先に制度の中身を整理することです。

最低限、次の五つは決めておきたいところです。

  1. どんな人に来てほしいのか
  2. 独立希望者に何を支援するのか
  3. 会社に残る人にどんなキャリアを用意するのか
  4. 既存社員にどう説明するのか
  5. 求人票、採用ページ、面接で同じ言葉を使えるか

特に一つ目が重要です。

今回の会社では、すぐに欲しいのは「一定経験のある職人」でした。完全未経験を大量に採るより、まずは現場を任せられる経験者が必要です。

その場合、求人の見せ方も変わります。

未経験向けに「ゼロから教えます」と打ち出すより、経験者に対して、次の3年の選択肢を見せるほうが合います。

「今のまま一人親方で続けるのが不安な方へ」 「独立前に仕事・技術・車両・道具の準備を整えたい方へ」 「現場経験を活かして、管理や指導側に進みたい方へ」

こうした言葉は、単なる求人条件よりも、求職者の心に入りやすくなります。

媒体は最後に選ぶ。先に会社の見え方を整える

もちろん、媒体選びも大切です。

Indeed、職人向け媒体、ハローワーク、紹介、現場での声かけ、地元での接点づくり。どれも選択肢になります。

ただ、どの媒体を使っても、会社の見え方が弱ければ反応は鈍くなります。

逆に、採用ページに独立支援と安定キャリアの両方が整理されていれば、媒体はそこへ誘導する入口になります。求人票では伝えきれない会社の考え方を、ページで補えます。面接でも同じ資料を使えます。

つまり、職人採用では、媒体は集客装置、採用ページは納得装置として考えると整理しやすいです。

求人票で興味を持ってもらう。採用ページで働く未来を見てもらう。面接で本人の希望に合わせて、独立の道か、長く働く道かを一緒に確認する。

この流れができると、応募数だけでなく、入社後のズレも減らしやすくなります。

まとめ

職人採用が難しい会社ほど、求人媒体を増やす前に、会社の魅力を言語化する必要があります。

今回のように、社内には良い制度や考え方があるのに、外に伝わっていない会社は少なくありません。

ポイントは、独立したい人と、長く安心して働きたい人を分けて考えることです。

独立希望者には、仕事紹介、技術習得、車両や道具、段階的な独立モデルを見せる。安定志向者には、怪我や年齢を見据えた働き方、資格取得、現場管理、指導側へのキャリアを見せる。

この二つを採用ページや求人票、面接で一貫して伝えられるようになると、会社の見え方はかなり変わります。

「求人を出しても来ない」は、媒体だけの問題ではないことが多いです。

求職者にとって、入社後の未来が見える状態になっているか。まずはそこから整理してみると、次の打ち手が見えやすくなります。

自社の採用の見せ方を整理したいときは

職人採用では、「どの媒体に出すか」より前に、会社の強みや働く道筋を整理することが大切です。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。採用であれば、求人票づくりだけでなく、独立支援の制度設計、長く働けるキャリアの見せ方、採用ページの構成まで一緒に整理できます。

「うちの場合は独立支援を打ち出せるのか」「経験者向けに何を見せればいいのか」「求人媒体に出す前に何を整えるべきか」といった段階でも大丈夫です。

無理な営業はいたしませんので、まずは自社の状況を整理する場としてご活用ください。

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