首都圏で改修・防水系の仕事を手がける15名規模の会社で、若手2名をどう育てるかが次の成長を左右している状態
首都圏で改修・防水まわりの工事を手がける、15名弱の専門工事会社の話です。
社内には経験豊富な職人がいます。中心は50代から60代前半。70代の職人も現場に出ています。一方で、これから会社を支える可能性がある若手は、30代前半が1名、20代後半が1名ほどです。
社長の中には、かなりはっきりした育成のイメージがありました。
「今の若い2人の育て方を間違えちゃうと、もう後が続かない」
この言葉に、会社の現在地がよく表れています。
単に人が足りない、若手が欲しい、という話ではありません。会社として次の5年を考えたときに、今いる若手を“ただ現場に出す人”で終わらせず、職人・施工管理・営業のどこかに進める人材として育てたいという課題です。
この会社は、シーリング、防水、シート、外壁補修など、現場によって複数の作業を扱います。ここが強みでもあります。いろいろ対応できるから、改修工事の現場では重宝されます。
ただし、育成という視点で見ると難しさもあります。複数工種を扱える会社ほど、若手が“いろいろ経験しているのに、何も身につき切らない”状態になりやすいのです。
現場ごとに違う作業を少しずつ経験するだけでは、若手の技術が定着しにくい
若手が育たない理由は、本人のやる気だけでは整理できません。
この会社で起きていたのは、現場単位では一生懸命働いているのに、工種単位の反復が足りず、技術が積み上がらないという状態でした。
社長はこう話していました。
「いろんな現場に行くと、そこで現場が終わっちゃう。次はまるっきり違う仕事が始まる。あとちょっとやれば手が動くところまでいけたのに、また前回に戻らなきゃいけない」
シーリング屋であれば、シーリングの現場が終わっても、次もまたシーリングです。防水屋であれば、防水の現場が終わっても、次もまた防水です。
しかし複数工種を受ける会社では、ひとつの現場の中にシーリングも、防水も、シートも、下地まわりも入ってきます。若手はその都度、必要な作業に入ります。
一見すると幅広く経験できているように見えます。
でも、実際にはこうなります。
- シーリングを少し覚えたところで、次は防水に移る
- 防水に慣れかけたところで、次はシートに移る
- 数か月後にまたシーリングへ戻ると、前回の感覚を取り戻すところから始まる
- いつまでも「手元」や「補助」から抜けにくい
社長の表現を借りるなら、「3か月やったら、またゼロに戻っちゃう」状態です。
若手本人から見ても、成長実感が持ちにくくなります。先輩から見ても、「まだ任せられない」となります。会社から見ても、将来の中核人材が育っている感覚が出ません。
ここで大事なのは、現場任せの育成を責めることではありません。中小の専門工事会社では、目の前の現場を回すだけでも精一杯です。急ぎの作業があれば、若手にも当然そこへ入ってもらう必要があります。
ただ、現場を回す流れと、人を育てる流れは、意識して分けないと混ざってしまうのです。
複数工種を受けられる会社ほど、教育の順番を決めないと若手が浅く広く止まりやすい
この課題の背景には、会社の仕事の取り方があります。
この会社は、ひとつの専門工種だけを請ける会社ではありません。改修や修繕の現場で、複数の作業をまとめて担います。これは顧客から見ればありがたい存在です。
一方で、若手育成では難しさになります。
「うちは、ひとつの現場に入ったら、やる職種が3つも4つもある。シールも防水も下にある。それをやらないといけない」
この言葉の通り、現場の都合で若手の作業が決まります。今日はシール。明日はウレタン防水。次の現場ではシート。急ぎがあれば別作業。これでは、本人の経験は増えても、技能の芯ができにくくなります。
特に、若手が2名しかいない会社では影響が大きくなります。
ベテランが多い会社では、「見て覚えろ」「ついてこい」で何とか回ってきた部分があります。しかし、今いる50代・60代・70代の職人に、これから新しい教育設計まで担ってもらうのは現実的に難しい場面もあります。
社長も、かなり率直に話していました。
「今さら70のやつにはできないでしょ。60のやつだって、今からやらないでしょ。できるようになる可能性があるのは、30のやつと20のやつ」
つまり、若手を育てることは、単なる技能継承ではなく、会社の次の体制づくりそのものです。
もうひとつ重要なのは、社長の中に“育った後の姿”があったことです。
若手が職人として腕を上げるだけではありません。数年後に、本人の適性や希望に応じて、施工管理へ進む道もある。営業へ進む道もある。現場職人としてさらに深める道もある。
「とりあえず2年後には、3つか4つの選択ができる」
この考え方は、とても大事です。
若手にとって“この会社にいたら、どうなれるのか”が見えることは、採用にも定着にも効いてきます。給与や休日だけではなく、職人として食えるようになる道、施工管理に進む道、営業として顧客を持つ道が見えると、仕事の意味が変わります。
シーリング・防水・シートなど工種別に集中期間をつくり、2年後にキャリアを選べる状態を設計する
若手育成は、現場で自然に育つのを待つより、工種別に集中して学ぶ期間を先に設計する方が現実的です。
この会社の社長が考えていたのは、かなり具体的な方法でした。
「シールだったらシールだけ、ウレタン防水だったらウレタン防水だけ、シートだったらシートだけ。本当は専門、専門で覚えさせたい」
たとえば、次のような流れです。
- 3〜5か月、シーリング専門の会社や現場で集中的に学ぶ
- 次の半年で、ウレタン防水を集中的に学ぶ
- その次に、シート防水や外壁補修を学ぶ
- 2年ほどで、主要な工種を一定レベルまで経験する
ポイントは、単に「いろいろやらせる」のではなく、ひとつの工種を一定期間、毎日繰り返すことです。
社長はこう言っていました。
「3か月、4か月、シーリング屋さんに預けて毎日それをやらせたら、多分その仕事だったら普通にできるようになる。あとは経験だから」
これは理にかなっています。
若手が技術を覚えるには、反復が必要です。段取り、道具の扱い、材料の癖、手の動かし方、仕上がりの見方。これらは、頭で説明されるだけでは身につきません。同じ作業を続ける中で、少しずつ身体に入っていきます。
そのためには、自社の現場だけで完結させなくてもよい場合があります。
信頼できる専門業者に一定期間預ける、給与は自社で払いながら教育をお願いする、という方法も選択肢になります。もちろん、相手先との関係性や現場の安全管理、責任範囲の整理は必要です。ただ、すでに協力関係があり、教育を受け入れてくれる先があるなら、若手にとっては大きな学びになります。
進め方としては、次の順番で整理すると考えやすくなります。
1つ目は、自社に必要な工種を棚卸しすることです。シーリング、防水、シート、外壁補修など、自社が今後も内製したい工種を並べます。すべてを同じ重さで学ばせる必要はありません。売上、利益、顧客の要望、今後の受注方針を見て、優先順位をつけます。
2つ目は、各工種で“どこまでできたら次へ進むか”を決めることです。「何となくできる」ではなく、材料準備、施工前確認、基本作業、仕上がり確認、手直し対応など、任せられる範囲を言葉にしておきます。
3つ目は、集中期間を決めることです。3か月でよい工種もあれば、半年必要な工種もあります。大切なのは、現場都合で途中から別工種に飛ばしすぎないことです。完全に固定できなくても、「この期間はシーリングを優先する」と会社で決めておくだけで、育ち方は変わります。
4つ目は、2年後の分岐を用意することです。全員を同じ職人像に当てはめる必要はありません。
- 現場職人として腕を深める
- 施工管理の勉強を始める
- 営業に同行して顧客対応を覚える
- 職長として小さな現場を任せる
こうした選択肢があると、若手は自分の将来を考えやすくなります。
特に中小の専門工事会社では、職人として入った人が、将来は施工管理や営業にも進める設計を持つことが、会社の組織づくりにつながります。現場を知っている施工管理、工事を理解している営業は、会社にとって大きな力になります。
まとめ
複数工種を扱う会社では、若手にいろいろ経験させること自体は悪くありません。むしろ、将来的には強みになります。
ただし、最初から浅く広く経験させ続けると、技術が定着しにくくなります。本人も成長実感を持ちにくく、会社も任せきれない状態が続きます。
大切なのは、現場任せではなく、工種別に集中して学ぶ順番をつくることです。
シーリングならシーリング。防水なら防水。シートならシート。一定期間、同じ工種を反復する。そのうえで、2年後に職人、施工管理、営業など複数の進路を選べる状態をつくる。
この設計があると、若手の育成は「その場その場の手伝い」から「会社の次の柱をつくる取り組み」に変わります。
若手が育たない原因は、本人ではなく、経験の積ませ方にあることも多いです。今いる若手をどう育てるか。どの工種から覚えさせるか。誰に預けるか。何年後にどんな役割を任せたいか。
ここを一度整理するだけでも、次に採用する人の見え方も変わってきます。
若手をどう育てるかを、自社の工種と将来の役割から整理する
若手育成は、採用だけ、現場教育だけで切り分けると考えにくくなります。どの仕事を伸ばしたいのか。どの工種を自社に残したいのか。将来、施工管理や営業に進む人をどこから育てるのか。ここまでつなげて見ると、打ち手が見えやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。若手を採る前に教育設計を整えたい、今いる若手の育て方を見直したい、職人から施工管理へ進む道筋をつくりたい、といった段階でも大丈夫です。
「うちの場合は、どの工種から教えるべきか」「預け先を使う育成は現実的か」「若手にどんなキャリアを見せればよいか」など、まだ整理しきれていない状態でも構いません。無理な営業はいたしませんので、必要な整理先として気軽にご相談ください。































