東北の重量物据付会社で起きていた「仕事はあるのに断る」判断
東北地方で重量物の据付や解体を手がける、20名弱の専門工事会社の話です。
工場内の大型設備、ボイラー、ダクト、配管、キュービクル、トランスなど、重たいものを入れる・出す・ばらす工事を得意にしている会社です。食品工場のレイアウト変更や公共施設の設備更新、発電設備まわりの工事にも入っています。
仕事そのものはあります。むしろ、6月中旬から7月にかけて予定が埋まり、「逆に人が足りなくなってくる」という状態でした。
それでも、すべての声がけを受けているわけではありません。
沿岸部の大型発電所、製油所、高速道路の設備更新。こうした現場は、外から見ると大きく見えます。期間も長い。関係会社も多い。発注量もありそうです。
しかし現場を知っている側から見ると、話は少し違います。
「声はかかるんですけど、断ってるんです」
この一言に、建設会社の受注判断で見落としやすい論点が詰まっています。売上になりそうな現場ほど、実際には利益と人員を削ることがあるからです。
大型現場は売上より先に「実質の拘束時間」と「主力人員の固定化」を見る必要がある
原発、製油所、高速道路、遠方の大型現場は、単価や日数だけを見ると魅力的に見えることがあります。
ただ、中小の専門工事会社にとって大事なのは、見積書上の金額だけではありません。
実際には、次のような時間と負担が積み上がります。
- 会社や自宅から現場までの移動時間
- 入場前の渋滞
- 車両点検や通行証確認などのセキュリティ待ち
- 特殊な手帳・資格・入場教育への対応
- 泊まり込みや長期出張の可否
- 一度入ると抜けにくい現場ルール
- 夜間作業や中断による生産性低下
- 他の利益案件を受けられなくなる機会損失
たとえば沿岸部の発電所では、高速道路を降りてから下道を長く走る必要がありました。現場まで片道2時間近く。さらに入場時には多くの協力会社が集まり、門前で車両確認や通行証確認が続きます。
「8時作業開始なら、7時くらいから入場しないと門が詰まって入れないんです」
「こちらを5時くらいに出ないと間に合わないんですよね」
この時点で、現場の1日は8時から始まっていません。職人にとっては、朝5時出発からすでに拘束が始まっているわけです。
さらに原発系の現場では、放射線管理に関わる手帳や入場管理の問題もあります。
「一回入ったら、なかなか出られなくなっちゃうんです」
単発であれば対応できても、長期で人を固定されると、会社全体の人員繰りが崩れます。通いで働きたい職人もいます。家庭の事情で出張が難しい人もいます。逆に、全国どこでも出張できる人はすぐに仕事が決まります。
つまり、問題は「受けるか断るか」だけではありません。どの人を、どの条件で、どれくらい固定されるのかまで見ないと、採算が読めないのです。
単価が安い現場ほど、動ける職人だけが取られて会社全体の稼働が苦しくなる
この会社では、高速道路の設備更新にも入っていました。
サービスエリアや料金所まわりの電気設備、ETC関連設備の更新などです。期間は長く、仕事量もありました。
ただ、実際には「思ったほど旨味がない」現場でした。
理由は単価だけではありません。
高速道路の工事は、夜間作業が多くなります。昼間にできるところまで進めて、夜間に本番作業をする。規制や安全確認で工事が止まることもあります。夏場は暑さの問題も出ます。
60歳前後の職人を入れていたところ、元請側から「この人は年齢的にも体力的にも厳しいのでは」「もっと若い人を連れてきてほしい」と言われる場面もありました。
すると何が起きるか。
会社の中で一番動ける職人が、単価の安い長期現場に固定されるのです。
「できる人間、動ける人間ばっかりがそっちに連れて行かれて、動けない人間ばっかりが残るようになっちゃって」
これは中小建設会社にとって、かなり大きな問題です。
現場単体では黒字に見えても、主力人員が抜かれることで、ほかの高単価案件に対応できなくなります。短期で利益率のよい工事、既存客からの急な依頼、条件のよい改修案件を逃すこともあります。
その結果、会社全体では苦しくなります。
この会社も、最終的にはその高速道路案件から離れました。
「これではちょっと合わないな、ということで今年抜けたんです」
ここで大事なのは、単に「高速道路は悪い」「大型現場は避けるべき」という話ではないことです。
大型現場にも良い案件はあります。安定稼働になることもあります。実績にもなります。
ただし、現場の名前や発注量ではなく、自社の人員構成と拘束条件に合うかで見なければいけません。
受注前に「移動・待機・固定化・機会損失」を見積条件に入れる
声がかかる現場を見極めるには、見積金額の前に、まず現場の実質条件を分解すると判断しやすくなります。
おすすめは、案件ごとに次の4つを確認することです。
1. 移動時間と入場待機を「実働外コスト」として見る
遠方現場では、片道の移動時間だけでなく、入場までの待機も含めて考える必要があります。
たとえば、作業開始が8時でも、5時出発、7時入場待ち、車両点検、通行証確認となれば、職人の拘束はすでに3時間始まっています。
この時間が見積に反映されていないなら、日当単価が同じでも実質単価は下がります。
確認したいのは、次のような項目です。
- 会社から現場までの片道時間
- 高速を降りてからの下道時間
- 入場渋滞の有無
- 車両点検・通行証確認の所要時間
- 朝礼前に必要な集合時間
- 退場時の混雑や確認時間
ここまで見て、1日の拘束時間あたりの粗利で見直します。
「人工単価はいくらか」だけでは足りません。「その人工は、何時間拘束される人工なのか」まで見ると、赤字現場を避けやすくなります。
2. 一度入ると抜けにくい現場は、期間よりも「人の固定」を見る
原発、製油所、大型プラントなどは、入場管理が厳しい現場です。手帳、資格、教育、セキュリティ確認が必要になります。
このタイプの現場では、途中で人を入れ替えるのが簡単ではありません。
「単発なら行ける。でも長期でずっと出張となると限られる」
この感覚はとても現実的です。
受ける前に見るべきなのは、工期ではなく、誰が何週間・何か月固定されるのかです。
特に、会社の中核人材を固定する場合は慎重に見たいところです。現場を回せる人、重量物の段取りができる人、若くて体力がある人、出張もできる人。こうした人材は、他の現場でも必要になります。
長期拘束になるなら、単価だけでなく、次の条件交渉が必要です。
- 宿泊費・移動費の明確化
- 出張手当の扱い
- 人員入替の可否
- 最低拘束期間
- 途中離脱時のルール
- 追加人員を求められた場合の単価
「入れば仕事がある」ではなく、抜け方まで決めてから入ることが大切です。
3. 夜間・中断・暑さなどで生産性が落ちる現場は、通常単価で見ない
高速道路や稼働中施設の改修では、夜間作業や一時中断が起きやすくなります。
夜間は職人の負担が大きくなります。昼夜の切り替えで体力も削られます。安全確認や交通規制の都合で、思うように進まないこともあります。
また、夏場の屋外や道路まわりでは、熱中症リスクもあります。年齢や体力によって、入れられる人が限られます。
この場合、通常の昼間作業と同じ感覚で単価を見ると合いません。
確認したいのは、通常よりどれだけ生産性が落ちる現場かです。
- 夜間作業の比率
- 昼夜連続になる可能性
- 工事中断の頻度
- 規制待ち・確認待ちの時間
- 夏場・冬場の作業負荷
- 元請から求められる年齢・体力条件
若い人、動ける人だけを求められる現場で単価が安い場合は、特に注意が必要です。会社の主力を安く固定することになるからです。
4. 「受ける・断る」ではなく、受け方を3段階に分ける
大型現場は、すべて断る必要はありません。
ただ、何でも同じ条件で受けると苦しくなります。そこで、受注判断を3段階に分けると整理しやすくなります。
1つ目は、単発なら受ける案件です。
移動は重いが、1日から数日で終わる。既存客との関係もある。主力人員を長期固定しない。こうした案件は、単発応援として受ける余地があります。
2つ目は、条件を変えれば受ける案件です。
泊まり込み、長期拘束、入場管理が厳しい現場は、宿泊費、移動費、出張手当、最低単価、人員入替条件を調整してから受ける形です。
3つ目は、今は受けない案件です。
単価が安い。夜間が多い。動ける職人だけを求められる。抜けにくい。ほかの利益案件を逃す可能性が高い。こうした場合は、声がかかっても無理に受けない判断があってよいと思います。
この会社が高速道路案件から離れた判断も、まさにここです。
現場が悪いのではありません。自社の人員と利益構造に合わなくなったということです。
まとめ
建設業では、仕事が薄い時期ほど「声がかかるだけありがたい」と感じます。
ただ、人が限られる中小の専門工事会社では、声がかかる案件を全部受けると、かえって会社が苦しくなることがあります。
特に原発、製油所、高速道路、遠方の大型現場では、見積書に出にくい負担が多くあります。
移動時間、入場待機、セキュリティ確認、特殊資格、泊まり、長期拘束、人員固定、機会損失。
これらを含めて見ると、「売上は立つけれど利益が残らない現場」が見えやすくなります。
大事なのは、強気に断ることではありません。
単発なら受ける。泊まりなら条件を変える。主力人員を固定しない。夜間や待機が多い現場は単価を見直す。抜け方を決めてから入る。
こうした小さな判断の積み重ねが、会社全体の利益と職人の働きやすさを守ります。
「その現場でいくら売れるか」だけでなく、「その現場に誰を何日預けるのか」まで見ること。
ここが、赤字現場を見極める入口になります。
受けるべき現場か迷ったときは、案件ごとの採算を一緒に整理できます
大型現場の声が増えてくると、受けるべきか、条件を変えるべきか、断るべきかの判断が難しくなります。
特に、移動時間や待機時間、出張可否、主力人員の固定化まで含めると、現場ごとの採算は見えにくくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。案件ごとの受注判断や、利益が残る現場の選び方についても、「うちの場合はどう考えるべきか」という段階から一緒に整理できます。
無理な営業はいたしません。まずは状況を伺いながら、次に何を見ればよいかを一緒に考えます。

































