前提

売上拡大の裏で、取引先の支払い条件と信用力の確認が追いつかなくなっている状態

ある設備系の専門工事会社では、独立後数年で取引先を広げ、売上も大きく伸ばしてきました。電気設備、空調、発電機、蓄電池まわりなど、対応できる工事領域も広く、大手設備会社との直接取引もあります。

一方で、経営者が最初に挙げた悩みは「一番は資金繰りです」でした。売上が伸びているのに手元資金が苦しい。これは建設業では珍しい話ではありません。

特にこの会社では、急に取引先を増やしたことで、与信確認が後追いになり、支払い条件の悪い会社や信用面に不安のある会社とも取引してしまった時期がありました。実際に、取引先の倒産や貸し倒れに近い出来事も重なっています。

「入金がないと支払いができないところまで苦しかった」と話すように、売上高だけを見ていると順調でも、現場では入金より支払いが先に来る構造が資金繰りを圧迫していました。

課題

40日、45日、60日の入金サイトが協力会社への支払いとズレて持ち出しになること

資金繰りを苦しくしていた大きな要因は、取引先ごとの入金サイトの違いです。

ある取引先は支払いが早く、資金繰り上も付き合いやすい。一方で、別の取引先では40日、45日、場合によっては60日サイトになることがありました。ところが、自社から協力会社への支払いは翌月末や翌月10日など、そこまで待ってもらえないケースが多い。

つまり、売上は立っていても、協力会社への支払いが先行し、入金までの間を自社で立て替える形になります。これが複数現場で重なると、利益が出ているはずの仕事でも手元資金が薄くなります。

さらに問題を難しくするのは、取引先を簡単には切れないことです。仕事量を確保したい時期ほど、条件の悪い案件でも断りにくくなります。「仕事はある」と言われて受けてみたら、単価を叩かれ、支払い条件も悪かった。そうした経験が積み重なると、売上拡大そのものが資金繰りの負担になってしまいます。

この状態で必要なのは、単に「もっと売る」ことではありません。どの会社と付き合うかを、感覚ではなく数字と条件で見直すことです。

背景

急成長期は目の前の現場を回すことが優先され、取引先を選ぶ基準が曖昧になりやすいこと

急成長している建設会社ほど、目の前の現場を回すことに力を使います。人員を手配し、協力会社を押さえ、材料や工具を準備し、現場を止めないようにする。その中で、新しい取引先から仕事が来れば、まずは受ける判断になりがちです。

この会社でも、以前は仕事量が多く、取引先を広げることで売上を伸ばしてきました。ただ、その過程で「お客さんの精査ができていなかった」と振り返っています。

後から取引先を見直し、条件の合わない会社とは取引をやめたものの、それに伴って売上が下がる場面もありました。ここに経営判断の難しさがあります。売上を落としたくない一方で、条件の悪い仕事を続けると資金繰りが苦しくなる。

特に建設業では、取引先の条件が次のようにばらつきます。

  • 入金サイトが早い会社と遅い会社がある
  • 単価は良くても仕事量が不安定な会社がある
  • 継続性はあっても利益が残りにくい会社がある
  • 信用力が読みにくく、貸し倒れリスクがある会社がある
  • 急な依頼が多く、現場手配の負荷が高い会社がある

これらを一つずつ見ずに売上だけで判断すると、伸びているのに苦しい会社になります。逆に、売上が一時的に下がっても条件の悪い取引を整理できれば、手元資金と現場の安定性は改善しやすくなります。

解決

取引先ごとの条件を点数化し、資金繰り表で入金と支払いのズレを見える化する進め方

まず取り組みたいのは、取引先ごとの評価を一覧化することです。感覚的に「良い会社」「合わない会社」と判断するのではなく、支払い条件・単価・継続性・信用力を並べて見ます。

たとえば、次のような項目で点数化します。

  • 入金サイト:30日以内、45日、60日など
  • 単価:自社の標準単価と比べて適正か
  • 粗利:協力会社費、材料費、移動費を引いて残るか
  • 継続性:単発か、年間で見込める取引か
  • 信用力:支払い遅延や経営不安の情報がないか
  • 現場負荷:急な依頼や段取り変更が多すぎないか

この整理をすると、売上額が大きくても資金繰りを圧迫している取引先が見えてきます。反対に、売上はそこまで大きくなくても、支払いが早く、現場負荷が少なく、継続性のある取引先も見つかります。

次に、月次の資金繰り表を作ります。ポイントは、売上計上日ではなく、実際の入金日と支払日で見ることです。取引先ごとに「いつ入るか」、協力会社や外注先に「いつ払うか」を並べると、どの月に持ち出しが発生するかが見えます。

そのうえで、取引先を3つに分けます。

  1. 継続して伸ばしたい取引先
  2. 条件交渉をしたい取引先
  3. 新規受注を止める、または縮小する取引先

いきなり全てを切る必要はありません。まずは新規案件だけ受け方を変える、一定金額以上は着手金や中間金を相談する、60日サイトの案件は受注上限を決めるなど、段階的に進めます。

大切なのは、受ける前に撤退ラインを決めることです。「この入金サイトなら、この粗利率が必要」「この単価を下回るなら受けない」「この取引先には月間いくらまで」といった基準を持つと、現場の忙しさに流されにくくなります。

まとめ

売上が伸びているのに資金繰りが苦しい場合、原因は売上不足ではなく、取引先の条件にあることがあります。

特に、急に取引先を増やした会社では、与信確認や支払い条件の整理が後回しになりやすく、気づいたときには入金サイトと支払いサイトのズレが大きくなっています。

まずは、取引先ごとに支払い条件、単価、継続性、信用力を見える化することです。そのうえで、資金繰り表を使って入金と支払いのズレを確認し、付き合う会社、交渉する会社、受注を止める会社を分けていきます。

売上を追うこと自体は悪くありません。ただ、これからの成長には、売上の大きさより資金が残る取引を選ぶ視点が欠かせません。条件の良い取引先を少しずつ増やし、条件の悪い仕事を減らしていくことが、建設会社の資金繰りを安定させる第一歩になります。