前提

復興需要が落ち着いた地方エリアで、県外業者も残り単価の叩き合いが起きている状態

ある地方の専門工事会社では、大手設備会社との直接取引があり、電気設備、空調、発電機、蓄電池などの案件にも対応してきました。技術や実績がない会社ではありません。むしろ、一定以上の取引先と直接口座を持ち、現場対応力も評価されてきた会社です。

それでも経営者は、販路開拓を資金繰りに次ぐ課題として挙げていました。理由は、地域全体の仕事量と単価環境が変わっているためです。

復興需要が落ち着いたあと、県外から来た業者がその地域に残りました。固定客を持たない会社も多く、仕事を取るために単価を下げる。すると、地元の会社も見積もりで比較され、以前の単価では受注しにくい状況になります。

経営者は「安い金額で取っても意味がない」と話していました。これは、単なる愚痴ではありません。赤字に近い単価で受けると、人も機械も動いているのに利益が残らず、資金繰りまで苦しくなるからです。

課題

固定客を持たない会社の低単価受注に巻き込まれ、見積もりのたびに撤退判断を迫られること

地方の建設会社にとって、地域内の単価競争は避けにくいテーマです。特に、震災復興や大型需要で一時的に仕事量が増えた地域では、外から来た業者が営業所を置き、そのまま残ることがあります。

そうした会社が固定の取引先を十分に持っていない場合、仕事を確保するために低単価で見積もることがあります。元請側から見れば、安く対応できる会社があるなら比較対象になります。その結果、既存の取引先であっても、価格だけで横並び比較されやすくなります。

この会社でも、見積もりを出したあとに、他社がさらに安い金額を提示し、案件を取られることがありました。そこで同じ単価まで下げて受けても、自社は赤字になる。さらに下げ合いをすれば、地域全体の単価も崩れていきます。

「うちも赤字になって取ってもしょうがない」という判断は、かなり現実的です。目の前の売上を取りにいくより、利益が残らない仕事を追わないことが、結果的に会社を守る場面もあります。

ただし、単価競争から完全に降りるだけでは、仕事量が減ってしまいます。だからこそ、どの案件を取りにいくのか、どの販路を伸ばすのかを見直す必要があります。

背景

大型需要の終了後に仕事量が減り、地域内で地元企業と県外企業の競争構造が残ったこと

復興需要のような大型需要がある時期は、地域の建設会社だけでは人手や機械が足りず、県外から多くの業者が入ってきます。当時は歓迎され、地域の工事を支える存在になります。

ところが、需要が落ち着いたあとも業者が残ると、構造が変わります。地域に根付いた固定客を持つ会社と、仕事を取り続けるために単価を下げる会社が同じ市場で競うことになります。

経営者は、地域内で「地元企業対県外企業」のような空気もあると話していました。さらに、自社ももともとは外から来た流れを持つ会社であるため、地域の中で簡単には割り切れない立場にあります。

こうした背景があると、単価の話だけでは済みません。評判、既存の関係性、紹介、過去の経緯、地域内の見えない力学も絡みます。中にいる人でなければ分からない難しさがあります。

その中で、販路開拓を考えるなら、ただ新規取引先を増やすだけでは足りません。条件の悪い取引先を増やせば、資金繰りの悩みが再発します。必要なのは、地域内競争から少しずらす案件選定です。

解決

既存の設備領域を活かし、支払い条件と継続性の良い元請・一次取引を増やす進め方

まず確認したいのは、自社がすでに評価されている工事領域です。この会社の場合、電気設備、キュービクル、空調、ボイラー、発電機、蓄電池など、設備まわりの対応実績がありました。大手設備会社との直接取引もあります。

このような会社が販路を広げるときは、やみくもに新規客を増やすより、今ある技術の延長線上で取引条件の良い相手を探すほうが現実的です。

たとえば、次のような観点で案件を見ます。

  • 既存の設備技術で対応できるか
  • 元請または一次に近い立場で入れるか
  • 入金サイトが長すぎないか
  • 年間を通じて継続性があるか
  • 急な値下げ要求が常態化していないか
  • 現場の段取りや安全管理の相性が悪くないか

見積もり時には、撤退基準も決めておきます。最低粗利率、最低人工単価、支払いサイト、協力会社への支払いとのズレを確認し、基準を下回る場合は無理に取りにいかない。これを社長だけの感覚にせず、社内で共有できる形にしておくことが大切です。

次に、伸ばしたい取引先を決めます。既存取引の中に、支払いが早く、単価も比較的安定し、継続性がある会社があるなら、そこへの接点を増やす。現場対応後の報告、担当者との関係づくり、対応可能領域の整理など、営業担当だけに頼らない動きが必要です。

また、新規販路を考える場合も、地域内の同業者と正面から価格でぶつかる案件だけではなく、既存の設備領域が活きる施設系、保守更新系、電源・空調まわりの案件など、価格以外の評価軸が残る仕事を探す視点が有効です。

ここで大切なのは、いきなり大きく変えようとしないことです。まずは直近の見積もり案件を振り返り、赤字になりやすい案件の特徴を洗い出します。そのうえで、今後増やす取引先、維持する取引先、距離を置く取引先を分けていきます。

まとめ

地方の建設会社が単価競争に巻き込まれる背景には、単に競合が増えたという話だけでなく、大型需要の終了、県外業者の定着、固定客の有無、地域内の関係性が重なっています。

その中で、赤字に近い仕事を取り続けても会社は楽になりません。必要なのは、売上を取りにいく前に、どの案件なら利益と資金が残るのかを見極めることです。

自社がすでに持っている設備領域や大手との直接取引実績を起点に、支払い条件が良く、継続性があり、価格だけで比較されにくい販路を少しずつ増やしていく。見積もり時には撤退基準を決め、安く取って赤字になる仕事を追わない。

単価競争から完全に離れることは簡単ではありません。それでも、取る仕事と取らない仕事を分けるだけで、現場の忙しさと経営の苦しさは少しずつ変わっていきます。