前提

木材・家具・内装工事を扱う会社が、長年の取引先を大切にしながら大手内装会社との接点を探している状況

ある専門工事会社は、もともと材木を扱う会社として長く事業を続けてきました。木材、突板、不燃材、家具まわりの知見があり、近年は内装工事も手がけるようになっています。

売上の中身も、材料・家具と内装工事がそれぞれ大きな柱になりつつあります。特に木を多く使う現場や、難しい納まりが求められる案件では、材料の選定から相談に乗れることが強みです。

一方で、長年付き合いのある内装工事会社には、材料を継続的に納めています。その取引先も大手内装会社の協力会社として動いているため、自社が直接その大手に営業すると、既存取引先と競合してしまうのではないかという悩みがありました。

「木のことなら相談に乗れる自信はあるんです。ただ、工事まで入っていくと、今の取引先からどう見えるのかが怖いんです」

この感覚は、建設業の中小企業ではかなり現実的です。技術的にはできる。紹介されれば役に立てる。でも、業界の関係性を壊してまで進めるべきかは別問題です。

課題

直接営業をしたい相手が、既存取引先の元請けでもあるため動き方を間違えると角が立つこと

この会社が悩んでいたのは、「大手と取引したい」という単純な話ではありませんでした。

大手内装会社とは地理的にも近く、木材や造作に関する相談にはすぐ対応できる距離感があります。現場担当者から「この木は何を使えばいいのか」「この納まりはどう考えればいいのか」と聞かれたときに、専門的な回答ができる立場です。

ただし、その大手の仕事には、すでに既存取引先が深く入っています。自社はその既存取引先に材料を納めている立場です。ここで急に工事会社として大手に売り込むと、既存取引先から見れば「自分たちの仕事を取りに来た」と受け取られる可能性があります。

相談者の言葉にも、その慎重さが表れていました。

「材料を買ってもらっているのに、工事でうちが直接入るのはどうなのか。競争相手になったと思われたら困るんです」

建設業では、仕事の流れだけでなく、誰の顔を立てるかも大切です。単に営業先を増やすだけなら簡単に見えても、既存の協力関係を失ってしまえば、結果的に会社の土台を崩すことになりかねません。

背景

高難度の木工案件が増える一方で、地域の協力会社関係は狭く濃いものになっていること

背景には、扱う案件の変化がありました。

近年、大手内装会社やその協力会社が受ける案件では、木を使った難しい意匠や、グレードの高い造作が増えています。たとえば、曲線の手すり、特殊な突板、和の意匠を含む造作、現場での細かな納まりが求められる家具などです。

こうした案件では、単に材料を右から左へ流すだけでは足りません。木の性質、加工の限界、施工時の納まり、現場で起きそうなズレまで見て、事前に判断できる会社が必要になります。

この専門工事会社も、過去に難しい木工や家具の納入を経験しており、木を使う比重が高い現場なら十分に勝負できる手応えを持っていました。

一方で、地元エリアの内装業界は協力会社の顔ぶれがある程度決まっており、関係性も濃いものです。既存取引先が主要な協力会社として動いている場合、自社が同じ土俵に乗ることには慎重にならざるを得ません。

さらに、施工まで請けるとなると現場管理者や職人の手配も必要です。材料や家具だけなら遠方でも対応しやすい一方、取り付けや施工を含めると、職人が動けるエリアや現場管理の体制が制約になります。

つまり、この会社の悩みは「営業先がない」ではなく、強みを活かせる先は見えているが、既存取引先との関係と自社の施工体制を踏まえると、真正面から工事営業をかけにくいというものでした。

解決

工事一式ではなく、材料・家具・特殊木工から入ることで競合を避けながら価値を伝えること

こうした場合、いきなり「内装工事を一式で請けます」と打ち出すのは得策ではありません。既存取引先と真正面から競合しやすくなるからです。

現実的なのは、まず自社の強みを分解して、競合しにくい入口をつくることです。

たとえば、次のような切り分けが考えられます。

  • 木材・突板・不燃材など、材料提案に絞って入る
  • 造作家具や特殊家具だけを別枠で相談してもらう
  • 既存取引先が対応しきれない高難度の木工部分に限定する
  • 地元エリアでは慎重に動き、隣接エリアや別支店から接点をつくる
  • 工事一式ではなく「空いていれば対応可能」という補完的な立ち位置にする

特にこの会社の場合、「木のことが分かる」「難しい造作に対応できる」「家具製作の協力体制がある」という点が強みでした。であれば、大手内装会社に対しても、最初から施工会社として売り込むより、木工・家具・材料の専門性を前面に出したほうが自然です。

「家具だけで話をしてもいい。施工で競合するなら、材料や家具の話で入ることはできる」という考え方です。

また、既存取引先との関係を守るなら、後から知られる形は避けたいところです。すべてを事前に細かく共有する必要はありませんが、少なくとも競合と受け取られそうな動きをする場合は、意図を伝える余地を残しておくことが大切です。

そのうえで、大手内装会社にアプローチする際は、単なる会社紹介ではなく、次のような情報を整理しておくと話が進みやすくなります。

  • どんな木工・家具・造作を得意としているか
  • 過去にどのような難しい納まりを解決したか
  • 家具製作や材料調達の協力体制はどうなっているか
  • 現場管理者は何名いて、どの範囲まで対応できるか
  • 施工まで請ける場合と、材料・家具のみの場合の対応範囲

大手側から見ると、新しい協力会社を使うには理由が必要です。既存の協力会社で足りているなら、あえて新規先を増やす必要はありません。

だからこそ、「何でもできます」ではなく、「木を多く使う難しい現場なら役に立てます」と具体的に伝えることが重要です。

最初の見積依頼が来たときの対応も大切です。新規の取引先にとって、初回の見積は実力を見る場になります。金額だけでなく、拾いの精度、前提条件の整理、代替案の出し方、レスポンスの速さが印象を左右します。

関係性を壊さずに販路を広げるには、営業先を増やす前に「どの立ち位置なら歓迎されるか」を決めておく必要があります。

まとめ

既存取引先とつながっている大手に営業する場合、勢いだけで動くと関係性を傷つけてしまうことがあります。特に地域の内装業界では、協力会社同士の距離が近く、誰がどの仕事に入っているかも見えやすいものです。

一方で、だからといって新しい販路を諦める必要はありません。

大切なのは、既存取引先と競合する領域と、自社が補完できる領域を分けることです。工事一式でぶつかるのではなく、材料、家具、特殊木工、難しい納まりの相談など、自社の専門性が立つ入口を選ぶと、動きやすくなります。

「既存の関係を守ること」と「新しい取引先を開拓すること」は、どちらか一方ではありません。

自社の強みを細かく分解し、誰の仕事を奪うのではなく、どこを補えるのかを明確にすることが、建設業の販路開拓では大きな一歩になります。