前提

求人票は出せても、自社の魅力や現場の雰囲気が候補者に伝わっていない状態

ある建設会社では、職人採用を本格的に考え始めていました。ハローワークや求人媒体の利用経験はある。施工管理職を採用できたこともある。けれど、職人採用となると話は別です。

「どこから手をつけていいかわからない」という言葉もありました。これは多くの中小建設会社に共通する感覚だと思います。

求人票を出せば人が来る時代ではありません。給与や休日を書くだけでは、候補者は動きません。特に若手は、応募前に会社のホームページや採用ページを見ます。写真も見ます。社員の雰囲気も見ます。場合によっては、何度も行ったり来たりしながら不安を消そうとします。

そのときに情報が薄いと、せっかく興味を持っても離れてしまいます。

採用で最初に整えるべきなのは、自社が何者なのかを候補者に伝えることです。これはきれいな言葉を並べることではなく、現場の実態を候補者が判断できる形にすることです。

課題

「若くて元気な人がほしい」だけでは、求人原稿も採用ページも誰にも刺さらないこと

建設会社の採用でよくあるのが、「若くて元気で、まじめな人がほしい」という要望です。気持ちはよくわかります。人手が足りない中で、素直に頑張ってくれる若手が来てくれたらありがたいものです。

ただ、それをそのまま求人原稿にしても、候補者には響きません。なぜなら、候補者から見ると「自分に向けた言葉」になっていないからです。

相談の中でも、「自社が求める人間を決めなきゃ始まらない」という話がありました。ここが採用広報の出発点です。

たとえば、職人を採りたいといっても、求める人物像はいくつもあります。

  • 手を動かしてものづくりをしたい人
  • 一つの技能を深めたい人
  • 複数工程を覚えたい人
  • 将来は独立したい人
  • 地元で長く働きたい人
  • 施工管理にも興味がある人

誰に来てほしいのかが決まらないと、何を見せるべきかも決まりません。

さらに、会社側が自社の強みに気づいていないこともあります。約30年続けてきた実績、特定の住宅施工に関わってきた経験、現場で身につく技術、社員同士の距離感、資格支援、休みの取りやすさ。外から見ると魅力なのに、中にいると当たり前になっていることがあります。

つまり、採用広報で必要なのは、眠っている強みを掘り起こすことです。

背景

候補者は応募前後にホームページ、社員の声、職場環境を見て不安を消そうとしていること

今の候補者は、求人票だけを見て応募を決めません。求人原稿を見て興味を持ち、会社のホームページを見て、採用ページを見て、社員の写真や動画を見て、また求人票に戻る。そういう動きをします。

相談の中でも、「興味のある人は何度も往復する」という話がありました。これはとても大事な視点です。

求人票で良さそうに見えても、ホームページに採用情報がない。社員の顔が見えない。現場の雰囲気がわからない。そうなると、候補者は不安になります。

面接で社長と盛り上がっても、帰宅後に家族や友人から「その会社ってどんな会社なの?」と聞かれたとき、答えられない。そこで一気に不安になることもあります。

また、若手が気にするのは待遇だけではありません。もちろん給与は大切です。ただ、それ以外にも見ています。

  • 休みは実際に取れるのか
  • 有休を取りやすい雰囲気か
  • 分煙や喫煙環境はどうか
  • 現場の人は怖くないか
  • 教育体制はあるのか
  • 入社後に何を覚えるのか
  • 将来どんな姿になれるのか

相談の中で、喫煙環境の話が出たとき、経営側にかなり刺さっていました。昔は気にされにくかったことでも、今は候補者の判断材料になります。特に若手採用では、小さな職場環境の違和感が離脱理由になることがあります。

これは会社を過剰に飾るという話ではありません。むしろ逆です。良いところも、大変なところも、入社前にきちんと伝える。そうすることで、入社後の「聞いていた話と違う」を減らせます。

解決

社員インタビューで強みと不安要素を掘り起こし、求人票・採用ページ・動画に一貫して載せること

採用広報を整えるとき、最初にやるべきことは制作ではありません。いきなりホームページを作り直す、動画を撮る、求人広告を出す。その前に、社内の言葉を集めることが必要です。

有効なのは、経営者と社員へのヒアリングです。社員には難しいことを聞く必要はありません。過去、現在、未来を聞けば十分です。

たとえば、次のような質問です。

  • これまでどんな仕事をしてきたか
  • なぜこの会社に入ったのか
  • 今どんな仕事をしているのか
  • 楽しい仕事、大変な仕事は何か
  • なぜ続けているのか
  • 今後どうなりたいのか

この問いから、会社の本当の魅力が出てきます。「社長が思っている強み」と「社員が感じている強み」は違うことがあります。逆に、社員が不安に感じていることや、入社前に知りたかったことも見えてきます。

そこで集めた言葉を、求人票、採用ページ、社員インタビュー、動画、学校訪問の説明に展開します。

大切なのは、媒体ごとに言うことを変えすぎないことです。求人票では教育体制があると言っているのに、採用ページには何も書いていない。面接では休みが取れると言っているのに、社員インタビューでは誰も休みの話をしていない。こうしたズレは不信感につながります。

採用広報では、見せ方と実態をそろえることが重要です。

具体的には、次の順番で進めると整理しやすくなります。

  1. 求める人物像を決める
  2. 経営者と社員にヒアリングする
  3. 強み、不安要素、改善すべき点を整理する
  4. 求人票に載せる訴求を決める
  5. 採用ページに社員の声、教育体制、キャリアを載せる
  6. 写真や動画で現場の雰囲気を見せる
  7. 面接後のフォロー情報を用意する

特に職人採用では、教育体制と将来像を見せることが大切です。「入ったら何を覚えるのか」「どの資格を取るのか」「職人として稼げるのか」「施工管理に進めるのか」「独立もあり得るのか」。ここまで示せると、候補者は入社後を想像しやすくなります。

また、学校訪問をする場合も、ただ求人票を持っていくだけでは弱いです。先生に対して、「うちはこういう教育体制で育てます」「こういう資格を取れます」「こういうキャリアがあります」と説明できる状態にする必要があります。

写真や動画も、かっこよく作ることだけが目的ではありません。候補者が見たいのは、自分がここで働く姿を想像できる情報です。社員の表情、道具、現場の空気、休憩の雰囲気、若手の声。そうしたものがあるだけで、応募前の不安はかなり減ります。

もちろん、改善が必要な点もあります。休みの取り方、分煙、面接時の対応、現場での受け入れ方などです。採用広報は、外に見せるだけでなく、内側を整えるきっかけにもなります。

まとめ

求人を出しても職人が集まらないとき、媒体や条件だけを変えても成果が出にくいことがあります。そもそも候補者に、自社の魅力や入社後の姿が伝わっていないからです。

まずは、求める人物像を決める。次に、経営者と社員の言葉から強みを掘り起こす。そして、求人票、採用ページ、社員インタビュー、動画、学校訪問で一貫して伝える。

待遇は大切です。ただ、それだけでは選ばれません。教育体制、将来像、現場の雰囲気、休みや分煙のような日常の不安要素まで含めて見せることで、候補者は安心して一歩を踏み出せます。

採用広報は、会社をよく見せるための飾りではありません。自社の実態を候補者に伝わる形へ翻訳する仕事です。そこを整えることが、職人採用の第一歩になります。