前提

職人中心の会社でも、安全管理や段取りまで任せる場面が増えている現在地

ある専門工事会社では、社員の多くが現場で手を動かす職人です。社長自身も「うちは職人会社なんです」と話していました。

ただ、現場で求められる役割は少しずつ変わっています。昔のように「腕がよければそれで十分」とは言い切れず、安全管理、協力会社との段取り、元請けや発注者とのやり取り、書類対応など、職人にも管理寄りの動きが求められる場面が増えています。

社長としては、社員に細かく口を出し続けるよりも、ある程度任せたい。実際、「現場が始まったら任せるようにしている」というスタンスです。一方で、任せるためには職人一人ひとりが考え、資格や管理の力を身につけていく必要があります。

現場を任せたいなら、技術だけでなく“管理できる職人”をどう育てるかが経営課題になります。

課題

職人本人が「自分には資格や管理は無理」と感じてしまう壁

社長は社員に対して、技能士や施工管理技士などの国家資格取得をすすめています。理由は、資格そのものがすぐ現場で売上を生むからではありません。

「取ることに意味がある」「施工管理は財産になる」という考え方です。

特に施工管理技士の資格は、会社にとっても本人にとっても価値が大きいものです。公共工事や元請け案件、一定規模以上の現場を考えると、有資格者の存在は受注体制にも関わります。本人にとっても、将来どこに行っても仕事を続けやすくなる武器になります。

ただ、現場の職人からすると、試験や勉強に対する心理的ハードルは低くありません。

「学校を出ていないから」「自分たちには無理だと思ってしまう」

こうした感覚は、建設業の現場では珍しくありません。仕事の腕には自信があっても、机に向かう勉強や試験になると急に苦手意識が出る。そこに、資格取得が進まない根本があります。

背景

技術だけで食べていけた職人像から、管理もできる職人像への変化

社長が資格取得をすすめる背景には、単なる会社都合だけではない思いがあります。

現場で作業できるだけでなく、管理もできる職人になれば、本人の選択肢が広がります。結婚して家庭を持つ社員に対しても、「資格があれば家族も安心するのではないか」と話しているそうです。

一方で、職人として入社した人からすれば、「営業や管理をやりたければ、最初から職人にはなっていない」という本音もあります。ここを無視して、いきなり管理者のような役割を押しつけても、うまくいきません。

会社側が考えるべきなのは、職人を別人に変えることではなく、職人としての強みを残したまま、少しずつ管理の視点を足していくことです。

たとえば、いきなり現場全体を任せるのではなく、次のような小さな役割から始めることができます。

  • 朝礼でその日の危険ポイントを一つ共有する
  • 協力会社への連絡事項を整理する
  • 材料や工程の確認を任せる
  • 資格試験の申し込みや学習計画を一緒に組む

こうした積み重ねが、「自分にもできるかもしれない」という感覚につながります。

解決

資格取得をゴールにせず、任せる仕事と学ぶ理由をつなげる育成

職人の管理力を育てるには、「資格を取れ」と言うだけでは足りません。資格と日々の現場がどうつながるのかを、本人がイメージできる状態にすることが大切です。

たとえば、施工管理技士の勉強で出てくる安全、工程、品質、原価の考え方は、現場で毎日触れている内容です。試験のための知識として切り離すのではなく、「いつもやっている段取りを言葉にすると、こういうことになる」と整理してあげると、職人側の受け止め方も変わります。

また、社長や幹部が先に資格を取り、背中を見せることも有効です。実際、ある社長は自分自身で別分野の施工管理資格にも挑戦し、「自分でも取れたんだから、やればできる」と伝えていました。

ただし、根性論だけに寄せすぎると続きません。会社としては、次のような設計が必要です。

  • 誰に、どの資格を、いつまでに目指してもらうかを決める
  • 現場経験年数と受験資格を整理する
  • 勉強時間を個人任せにしすぎない
  • 資格取得後に任せる役割を明確にする
  • 手当や評価と連動させる

資格取得は“紙を取る活動”ではなく、職人が管理者へ一歩進むための育成プロセスです。

そして、管理力が育つと、安全管理や協力会社対応も社長一人に集中しにくくなります。現場で判断できる人が増えれば、会社として受けられる仕事の幅も広がります。

まとめ

職人中心の会社にとって、管理力の育成は簡単なテーマではありません。職人には職人の誇りがあり、勉強や資格に苦手意識を持つ人もいます。

それでも、施工管理や安全管理まで担える職人が増えれば、本人の将来にも、会社の受注体制にも大きな意味があります。

大切なのは、「資格を取れ」「管理もやれ」と一方的に言うことではなく、日々の現場業務と資格・管理の意味をつなげることです。小さく任せ、できたことを認め、次の役割へ広げていく。その積み重ねが、職人会社の次の強さになります。