売上の大半を耐震補強に頼る15名弱の専門工事会社が、公共工事の減少と週休化の中で次の工種を探している状況
関西圏に拠点を置く、15名弱の専門工事会社の話です。
主力は橋梁まわりの耐震補強工事。売上の大半を占めています。公共工事の二次下請けとして入ることが多く、元請けや一次会社からの受注で現場を回してきました。
以前は20名近い体制だった時期もありました。ところが、ここ数年で公共工事の出方が変わり、土曜日休みも増えました。結果として、稼働日が減り、売上も職人の収入も読みにくくなっています。
社長の言葉は率直でした。
「公共工事が少なくなって、土曜日も休みになると、売上も下がるし、従業員の給料もしんどくなるんです」
もうひとつ大きいのが、大手との競合です。
「今出たとしても、大手さんが入ってきて取っていくことが多くなってきたんです」
そこで出てきた選択肢が、橋梁の補修・保守工事です。
耐震補強は、耐震化されていないところを補強する仕事です。一方で補修・保守は、既存の橋を維持していく仕事です。部材によっては定期的な交換もあります。
社長はこう話していました。
「補修工事は、今ある橋をすべて補修するんでね。5年に1回取り替える部材もあったりする。だから保守工事は続くんです」
耐震補強だけでは先行きが読みにくい。だから、継続需要が見込める補修・保守へ広げたい。
この流れ自体は自然です。
ただし、ここで大事なのは、補修・保守を「近そうな仕事」とだけ見ないことです。橋梁という対象物は近くても、施工内容、元請構造、必要資格、繁忙期、大手との競合状況が変わります。
工種を広げる判断は、市場の追い風だけではなく、自社が無理なく入れる場所を見極めるところから始まります。
橋梁補修・保守は需要がありそうでも、耐震補強の延長だけでは入れない領域がある
橋梁補修・保守工事には、確かに追い風があります。
老朽化したインフラの維持管理は、今後もなくなりにくい分野です。橋梁、道路、河川まわりの構造物は、作って終わりではありません。点検し、補修し、部材を替え、長く使える状態に保つ必要があります。
この会社も、すでに一部では補修工事に関わっています。耐震補強以外の仕事として、解体や補修の案件も少しずつあります。
ただ、社長は手応えだけでなく、違和感も持っていました。
「同じような耐震って言いながらも、そこに参戦できるかっていうと、やっぱりちょっと工種が違うんです」
この一言が、とても大事です。
橋梁関連だからといって、すべてが同じではありません。耐震補強で培った技術が活きる場面はあります。アンカー、コンクリート構造物への施工、現場での安全管理、公共工事の書類対応。これらは強みです。
一方で、橋面のやり替え、床版、防水、伸縮装置、塗装、断面修復、剥落防止、支承、足場、交通規制など、補修・保守の中身は細かく分かれます。
社長もこう話していました。
「建設業も工種があまりにも多すぎるんでね」
橋梁補修・保守に広げるときの課題は、“需要があるか”ではなく、“自社の耐震補強技術と近い仕事はどこか”を見分けることです。
さらに、補修・保守は大手ゼネコンが強い領域もあります。
「道路の車が走っている部分のやり替えはどんどん出ているんですけど、そこは大手ゼネコンが強すぎてね」
需要が大きい市場ほど、大手も入ります。大手が元請けで受け、一次会社、専門会社へ流れていく構造もあります。中小の専門工事会社がいきなり真正面から入るには、少し重い場合があります。
そのため、狙い方を間違えると、営業に力を使った割に受注につながりにくくなります。仮に受注できても、資格者や施工管理体制が足りず、今の現場にしわ寄せが出ることもあります。
補修・保守は魅力のある市場ですが、入る場所を間違えると、現場体制にも既存取引にも負荷がかかります。
公共工事の波、土曜休み、二次下請け構造が重なり、年間を通した安定がつくりにくくなっている
この会社が補修・保守に目を向けている背景には、単なる新規事業意欲だけではありません。
一番の理由は、年間の安定です。
社長はこう言っていました。
「僕らは安定がないんでね。今の時期から暇になったりするんで、1年通して安定すれば、もうちょっと会社らしくなれるんですけど」
耐震補強工事は、受けられると利益が出ます。土曜日の稼働や職人の収入も確保しやすくなります。けれど、受注が薄くなると、同業者の応援仕事に回ることも増えます。
「同業者のお手伝いをする感じになってきてるんで、利益が少ないんです」
利益が薄いと、出た分でしか払えません。給料を上げる余地も小さくなります。週休化で稼働日が減ると、日給月給の職人には収入面の影響が出やすくなります。
その結果、人の問題にもつながります。
ただし、ここで単純に「採用しよう」とはなりません。社長はかなり現実的に見ています。
「まずは仕事を取らないとですね。採用にお金をかけるよりも、まず仕事を取って流れを作って、外注を使いながら増やせると思ったら従業員を増やす方が現実的かなと」
この順番は、多くの専門工事会社にとって自然です。
人を先に増やしても、仕事が安定しなければ固定費が重くなります。一方で、仕事を取りに行きすぎると、今の人数では回らない。既存のお客さんにも迷惑をかけるかもしれません。
社長もそこを気にしていました。
「新規のお客さんで取り入れて、最初は売り込まないといけない。そこに力を入れると、今のお客さんに迷惑がかかるなと」
この会社の悩みは、工種転換だけではなく、“受注を増やしたいが、今の体制を崩したくない”という現実的なバランスにあります。
もうひとつ、商流の問題もあります。
この会社は二次下請けで入ることが多く、一次会社との関係があります。新しい取引先を開拓するにしても、既存の一次会社とぶつかる可能性があります。
補修・保守の仕事を取るには、元請け、一次会社、専門会社のどこに入るかを考える必要があります。いきなり大手ゼネコンへ行けばよいわけではありません。
社長は、過去に大手につなぐという提案を受けたこともあるようです。ただ、こう話していました。
「いきなりそこにつながっても、僕らには戦略外やなっていう気もするんです。いきなり大きい仕事をやるよと言われても、対応しきれないのは分かってるんで」
この感覚はとても大切です。
販路を広げるときは、“会える相手”よりも、“受けても崩れない相手”を選ぶ必要があります。
補修・保守へ広げる前に、自社技術に近い施工範囲と入れる商流を小さく切り出す
橋梁補修・保守へ広げるなら、まずは市場全体を取りに行くのではなく、自社に近い場所を切り出すのが現実的です。
この会社の場合、すでに強みがあります。
公共工事の書類対応はできています。複数の施工管理サイトにも対応しています。橋梁系の現場経験もあります。耐震補強でコンクリート構造物に関わってきた蓄積もあります。
最初に見るべきは、“補修・保守工事の中で、今の耐震補強の技術と隣り合っている作業は何か”です。
たとえば、次のように整理できます。
- 今の職人が対応しやすい作業か
- 既存の工具・機材・協力会社で対応できるか
- 追加で必要な資格者は誰か
- 施工管理者を常駐させる必要があるか
- 元請け・一次会社のどの商流なら無理なく入れるか
- 秋から春の河川まわりの繁忙期と、夏場の空き時期をどう埋めるか
- 既存取引先の仕事に支障が出ない受注量か
ここで大事なのは、補修・保守を一括りにしないことです。
橋梁補修といっても、河川上の工事、高速道路、一般道、橋面、桁下、付属物、部材交換では、条件が変わります。繁忙期も変わります。
社長は、河川まわりの季節性にも触れていました。
「保守工事をしていると、繁忙期は川の仕事ができる秋から春までで、その後は川の上ができないんで。その辺をどうやって高速道路とかで補えたらいいんですけど、簡単には取れないんです」
ここから考えると、いきなり高速道路案件を狙うよりも、まずは既存の耐震補強に近い補修案件、または既存の一次会社が取り始めている保守案件の中に入れるかを見た方が進めやすいです。
大きな市場へ飛び込むより、“既存の延長で入れる小さな補修案件”を積み上げる方が、体制を崩しにくくなります。
進め方としては、次の順番が現実的です。
まず、過去2〜3年で関わった現場を洗い出します。耐震補強の中に、補修・保守に近い作業が混ざっていなかったかを見ます。
次に、既存取引先へ聞きます。
「保守工事の中で、うちが手伝える耐震寄りの作業はないか」
この聞き方なら、いきなり新規営業を強くかけるよりも自然です。既存の一次会社との関係も崩しにくくなります。
そのうえで、未取引の会社を探す場合も、いきなりスーパーゼネコンではなく、地域の土木会社、橋梁補修に関わる一次会社、既存商流とぶつかりにくい会社から見ていく方がよいです。
営業先は“大きい会社”からではなく、“自社の施工範囲を理解してくれて、小さく試せる会社”から選ぶのが安全です。
資格者の確認も欠かせません。
補修・保守に入ると、施工管理者や資格者の配置が必要になる場面があります。社長もそこを気にしていました。
「そっち面でやるにしても、今度は施工管理の資格者が要ったりするんで」
受注してから資格者が足りないと、外注に頼ることになります。外注で回せても、品質と安全管理を自社で見切れなければ、既存取引先の信頼にも影響します。
そのため、最初の受注目標は売上だけで置かない方がよいです。
- 自社職人でどこまでできたか
- 外注比率はどの程度だったか
- 施工管理の負荷はどれくらいか
- 既存現場への影響はなかったか
- 粗利は耐震補強と比べてどうか
この5点を見ると、次に広げるべきか、まだ試す段階かが判断しやすくなります。
補修・保守への参入は、一気に工種転換する話ではなく、既存技術に近い案件で“試して、測って、残す”動きです。
まとめ
耐震補強工事を主力にしてきた専門工事会社にとって、橋梁補修・保守工事は魅力のある選択肢です。
既存インフラの維持管理は続きます。部材交換や補修は定期的に発生します。耐震補強よりも、長期的に見通しを立てやすい面もあります。
ただし、橋梁という対象が同じでも、工種は同じではありません。大手が強い領域もあります。資格者が必要な場面もあります。河川や高速道路など、季節性や施工条件も変わります。
大事なのは、“補修・保守は伸びる”で止めず、“自社がどの範囲なら無理なく入れるか”まで分解することです。
特に、15名弱の体制で既存取引先を大切にしながら広げるなら、次の順番が現実的です。
- 耐震補強に近い補修作業を洗い出す
- 既存取引先に、保守案件の中で入れる余地を聞く
- 必要資格者と施工管理負荷を確認する
- 小さな案件で外注比率と粗利を測る
- 既存現場に影響が出ない範囲で広げる
工種を広げる目的は、単に売上を増やすことではなく、年間を通して会社と職人の稼働を安定させることです。
その目的から逆算すると、派手な新規開拓よりも、近い工事を小さく取り、実績を積み、商流を少しずつ広げる方が合う会社も多いはずです。
補修・保守へ広げる前に、自社の入れる工事と商流を一緒に整理する
「うちの耐震補強の経験は、補修・保守のどこに活かせるのか」
「新しい取引先を開拓したいが、既存のお客さんとの関係も崩したくない」
「資格者や職人の体制を考えると、どこまで受けていいのか分からない」
こうした段階では、いきなり営業先を増やすよりも、まず自社の施工範囲、入れる商流、季節ごとの稼働、外注で補える部分を整理することが役に立ちます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。販路拡大や元請け開拓も、会社の体制や既存取引との関係を見ながら進めます。
「まだ具体的に何を頼むか決まっていない」「うちの場合はどう考えるべきかを整理したい」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、まずは状況の整理先としてご活用ください。































