首都圏で防水工事を手がける8名規模の会社が、売上の9割以上を長年の主要取引先に支えられている状態
首都圏でマンションや学校などの防水工事を手がける、8名規模の専門工事会社の話です。協力会社も20名弱ほどいて、アスファルト防水、ウレタン防水、シーリングなどを中心に動いています。
売上は年商1億円台前半。手間受けが中心で、毎年少しずつ伸びている状態です。民間工事が多く、夏休みには学校案件も入ります。
特徴的なのは、売上の9割以上が、独立前から付き合いのある主要取引先1社から来ていることです。社長自身も「昔からの付き合いの業者さんから自然に仕事が来ている感じです」と話していました。
この状態は、決して悪いことではありません。むしろ、長年仕事が切れずに続いているということは、施工品質や対応力への信頼があるということです。
一方で、社長の中には「今の関係を崩したいわけではないが、2割程度なら外部から入れてもいい」という考えもありました。ここに、多くの専門工事会社が抱える現実的なテーマがあります。
主要取引先との信頼を守りながら、売上の一部だけを別ルートで作るにはどう考えるか。 いきなり大きく変える話ではなく、会社の安定度を少し上げるための整理です。
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1社依存を解消したいのではなく、既存取引先に角を立てずに2割の別商流を作りたい状態
この会社の悩みは、「主要取引先から離れたい」という話ではありません。むしろ、今の取引先との関係は深く、今後も継続したいという前提があります。
そのため、課題は単純な営業強化ではありません。
本当の課題は、既存取引先の商流を飛び越えず、競合せず、角が立たない形で、別の売上ルートを作ることです。
社長は、既存取引先の先にある元請や管理会社に直接入り込むことについては、明確に慎重でした。「そこは今の取引先から来ているので、直接取るつもりはない」という温度感です。
これは建設業ではかなり大事な感覚です。目先の利益だけを見て商流を飛び越えると、長年積み上げた信頼を失う可能性があります。特に専門工事会社の場合、紹介、独立前からのつながり、メーカーや元請との関係が重なっているため、表面上は別会社に見えても、実際には人脈がつながっていることが少なくありません。
また、社長は「動こうと思えば取れる自信はある」と話していました。つまり、営業力がまったくないわけではありません。実績もあります。
それでも動いていない理由は、単に営業先がないからではなく、取るべき相手を間違えると、今の仕事のやりやすさや品質の守り方が崩れるからです。
独立前からの関係と元請商流の固定化が、安定と依存を同時に生んでいる
1社依存は、弱い会社だから起きるとは限りません。むしろ、建設業では信頼関係が強い会社ほど、自然と特定の取引先に売上が寄ることがあります。
今回の会社も、独立前からの付き合いがそのまま続き、現在の売上の大半を支えています。主要取引先は大手や準大手、管理会社、メーカー関係にも顔が広く、さまざまな商流の案件を持っています。
そのため、表面的には複数の元請・管理会社の仕事をしていても、実際の入口は1社に集約されています。
この構造には良い面があります。
- 営業に大きな時間をかけなくても仕事が来る
- 施工内容や段取りの癖が分かっている
- 信頼関係があるため、現場が進めやすい
- 会社の規模に合わせて無理なく受けやすい
一方で、売上の入口が1社に偏るため、自社の努力だけでは売上の振れ幅をコントロールしにくいという面もあります。
社長自身も、急成長を強く望んでいるわけではありません。3年後、5年後のイメージとしては、社員を10名ほどにし、売上は2億円前後を目指す程度。現状維持を大事にしながら、少しずつ育てたいという考えです。
この「急拡大ではないが、少し余白を持ちたい」という段階では、売上の50対50分散を目指す必要はありません。
むしろ、既存取引先8割、別ルート2割くらいの比率が、関係性と安定性のバランスを取りやすいと考えられます。
背景としてもう一つ重要なのは、取引先選びにおいて利益率だけを見ていないことです。
社長は、新しい取引先を考えるうえで「利益率も大事だが、やりやすさも大事」と話していました。また、付き合いにくい相手については「予算が低い割に、手を抜く工程が多い。しっかりやりたいところを抜きたくない」とも話しています。
ここには、専門工事会社としての大事な判断軸があります。
新しい仕事は、売上になるかだけでなく、自社の品質を守れる相手かどうかで見る必要があります。
いきなり50対50を目指さず、既存商流と競合しない2割の入口を設計する
取引先分散は、売上比率を一気に変えるよりも、まず「どの商流なら安全に増やせるか」を整理することが先です。
今回のように主要取引先との関係が深い場合、最初に確認したいのは次の4点です。
1つ目は、既存取引先の商流と重ならないかです。
主要取引先がすでに関係を持っている元請、管理会社、メーカー経由の案件に直接入ろうとすると、意図せず角が立つことがあります。建設業では、表に見える契約関係以上に、人のつながりが効いています。
そのため、新しい入口を作るなら、まずは既存取引先が強く握っている先を避ける。ここを曖昧にしたまま動くと、営業活動そのものがリスクになります。
2つ目は、自社の施工品質を守れる予算感かです。
予算が低すぎる案件は、現場にしわ寄せが来ます。工期、材料、手順、検査対応のどこかで無理が出ると、結果的に自社の評判を傷つけます。
特に防水工事は、見た目だけでは品質差がすぐに分かりにくい一方で、数年後の不具合で評価が決まる仕事です。だからこそ、安いだけの案件を追いかけるのは慎重でよいはずです。
3つ目は、担当者や会社とのやりやすさです。
同じ元請・管理会社でも、担当者によって現場の進めやすさは変わります。社長も「担当者による」と話していました。これは現場感としてかなり実際に近い判断です。
新しい取引先を探すときは、会社名の大きさだけでなく、打ち合わせの進め方、見積もりの見方、工程調整の柔軟さ、品質への理解を確認する必要があります。
4つ目は、自社の手間が増えすぎないかです。
社長は「多少の規模なら横のつながりで動ける。ただ、増えると自分の労力が増えるから今はやっていない」と話していました。
これは、取引先分散で見落とされやすいポイントです。新規取引先を増やすと、見積もり、現調、打ち合わせ、請求、工程調整、品質説明など、社長や番頭クラスの負担が増えます。
売上2割を増やすために、社長の時間が2割以上取られるなら、分散の意味が薄くなることもあります。
進め方としては、まず候補先を広げすぎないことです。たとえば、既存取引先と競合しにくい独立系の管理会社、防水工事を専門に扱う同業・関連業者、地域の修繕案件を持つ会社などから、数社だけを候補にします。
そのうえで、次のような観点で優先順位をつけます。
- 既存取引先と商流が重なりにくい
- 防水工事への理解がある
- 予算感が極端に低くない
- 品質を守る工程に理解がある
- 年間で小さくても継続案件が見込める
- 社長や現場責任者の手間が増えすぎない
最初から大きな案件を取りにいく必要はありません。むしろ、最初の目的は売上拡大ではなく、相性のよい別ルートを試すことです。
年間売上の5%程度から始め、現場対応や支払い、打ち合わせの相性を見ながら、問題がなければ10%、将来的に20%へ広げる。これくらいの進め方が、既存取引先との関係を守りながら動きやすい形です。
まとめ
売上の9割以上を1社に依存している状態は、必ずしも悪い状態ではありません。長年の信頼関係があり、仕事が安定して入り、現場も進めやすいのであれば、それは会社の強みです。
ただし、今後も社員を少しずつ増やし、売上を無理なく伸ばしていくなら、主要取引先を大事にしたまま、2割程度の別商流を持つことは現実的な選択肢になります。
その際に大切なのは、いきなり大きな元請や有名企業を狙うことではありません。
既存取引先と競合しないこと、品質を守れる予算感であること、現場がやりやすいこと、社長の手間が増えすぎないこと。 この4つを見ながら、相性のよい入口を少しずつ作ることです。
取引先分散は、攻めの営業というより、会社を安定させるための設計に近いものです。今の信頼関係を崩さず、必要な分だけ外に開いていく。そのくらいの温度感が、中小の専門工事会社には合いやすいのではないでしょうか。
うちの会社ならどの商流を広げるべきかを整理する
取引先を分散したいと思っても、「どこに声をかけるべきか」「既存取引先に角が立たないか」「営業に動くタイミングは今なのか」は、会社ごとに判断が分かれます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、販路拡大、人材確保、組織づくり、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。
まだ具体的に動く段階でなくても、「うちの場合は2割の別商流を作るなら、どこから考えるべきか」を整理するところからご相談いただけます。無理な営業はいたしませんので、必要なタイミングで情報交換の場としてご活用ください。






























