首都圏西部の大工工事会社で、18歳の若手を迎えながら育成の受け皿を整えようとしている状況
首都圏西部で大工工事を中心に手がける、ある専門工事会社の話です。会社として高卒採用に力を入れ始め、今年も18歳の若手が入社しました。求人条件としては初任給や休日、寮の整備なども見直しながら、若い人に選ばれる会社にしていこうとしている段階です。
一方で、採用の入口を整えるほど、次に大きくなるのが「入社後にどう育てるか」という問題です。
この会社では、若手を受け入れる現場の一部を、社員だけでなく外部の親方や協力業者が担っています。社内だけで完結する育成ではなく、現場を動かしている親方たちにも、若手育成に関わってもらう必要があります。
社長からは、こんな話が出ていました。
「条件次第では、親方側にも受け入れる気持ちが出てきているようです。うちの協力業者さんは、30代、40代の比較的若い親方が揃っているので、そこをアピールできるのではないかと思っています」
これは前向きな兆しです。高齢の職人だけに頼るのではなく、30代、40代の若い親方を育成側に巻き込める可能性があるからです。
ただし、ここで大事なのは、親方に「よろしくお願いします」と預けるだけでは、育成体制にはならないという点です。若手を採る会社側が、何を、どの順番で、どこまで覚えてもらうのかを持っていなければ、育つかどうかは現場ごとの相性に左右されてしまいます。
若手を現場に入れるだけでは、技能習得が親方任せになり定着も戦力化も読みにくくなる
建設業の若手育成で起きやすいのは、採用した後に「現場で見て覚えてもらう」状態になることです。
もちろん、現場でしか学べないことは多くあります。道具の使い方、材料の扱い、段取り、先輩との呼吸、施主や元請けとの距離感。机上の研修だけで職人が育つわけではありません。
ただ、現場に入れるだけでは、若手から見ると何を覚えればよいのかが見えにくくなります。親方から見ても、どこまで教えるべきかが曖昧になります。
特に外部の親方や協力業者が育成を担う場合、次のようなズレが起きやすくなります。
- 親方ごとに教える順番が違う
- 若手に任せる作業の範囲が現場ごとに変わる
- 危ないから、忙しいからという理由で簡単な補助作業に偏る
- 会社側が、若手の成長度合いを把握しきれない
- 若手本人が「自分は成長している」と感じにくい
この状態が続くと、本人の意欲が落ちるだけでなく、会社としても採用した若手がいつ戦力になるのかを見通しにくい状態になります。
実際、この会社でも「採用という入口だけでなく、育成という課題も一緒に解決していく必要がある」という認識が共有されていました。さらに、「受け入れる側が社員ではなく外部の親方であるなら、その方々に人を育てる意識をどう持ってもらうかが大事だ」という話も出ています。
ここが本質です。
若手が育たない原因は、若手の根性や親方の教え方だけではありません。会社側に、育成を設計する役割が残っているということです。
30代・40代の親方がいても、会社側に育成方針と作業分解がなければ強みになりきらない
この会社には、育成体制を作るうえで良い材料があります。協力業者側に30代、40代の比較的若い親方がいて、条件次第では若手の受け入れにも前向きになり始めていることです。
若手にとって、年齢が近い親方や職人の存在は大きいです。18歳で入社したばかりの社員から見ると、60代の熟練職人は尊敬の対象である一方、少し遠い存在にもなりがちです。30代、40代の親方であれば、仕事の厳しさを伝えながらも、距離感としては近く感じやすい面があります。
ただし、若い親方がいるだけでは十分ではありません。
親方は現場を納めることが本業です。工期、品質、安全、元請けとの調整を抱えながら、若手を育てることになります。そこに会社からの設計がないまま「この子をお願いします」と渡されると、親方側も困ります。
たとえば、大工として育てるのか。大工を入口にしながら、型枠やタイルなど複数の仕事も経験させるのか。将来的には工事担当や監督寄りの動きも見据えるのか。
この会社でも、高卒向けには「大工」と、複数の職務を経験する「マルチタスク型」のような考え方を分けて検討していました。入口は大工であっても、本人の成長や適性によって次の道を広げる発想です。
ここで必要になるのが、作業内容を丸ごと分解することです。
「一人前の大工になる」では大きすぎます。親方の頭の中にある仕事を、会社側が一緒に言語化していく必要があります。
たとえば、若手が最初に覚えるべきことは何か。道具の名前や材料運びなのか、現場での安全行動なのか、墨出しの補助なのか、片付けや養生なのか。次に任せる作業は何か。どの状態になれば、次の工程に進めるのか。
この分解がないと、若手は「ずっと雑用をしている」と感じることがあります。親方は「まだ任せられない」と感じ続けます。会社は「なぜ育たないのか」が見えません。
逆に、分解できれば、数年かかる技能習得を少しずつ短縮できます。実際に話の中でも、通常であれば4年かかるような習得を、会社側の育成スタイルによって1年から2年で覚えられる部分を増やしていくという方向性が出ていました。
大事なのは、無理に一人前を急がせることではありません。時間がかかる技能だからこそ、覚える順番を整え、本人にも親方にも見える形にすることです。
親方任せにしないために、作業を分解し、1年目から段階別の育成カリキュラムを作る
若手育成を親方任せにしないためには、まず会社側が育成の骨組みを持つことです。難しい制度をいきなり作る必要はありません。最初は、現場で実際にやっている仕事を棚卸しするところからで十分です。
進め方としては、次の順番が現実的です。
1. 親方の仕事を「見習いに教えられる単位」まで分解する
最初にやるべきことは、親方の仕事を分解することです。
大工工事であれば、「現場に入る」「材料を運ぶ」「道具を準備する」「片付ける」「寸法を見る」「切る」「取り付ける」といった作業があります。ただし、これを会社ごとの実際の現場に合わせて整理する必要があります。
ポイントは、親方が普段なんとなく判断していることを言葉にすることです。
どの作業は入社1か月目でも任せられるのか。どの作業は危険があるから見学から始めるのか。どの作業は3か月後、半年後、1年後を目安にするのか。
ここを整理すると、親方も教えやすくなります。若手も「次はこれができるようになればいい」とわかります。
2. 1年目・2年目・3年目の到達目標を決める
次に、年次ごとの到達目標を決めます。
たとえば、1年目は安全、道具、材料、現場の基本動作を中心にする。2年目は一部の作業を任せられる状態を目指す。3年目以降は、本人の適性に応じて大工を深めるのか、複数職種を経験するのか、工事担当寄りに進むのかを考える。
ここで大事なのは、すべての若手を同じ型にはめないことです。この会社でも、大工一本で進みたい若手と、大工以外も経験してチャレンジしたい若手の両方を想定していました。
入口は同じでも、成長に応じて道を分ける。これができると、若手にとっても会社にとっても選択肢が広がります。
3. 受け入れる親方に「何を教える役割か」を明確に伝える
外部の親方に育成をお願いする場合、単に「面倒を見てください」ではなく、役割を具体化する必要があります。
たとえば、ある親方には現場での基本動作を見てもらう。別の親方には造作の考え方を見せてもらう。30代、40代の若い親方には、若手との距離感を活かして日々の声かけや仕事の面白さを伝えてもらう。
このように、親方ごとに役割を整理すると、協力を得やすくなります。
また、親方側にもメリットや配慮が必要です。若手を育てるには時間がかかります。手間も増えます。だからこそ、会社として条件面や現場の組み方を検討し、育成に協力してくれる親方をきちんと大事にする設計が欠かせません。
4. 若手本人にも「育成カリキュラム」を見せる
育成カリキュラムは、親方や会社だけが持つものではありません。若手本人にも見せた方がよいです。
18歳で建設業に入る若手は、最初から仕事の全体像を理解しているわけではありません。大工という仕事に興味があっても、何年で何ができるようになるのか、どこまでいけば一人前に近づくのかは見えにくいものです。
そこで、1年目に覚えること、半年ごとの目安、できるようになったら任されることを見せるだけで、日々の作業の意味が変わります。
高校の先生や親御さんも、給与や休日だけでなく、入社後にどう育ててもらえるかを見ています。求人票や会社案内に育成カリキュラムを載せる意味は、採用のためだけではありません。会社自身が、若手を育てる覚悟を持つことにもつながります。
5. 月1回でもよいので、会社・親方・若手の成長確認を行う
カリキュラムを作って終わりにすると、現場では使われなくなります。大切なのは、短い時間でも振り返る場を持つことです。
毎月でなくても、最初の半年はこまめに確認した方がよいです。若手本人が何に困っているか。親方がどこまで任せられると感じているか。会社として次にどの現場を経験させるべきか。
ここを確認すると、若手のつまずきが早く見えます。親方の負担も見えます。会社として、次の配置や教え方を調整できます。
若手育成は、根性論だけでは続きません。現場の感覚を会社が拾い、次の一手に変える仕組みが必要です。
まとめ
若手を採用しても育たないと感じるとき、原因は若手本人だけにあるわけではありません。現場に入れた後の育成が、親方や協力業者の個人差に任されていることが多くあります。
特に、外部の親方が育成に関わる会社では、会社側が育成方針を持つことが大切です。
大工として育てるのか。複数の職務を経験させるのか。将来的に工事担当や監督寄りの道も見据えるのか。そのうえで、親方の仕事を分解し、1年目、2年目、3年目の到達目標を作る。
30代、40代の若い親方がいる会社であれば、それは大きな強みになります。ただし、強みとして活かすには、親方に任せるのではなく、親方と一緒に育てる設計が必要です。
若手育成は、一気に完成させるものではありません。まずは現場の仕事を分解する。次に、若手が段階的に覚える順番を決める。そして、親方と会社で成長を確認する。
この順番で進めるだけでも、採用した若手が「自分はここで育っていける」と感じやすくなります。結果として、定着と戦力化の見通しも立てやすくなります。
自社の若手育成を親方任せにしないために、まず現場の仕事を整理する
若手を採りたい、採った若手を育てたいと思っていても、「どこから育成体制を作ればよいかわからない」という会社は少なくありません。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。若手育成についても、現場の作業分解、親方や協力業者の巻き込み方、求人票や会社案内に載せる育成カリキュラムの整理まで、会社の状況に合わせて一緒に考えることができます。
「うちの場合は、大工一本で育てるべきか」「協力業者にどこまで育成をお願いしてよいのか」「若手向けのカリキュラムをどう作ればよいのか」といった段階でも大丈夫です。
ものづくりに集中できる建設業界へ向けて、無理な営業はいたしませんので、まずは状況整理の場としてご活用ください。
































