10名規模の専門工事会社が中途採用を月給制で出し直そうとしていた
東海エリアのある専門工事会社では、これまでの採用条件を見直し、中途採用の求人票を作り直していました。
会社の規模は、代表と家族を含めて10名ほど。正社員の職人が数名、協力関係に近い職人も出入りしている、いわゆる小回りの利く専門工事会社です。現場は8時から17時、休憩は120分。残業は多くなく、月平均で見ると5時間前後に収まる感覚がありました。
一方で、給与体系は少し移行期にありました。既存の職人には日給制の考え方が残っており、新しく採用する人には月給制で条件を出そうとしていたのです。
このときに出てきたのが、経験者と未経験者を同じ求人票で募集してよいのかという論点でした。
代表の感覚としては、経験者といっても一括りにはできません。
「経験だけで、実は実力がない人もいるんですよ」
この言葉に、職人採用の難しさがよく出ています。年数だけ見れば経験者でも、現場でどこまで任せられるかは別です。逆に、普通自動車免許がなくても、施工スキルが高い人はいます。
だからこそ求人票では、ただ「経験者歓迎」「未経験者歓迎」と書くだけでは足りません。どの技能に対して、いくら払うのか。どの前提で育てるのか。そこまで分けておく必要があります。
経験者と未経験者を一枚にまとめるほど「誰に何を期待する求人か」が見えにくくなる
中小の建設会社では、求人票を増やすこと自体に手間がかかります。そのため、経験者も未経験者も一つの求人票にまとめて、「未経験可」「経験者優遇」「月給〇万円〜〇万円」と広めに出したくなることがあります。
ただ、この出し方にはミスマッチが起きやすい面があります。
たとえば、経験者向けの給与レンジとして月給28万円〜60万円と出したとします。これは、現場で一定以上任せられる人を想定した金額です。
しかし、同じ求人票に「未経験歓迎」と書いてあると、未経験者から見ると「自分も入社後すぐにその水準を狙えるのか」と受け取られる可能性があります。反対に、経験者から見ると、未経験者と同じ求人に載っていることで、求められる技能レベルが読みづらくなります。
この会社でも、給与下限をどこに置くかが大きな論点になりました。
当初は経験者の下限を月給30万円前後で考えていましたが、代表は日給換算で考え直しました。
「1万4千円は、現場ならやれる人の金額なんですよ。1万3千円なら、セカンドでやれれば十分払えるかなという感覚です」
この整理は非常に大事です。
求人票の給与下限は、応募者を集めるための飾りではなく、会社が最低限任せたい役割の値段です。下限を高く見せすぎると、面接時に「この人にはそこまで払えない」という説明が増えます。逆に低すぎると、本当に来てほしい経験者に届きません。
未経験者の場合は、さらに前提が違います。最初から現場を任せるのではなく、安全、道具、段取り、現場での動き方を覚えてもらうところから始まります。給与も、教育前提の水準として設計する必要があります。
つまり、経験者と未経験者を同じ求人票にまとめると、技能・給与・教育の前提が一枚の中で混ざってしまうのです。
職人採用では経験年数だけでは実力が読めず、免許・休日・残業も会社ごとの前提が違う
この会社の求人票づくりで印象的だったのは、条件を一つずつ確認するたびに、現場の実態が出てきたことです。
まず、資格や免許です。
普通自動車免許を必須にするかどうかを確認したところ、代表は「必須ではない」と判断しました。理由はシンプルで、建設業の現場では、免許がないからといって必ずしも戦力外とは限らないからです。
「免許を取り消されたことがある人でも、施工のスキルが高い人はいますから」
もちろん、運転が必要な会社であれば普通免許は必須にすべきです。ただ、この会社では、運転よりも現場での技能を重視したい。そこで、普通自動車免許は必須ではなく「あれば尚可」にする方向になりました。
次に、年齢設定です。
若手を育てたい場合、求人票上で年齢制限を入れるには理由が必要です。この会社では、長期的なキャリア形成や技能承継の観点から、40歳以下を一つの目安にする考えがありました。
ここで大切なのは、年齢をなんとなく絞るのではなく、育成枠なのか、即戦力枠なのかに合わせて理由を持つことです。未経験者を育てる求人なら、キャリア形成の説明がしやすくなります。一方、経験者求人で年齢より技能を重視するなら、年齢制限を強く出しすぎないほうがよい場合もあります。
休日や残業も、求人票では大きな判断材料になります。
この会社では、新しく出す月給制の求人について、年間休日110日を前提にし、休日は会社カレンダーによる形で整理しました。残業は実態として多くなく、月平均5時間程度。固定残業代については、月給制で出すなら無理に入れず、発生した分を別途考える方向になりました。
ここも、経験者・未経験者を分けるうえで見落とせない点です。
給与だけ変えて、休日や残業の前提が曖昧なままだと、応募者は入社後の働き方を想像できません。特に未経験者は、建設業の働き方そのものに不安を持ちやすいため、勤務時間・休日・残業時間はできるだけ具体的に書くほうが安心につながります。
そしてもう一つ、既存社員との関係もあります。
この会社では、既存社員には日給制に近い運用があり、新しく採用する人には月給制で出そうとしていました。代表は「今の社員と、これから採る人を完全に切り離して考えるのは無理がある」と感じていました。
これは多くの中小建設会社で起こります。新しい求人票だけをきれいに整えても、社内の実態とズレすぎると、入社後の説明が苦しくなります。
求人票は外向きの資料ですが、同時に、社内の給与・評価・休日ルールを映す鏡でもあります。
求人票は「即戦力枠」と「育成枠」に分け、給与下限を任せたい役割から逆算する
経験者と未経験者を分けるときは、まず「求人票を何枚にするか」から考えるより、採りたい人材の前提を分けるところから始めると整理しやすくなります。
この会社では、結果として大きく次のような分け方が見えてきました。
- 経験者向けの正社員求人
- 未経験者向けの正社員求人
- 制度利用などを想定した契約社員求人
主軸になるのは、経験者向けと未経験者向けの2つです。
経験者向けは「どこまで現場を任せるか」を先に決める
経験者求人では、職務内容を広く書きすぎないことが大切です。
単に「現場作業」と書くのではなく、たとえば次のように、期待する役割を少し具体化します。
- 専門工事の現場作業
- 現場での段取り、安全確認、資材や道具の準備
- 経験に応じた後輩・未経験者のフォロー
- 資格や技能に応じた作業範囲の拡大
ここでのポイントは、経験年数ではなく任せたい仕事で書くことです。
3年経験がある人でも、指示待ち中心の人もいます。10年経験があっても、自社のやり方に合わない人もいます。反対に、年数は短くても現場での勘がよく、セカンドとして十分動ける人もいます。
給与下限も、この役割から逆算します。
この会社では、経験者の下限を日給換算で1万3千円程度と見立て、月平均21.6日で計算して、月給28万円前後に設定する方向になりました。上限は、高い技能や役割を担える人を想定して、60万円まで幅を持たせる考えです。
ただし、上限を高く書く場合は、面接での説明が欠かせません。
「誰でもすぐに60万円」ではなく、経験、技能、資格、現場での任せ方、会社への貢献によって変わる。ここを面接で自然に説明できる状態にしておく必要があります。
未経験者向けは「育てる前提」を求人票に出す
未経験者求人では、経験者と同じ言葉を使わないほうがよいです。
未経験者に対して、いきなり「現場管理」「段取り」「後輩指導」と書いても、自分が何をするのか想像しづらくなります。最初は、次のような表現のほうが伝わりやすくなります。
- 道具や材料の名前を覚える
- 先輩と一緒に現場に入り、作業の流れを覚える
- 安全ルールや現場での動き方を身につける
- 必要に応じて資格取得を目指す
給与も、教育前提で設計します。
この会社では、18歳未経験の入口を日給換算1万円程度、月給で21.6万円前後とし、少し経験がある人や成長度合いに応じて25.9万円前後までを一つの幅として考えていました。
経験者向けの月給28万円〜60万円とは、明確に前提が違います。
この差を求人票で分けておくことで、応募者にも伝わります。
経験者は「すでに何を任せられるか」で見る。未経験者は「これから何を覚えていくか」で見る。この違いを求人票の時点で出すことが、ミスマッチを減らします。
資格・免許は「必須」と「歓迎」を混ぜない
建設業の求人票では、資格欄もミスマッチの原因になります。
普通自動車免許、準中型免許、玉掛け、足場関係の資格など、あるに越したことはないものが多くあります。ただし、すべてを必須にすると応募者の母数が狭くなります。
この会社のように、施工スキルを重視するなら、普通自動車免許は「あれば尚可」にする判断もあります。一方で、毎日運転が発生する会社なら必須にすべきです。
判断軸は、次の通りです。
- 入社初日からその資格がないと業務が成立しないものは必須
- 入社後に取得できるものは歓迎または取得支援
- 人によって支援可否を判断するものは「社内規定あり」と明記
資格取得支援も、書き方には注意が必要です。
「資格取得支援あり」とだけ書くと、応募者によっては「入社したら何でも会社が出してくれる」と受け取ることがあります。実際には、会社として必要性を判断し、一定期間内に退職した場合の取り扱いなども決めておく必要があります。
求人票では、支援する姿勢は出しつつ、運用は社内規定に沿うという書き方が現実的です。
休日・残業・固定残業代は、経験者と未経験者で共通でも明確に書く
給与や職務内容は分けるべきですが、休日や残業の条件は共通でよい場合があります。
この会社では、月給制の新求人について、次のような条件整理が進みました。
- 勤務時間:8時〜17時
- 休憩:120分
- 残業:月平均5時間程度
- 休日:会社カレンダーによる
- 年間休日:110日
- 固定残業代:なしの方向
ここで大事なのは、実態と求人票を合わせることです。
残業がほとんどないのに、過去の名残で固定残業代を入れると、応募者には「残業が多い会社なのかな」と見えることがあります。反対に、朝の集合や移動時間などで実質的な拘束があるなら、会社としてどう扱うかを整理しておく必要があります。
求人票は、採用の入口です。しかし、入社後に「聞いていた話と違う」とならないようにするには、実際の働き方を無理なく説明できる表記にしておくことが一番です。
契約社員求人は、制度利用のためでも別枠にする
助成金や制度利用の関係で、契約社員求人を出すこともあります。
この会社でも、有期雇用から一定期間後に正社員登用する制度を使う可能性がありました。ただし、代表は「それを目的に来る人はほとんどいない」と見ており、期待しすぎず、条件を満たす人がいれば使うという温度感でした。
この場合も、正社員求人の中に曖昧に混ぜるより、雇用形態を分けた求人票にしておくほうが整理しやすくなります。
経験者正社員、未経験者正社員、契約社員。求人票を複数に分けることで、応募者にも会社にも、説明の筋が通りやすくなります。
まとめ
建設業の中途採用では、経験者と未経験者を同じ求人票で募集したくなる場面があります。手間は減りますし、応募の入口も広く見えます。
ただ、実際には、経験者と未経験者では求人票で伝えるべきことが違います。
経験者には、どのレベルの現場を任せたいのか。セカンドとして動ければよいのか、職長に近い動きまで期待するのか。給与下限は、その役割から逆算する必要があります。
未経験者には、最初に何を覚えるのか、どう育てるのか、どのくらいの給与から始まるのかを丁寧に伝える必要があります。
資格や免許も、必須と歓迎を分ける。休日や残業も、実態に合わせて書く。固定残業代も、入れるなら根拠を説明できるようにする。
求人票は、きれいな言葉を並べるためのものではありません。面接で同じ説明ができ、入社後にもズレが出にくい条件表です。
経験者向けと未経験者向けを分けて設計するだけで、応募者との会話はかなりしやすくなります。採用の入口で期待値をそろえることが、定着の第一歩になります。
自社の求人票を分ける前に、採用条件を一度整理してみる
経験者と未経験者を分けたほうがよいと分かっていても、実際に求人票へ落とし込むと、給与、休日、残業、資格、既存社員とのバランスなど、いくつもの論点が出てきます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。求人票づくりも、単なる文章作成ではなく、会社の採用条件や育成方針を整える作業として一緒に進めることができます。
「うちの場合、経験者枠と未経験者枠をどう分けるべきか」「給与レンジをどこに置けばよいか分からない」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、まずは状況の整理先としてご相談ください。
































