10名規模の専門工事会社が求人票を整える中で、福利厚生の出し方まで見直す段階
北関東で専門工事を手がける、従業員10名ほどの会社での話です。中途採用に向けて求人票を整える中で、給与や休日だけでなく、通勤手当、資格取得支援、退職金といった福利厚生の見せ方も確認していました。
この会社では、社員に対してかなり柔軟な支援をしていました。たとえばガソリン代は、通勤にも仕事にも車を使う実態を踏まえて、会社負担で入れられるようにしている。資格についても、必要な人には会社が立て替える。退職時にも、制度として明文化していなくても、勤続年数や貢献度を見て支払ってきた実績がある。
どれも、社員思いの運用です。ただ、採用を強めるタイミングでは、この「良かれと思って柔軟にやっていること」が、求人票や面接での説明と結びつきます。ここで大事になるのが、社長の裁量を、採用時に説明できる社内ルールへ変えることです。
ガソリン代・資格取得支援・退職金を曖昧なまま出すと、不公平感と認識違いが起きやすい
相談の中で、通勤手当の話になったとき、社長からこんな言葉が出ました。
「今は、社員の子にはガソリンを入れていいよ、と言ってあります。昇給するより、そっちのほうが手取りが上がるでしょうって」
現場の実感としては、とてもよくわかります。月に数千円給与を上げるより、ガソリン代を会社が見てあげたほうが、社員にとってありがたい場面はあります。特に建設業では、現場移動、資材運搬、事務所集合など、車を使う前提の働き方が多いからです。
ただし、求人票に「通勤手当あり」「資格取得支援あり」「退職金制度あり」と載せるなら、応募者はそこに一定の期待を持ちます。入社後の社員も、他の人との違いを見ます。
たとえば、次のようなズレが起きやすくなります。
- ある社員はガソリンカードを自由に使えるが、新しく入った社員は月額上限がある
- 準中型免許は支援されると思って入社したが、実際は対象者を選んでいた
- 資格費用を会社が出した直後に退職され、返還の話ができない
- 退職金を払ってきた実績はあるが、求人票上は「あり」と言える根拠が曖昧
問題は、会社がケチかどうかではありません。むしろ逆で、良い会社ほど、個別対応が積み重なってルールが後追いになりやすいのです。
社長の善意で回ってきた福利厚生が、採用強化のタイミングで約束に変わる
この会社では、普通自動車免許を必須にするかどうかも話題になりました。建設業では車が必要に見えますが、現場には「免許はないけれど施工スキルは高い」という人もいます。社長も「免許がなくても、腕があれば採りたい人はいる」と話していました。
その流れで、資格取得支援の話になりました。準中型免許や現場系資格について、どこまで会社が支援するのか。社長は「出しちゃうと、辞めたら損だもんね」と率直に話していました。
ここは、多くの中小建設会社が悩むところです。人を育てたい。資格も取らせたい。でも、会社が費用を負担した直後に辞められると、現実的には痛い。だからこそ、支援するかどうかより先に、支援の条件を決める必要があります。
退職金も同じです。この会社では、これまで退職者にはほぼ支払ってきた実績がありました。さらに、前年から保険を使って退職金に近い備えも始めていました。ただ、制度としては明確に求人票へ載せられる状態ではありませんでした。
社長の感覚としては、「3年以上働いてくれたら絶対払う」「だいたい年数に応じて見ている」というものです。これは十分に制度の種になります。ただし、求人票に載せるなら、勤続何年以上が対象か、計算の考え方は何かを決めておかないと、あとで説明が苦しくなります。
福利厚生は、社員にとっては安心材料です。一方で会社にとっては、求人票に載せた瞬間から「会社の約束」になります。だから、社長の善意をそのまま載せるのではなく、運用できる言葉に整えることが必要です。
求人票に載せる前に、対象・上限・返還条件・勤続年数を小さく決める
最初から立派な規程を作る必要はありません。まずは、いま会社で実際にやっている支援を棚卸しして、求人票に載せてよいものと、面接で個別説明するものを分けることが大切です。
ガソリン代であれば、いきなり「無制限に会社負担」と書く必要はありません。むしろ、次のように整理したほうが運用しやすくなります。
- 対象者:自家用車で通勤する社員、会社車両を使用する社員など
- 支給方法:月額支給、ガソリンカード、実費精算など
- 上限:月1万円、月2万円など会社が負担できる範囲
- 例外:遠方通勤、現場直行直帰、会社都合の移動が多い場合の扱い
大事なのは、金額を大きく見せることではなく、誰に、どの条件で、いくらまで出すかを説明できる状態にすることです。既存社員への配慮が必要な場合も、「取り上げる」のではなく、今後の採用者も含めて納得できる基準に寄せていく進め方が現実的です。
資格取得支援も同じです。「資格取得支援あり」と書くなら、少なくとも次の4点は決めておきたいところです。
- 対象資格:準中型免許、玉掛け、足場関連など
- 支援範囲:全額負担、一部負担、立替のみ
- 対象者:会社が必要と認めた社員、一定期間勤務した社員など
- 返還条件:取得後〇年以内に自己都合退職した場合の扱い
特に返還条件は、口頭だけでは曖昧になります。「言った・言わない」にしないためにも、資格取得前に簡単な確認書を交わしておくと安心です。内容は難しくなくて構いません。会社が何を負担し、本人がどんな場合に返すのかが残っていれば、双方の認識違いを減らせます。
退職金は、求人票に「あり」と載せるなら、最低限の入口条件を決めます。たとえば、勤続3年以上を対象にする。金額は勤続年数や会社業績、本人の貢献度に応じて決める。まずはこの程度でも、社長判断だけの状態よりずっと説明しやすくなります。
ここでの判断軸は、福利厚生を豪華に見せることではありません。求人票に書いた内容を、入社後も同じ言葉で説明できるかです。これができれば、採用時の見栄えと、入社後の納得感がつながります。
まとめ
中小建設会社では、社長の判断で柔軟に社員を支えていることが多くあります。ガソリン代を見てあげる。資格費用を立て替える。長く働いてくれた人に退職金を払う。どれも、会社の温かさが出る運用です。
ただ、採用を強めるなら、その温かさを求人票に載せても困らないルールへ変えていく必要があります。
最初にやることは、大きな制度設計ではありません。
- いま実際に出しているものを書き出す
- 求人票に載せるものと、面接で説明するものを分ける
- 支給対象、上限、返還条件、勤続年数を決める
- 決めた内容を就業規則や確認書に少しずつ反映する
この順番で十分です。
福利厚生は、採用の魅力になります。一方で、曖昧なまま出すと不公平感にもなります。だからこそ、社長の善意を、社員が安心できる約束に変える。その一手が、これから人を増やす会社には効いてきます。
福利厚生を求人票に載せる前に、自社の運用を一度整理してみる
ガソリン代、資格取得支援、退職金のような制度は、会社ごとの事情がかなり出ます。既存社員とのバランス、現場移動の実態、採用したい人材像、会社が負担できる範囲を見ながら決める必要があります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の採用条件づくりや社内ルール整備を、現場の実態に合わせて整理し、求人票や面接時の説明に落とし込む支援を行っています。「うちの場合は、どこまで求人票に書いていいのか」「今の運用を制度にするとしたら何から決めるべきか」という段階でも大丈夫です。
無理な営業はいたしませんので、まずは状況整理の場としてご相談ください。
































