10名規模の専門工事会社が、月給制の中途採用に向けて給与・賞与の見せ方を整えようとしている状況
東海地方のある専門工事会社では、これまで日給制を中心に現場を回しながら、社長の判断で昇給や賞与を決めてきました。社員は10名弱。正社員の職人、手元を支えるメンバー、事務まわりを支える家族社員がいる、よくある中小の専門工事会社です。
今回の悩みは、中途採用の求人票を作るにあたり、給与・昇給・賞与をどう書くかでした。
経験者向けには、月給で下限を28万円前後、上限を60万円前後にする案がありました。日給感覚に直すと、下限はおおよそ1.3万円ほど。社長の感覚では「1.4万円は現場を任せられる職長級。1.3万円ならセカンドで動ければ十分払える」という線引きです。
一方で、賞与は実績だけを見るとかなり魅力があります。年間でしっかり還元している社員もいて、単純平均を出すと高く見えます。ただ、その数字には突出して成果を出している人の分も含まれます。
社長としては、ここが引っかかっていました。
「これを見て来た人が、入ったら自分もそれだけもらえると思っちゃうと困るんですよね」
この感覚は、とても自然です。実際に払っている。社員に還元している。だから求人票で伝えたい。けれど、“実績”が“保証”として受け取られる不安がある。評価制度がまだ整備途中の会社ほど、この悩みは起きやすいです。
「頑張れば稼げる」を伝えたいのに、求人票では過度な期待にも見えてしまう難しさ
建設業の採用では、「稼げる」は大きな訴求になります。特に専門工事では、できる人にしっかり払う会社であることは、経験者にとって強い魅力です。
ただし求人票では、書き方を間違えると意図がずれます。
たとえば、賞与欄に「年2回、年間4か月以上」や「実績100万円以上」などと書いた場合、会社側は「成果を出した人にはここまで出している」という意味で書いていても、応募者側は「入社すれば自分も近い水準でもらえる」と読むかもしれません。
今回の会社でも、賞与の実績をどう出すかでかなり悩んでいました。
実際には、初年度の新人に3万円ほど支給することもある。一方で、長く在籍し、現場を任され、会社に大きく貢献している社員には大きく還元している。どちらも事実です。
しかし、求人票には限られた枠しかありません。そこに実績だけを並べると、「誰が、どの状態で、何を評価されて、その金額なのか」が抜け落ちます。
ここで大事なのは、良く見せるか控えめに見せるかではありません。求人票に書いた数字を、面接で社長が自然に説明できるかです。
社長も、求人票の文面を見ながらこう話していました。
「ちょっと緩い言葉ですけど、面接のときに言っている内容に近いですね」
この状態が大事です。求人票だけが立派で、面接で言っていることとズレると、入社後に不信感が出ます。逆に、普段から面接で話していることを求人票に落とし込めれば、応募者にとっても会社にとっても無理がありません。
社長の感覚で評価してきた会社ほど、賞与・昇給の実績が言語化されていない
中小の建設会社では、評価制度がなくても、実際には評価が行われています。
たとえば今回の会社でも、社長の頭の中には明確な感覚がありました。
- 1.4万円の日給水準は、職長として現場をやれる人の水準
- 1.3万円なら、セカンドとしてきちんと動ける経験者に払える水準
- 未経験者は月給換算で21万円台から始める感覚
- 昇給は、今後500円単位で見ていく構想がある
- 月額にすると、昇給幅は1万円〜2万5千円程度が現実的
- 賞与は、初年度や経験の浅い人と、主力社員では大きく違う
つまり、制度として紙にまとまっていないだけで、社長の中には評価のものさしがあるわけです。
ただ、求人票ではその「ものさし」が見えません。
社長の感覚では、「この人なら払える」「この人にはまだ早い」「この成果なら還元したい」と判断できます。しかし応募者は、求人票に書かれた数字しか見られません。
ここにズレが生まれます。
特に賞与は、基本給より誤解が起きやすい項目です。給与は下限・上限である程度説明できますが、賞与は会社業績、個人評価、在籍期間、役割、現場貢献度によって変わります。
今回も、最初は前年実績を単純に割って平均を出す案がありました。すると、1人あたりの平均賞与がかなり高く出ました。しかし社長はすぐに違和感を持ちます。
「平均にすると、突出している人が数字を跳ね上げちゃうんですよ」
これは採用実務ではかなり重要な感覚です。
平均値は、事実ではあります。ただし、少人数の会社では一人の高支給者によって数字が大きく動きます。10名規模の会社で、主力社員が大きく賞与を受け取っている場合、平均値は応募者にとって実態以上に大きく見えることがあります。
だからこそ、少人数の会社では「平均」よりも「説明できる範囲」を優先するほうが、採用後のズレを防ぎやすくなります。
最低額は約束できる水準に置き、上限は実績と評価条件をセットで見せる
今回のような会社では、求人票の給与・賞与表現は、次の順番で整理すると進めやすくなります。
まず、給与の下限は「会社が無理なく約束できる金額」にします。
経験者採用だからといって、下限を高く見せすぎる必要はありません。今回も、最初は日給1.4万円相当を下限にする案がありました。しかし社長の感覚では、1.4万円は「現場ならやれる」職長級に近い水準でした。
そこで、経験者の最下限は1.3万円相当、月給では28万円前後に調整しました。
これは単なる金額調整ではありません。下限は“応募を集めるための飾り”ではなく、“入社時に約束できる入口”です。
経験があるといっても、実力には幅があります。経験年数が長くても、現場を任せられるとは限りません。逆に、免許や資格に抜けがあっても、施工スキルが高い人もいます。だから、下限は少し余白を持たせておくほうが、面接で調整しやすくなります。
次に、上限は「実在する到達点」として置きます。
月給60万円という上限は、会社として実際に到達し得る水準であれば、書いてよい数字です。ただし、面接では必ず補足が必要です。
たとえば、次のように説明します。
「入社時の給与は、経験・資格・現場で任せられる範囲を見て決めます。職長として現場を任せられる方、後輩を見られる方、会社に利益を残せる動きができる方は、上の水準を目指せます」
この説明ができるなら、上限を出す意味があります。逆に、上限に達する条件を何も説明できない場合は、数字だけが一人歩きします。
賞与はさらに慎重に考えます。
今回の会社では、突出した主力社員を含めた平均だと高く出すぎるため、その社員を除いた実績から、現実的な上限を100万円前後に置く案に落ち着きました。下限は、初年度や在籍期間の短い人も含めて3万円程度。つまり、「3万円〜100万円」という幅で、実績と納得感の両方を取る考え方です。
ここで大事なのは、上限を低く隠すことではありません。過去にもっと払っているなら、それも会社の魅力です。ただし、求人票に書く数字は、応募者が自分に当てはめて読む前提で考える必要があります。
そのため、賞与欄には金額だけでなく、次のような注記を添えるとよいです。
- 会社業績および本人の能力・貢献度により支給
- 在籍期間、担当現場、役割により支給額は変動
- 現場を任せられる方、後輩育成や資格取得に取り組む方は評価に反映
ハローワークなどの求人票では、書ける欄が限られます。その場合は、「求人に関する特記事項」や「事業所からのメッセージ」を活用します。
たとえば、次のような表現です。
当社では、経験年数だけでなく、現場で任せられる範囲、資格、仕事への取り組み、後輩への関わり方などを見ながら昇給・賞与に反映しています。入社時の給与は経験・能力を確認のうえ決定します。賞与は会社業績および本人評価により支給します。
このくらいの表現であれば、稼げる会社であることを伝えながら、保証のようには見えにくくなります。
昇給についても同じです。
今回の会社では、従来は1,000円単位で見ていた昇給を、今後は500円単位で評価していく構想がありました。日給の500円アップでも、月給換算ではおおよそ1万円前後の上昇になります。1,000円上げれば、月額で2万円以上変わることもあります。
求人票に昇給実績を書くなら、ここも盛りすぎないほうがよいです。
「月あたり1万円〜2万5千円」程度が実際の運用感に近いなら、その範囲で書く。さらに、面接では「何を見て上げるのか」を伝える。
評価制度が未完成でも、最低限、次の3点は説明できるようにしておくと安心です。
- 入社時給与は何で決まるのか
経験年数だけでなく、現場での役割、施工スキル、資格、運転可否などを見る。
- 昇給は何ができるようになると上がるのか
セカンドとして動ける、現場を任せられる、後輩を見られる、資格を取るなど。
- 賞与は何によって変わるのか
会社業績、本人の貢献度、在籍期間、担当した仕事の成果で変わる。
この3点が面接で話せれば、制度が完璧でなくても、応募者は納得しやすくなります。
もう一つ大切なのは、求人票に書いた内容に会社側が寄せていく意識です。
求人票のメッセージを見た社長が、こう話していました。
「これに似合うように、自分も振る舞っていくってことですよね」
まさにその通りです。求人票は、外向きの広告であると同時に、会社の中の約束を整えるきっかけにもなります。
採用のために良く見せるのではなく、良く見せた内容に会社を近づけていく。この順番で考えると、求人票づくりは組織づくりの入口になります。
まとめ
評価制度が未整備な建設会社でも、「頑張れば稼げる」を求人票で伝えることはできます。
ただし、数字だけを強く出すと誤解が生まれます。給与の下限は、入社時に約束できる水準に置く。上限は、実際に目指せる到達点として出す。賞与は、平均値をそのまま載せるのではなく、少人数会社なら突出した人の影響も見たうえで、説明できる範囲に整える。
そして、面接では必ず「何を評価しているのか」を伝えることです。
完璧な評価制度がなくても、社長の中にある判断軸を言葉にするだけで、求人票の信頼感は大きく変わります。
大事なのは、“稼げる会社”であることと、“誰でも最初から同じだけもらえる”ことを分けて伝えることです。
できる人に払う。頑張った人に返す。現場を任せられる人を評価する。その姿勢がある会社なら、求人票にも堂々と出してよいと思います。あとは、その数字が一人歩きしないように、下限・上限・評価条件をセットで整えていくことです。
求人票の給与・賞与表現を、自社の実態に合わせて整理したい方へ
給与、昇給、賞与の見せ方は、採用だけの話ではありません。今いる社員との公平感、これから入る人への説明、評価制度づくりにもつながります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。求人票の給与表現や、面接での説明の仕方、評価制度の作り始め方なども、会社の実態に合わせて一緒に整理できます。
「うちの場合は、賞与実績をどこまで書いていいのか」「今の社員と新しく採る人の条件をどうつなげるべきか」といった段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、まずは考えを整理する場としてご相談ください。
































