前提

大手ハウスメーカー系の躯体工事を担う10名規模の会社でも、待遇の良さが社員に伝わりきっていない状況

千葉県内で大手ハウスメーカー系の躯体工事を中心に請けている、10名規模の専門工事会社の話です。社員は若手から60代までおり、平均年齢は40代半ば。職人側は50代後半から60代が中心で、若手を採って育てていかなければ、数年後に施工力が落ちる可能性が見え始めていました。

この会社は、決して待遇が悪い会社ではありません。職務手当、家族手当、現場手当、年2回の賞与、年1回の昇給があります。現場手当も、引き渡した坪数に応じて支給される仕組みがあり、月によっては数万円の上乗せになることもあります。

一方で、昇給や手当の理由は、社員に十分には説明されていませんでした。「本人は気づくと思うんですけどね」という感覚もありましたが、ここに中小建設会社の定着課題が隠れています。

待遇を改善している会社ほど、その理由を言葉にしないともったいないです。社員は金額だけでなく、『何を見てもらえたのか』で会社への信頼を感じます。

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課題

昇給や賞与を出していても、評価理由が見えないと若手の納得感につながりにくい状態

この会社では、昇給は年1回。人によっては数千円、成長が大きい人には数万円単位で上がることもありました。賞与も年2回あり、会社としてはかなり頑張って支給している部類です。

ただ、昇給時に個別面談で理由を伝える運用はありませんでした。経営側としては、「苦労した後に上がっているから、本人も分かっているはず」という感覚です。

しかし、社員側から見ると、給与明細に反映されただけでは、次のようなことが分かりません。

  • どの現場での動きが評価されたのか
  • 技術の成長を見てもらえているのか
  • 後輩への教え方や現場のまとめ方も評価対象なのか
  • 次に何を頑張れば、さらに上がるのか

特に若手は、以前よりも「頑張れば上がるのか」「何を身につければ評価されるのか」をよく見ています。給与額そのものも大事ですが、それ以上に、成長の道筋が見えるかどうかが、定着やモチベーションに直結します。

経営側からも、「これは逆に、どんぶり勘定のところでもある」という言葉が出ていました。ここを悪いこととして責める必要はありません。むしろ、良い待遇をしている会社ほど、次の段階として整理すべきポイントです。

背景

職人を採って育てる時代になり、資格・経験・現場成果・育成力を評価する必要が出ていること

これまでの建設業では、「見て覚えろ」「親方についていけば自然に育つ」という形でも回っていた会社が多くありました。けれど、今は一人親方を外から集めるだけでは施工力を維持しにくくなっています。

この会社でも、若い職人は少なく、年配の職人が引退していく先を考えると、社員として若手を入れ、社内で育てる必要が出ていました。18歳で入って数年で一人前に近づく人もいる一方で、これからは「技術がある人」だけでなく、「人を育てられる人」も会社にとって重要になります。

そうなると、評価軸も変わります。

現場で手が早い。品質が安定している。資格を取った。任された現場を無事に納めた。後輩に教えられる。お客様や元請けとのやり取りができる。こうした要素を、社長や専務の頭の中だけでなく、少しずつ言葉にしていく必要があります。

実際、この会社にはすでに良い材料がありました。たとえば、引き渡し坪数に応じた現場手当です。担当者からは「今ちょっと一つのモチベーションにもなっています。大きい現場をやりたい、という声もあります」と話がありました。

これは非常に大事なヒントです。社員は、成果と報酬がつながっていると分かると、自分から現場に向かいやすくなります。

一方で、職務手当は「1万円から3万円くらい」という幅はあっても、何を満たすと上がるのかが曖昧でした。家族手当も、同居家族を対象にするなど中小企業らしい温かさがありましたが、それが採用や定着の強みとして十分に言語化されていませんでした。

つまり、制度がないのではありません。すでにある良い運用が、社員に伝わる形に整理されていないことが課題です。

解決

大企業型の人事制度を作る前に、手当と面談から評価を見える化していく進め方

中小建設会社が、いきなり大企業のような等級制度や評価シートを作る必要はありません。むしろ、現場の実態から離れた制度を作ると、運用されずに終わります。

まずは、今ある手当と昇給の理由を整理するところから始めるのが現実的です。

最初に見るべきは、次の4つです。

  1. 資格:建築施工管理技士、技能講習、現場で必要な資格など
  2. 経験:担当できる工種、任せられる現場規模、対応できる範囲
  3. 現場成果:引き渡し件数、坪数、品質、手戻りの少なさ、工程管理
  4. 育成力:若手への教え方、安全意識、チームの雰囲気づくり

この会社であれば、すでにある「坪数に応じた現場手当」は、現場成果を評価する仕組みとして活かせます。さらに、職務手当については「課長だから」「責任者だから」だけでなく、どんな役割を担っているから支給するのかを整理すると、社員にも説明しやすくなります。

次に大事なのは、昇給時の面談です。長い面談でなくても構いません。年1回の昇給時に、10分でもいいので、次の3点を伝えるだけで印象は大きく変わります。

  • 今回、何を評価して昇給したのか
  • 会社として、どこに成長を感じているのか
  • 次の1年で、何を期待しているのか

たとえば、こう伝えられます。

「この1年、現場の納まりが安定してきたし、若い子への声かけも良くなってきた。そこを見て、今回は昇給に反映した。次は、もう少し工程の段取りまで任せたい」

これだけで、社員は「見てくれていたんだ」と感じます。給与が上がること自体も嬉しいですが、自分の努力を具体的に言葉で返されることが、次の頑張りにつながります。

また、賞与についても同じです。金額の多い少ないだけでなく、「会社の業績」「現場ごとの貢献」「個人の頑張り」を分けて説明できると、納得感が出ます。

制度化の順番としては、次の流れが進めやすいです。

  1. 既存の手当を棚卸しする
  2. それぞれの手当が何を評価しているのか言葉にする
  3. 昇給時に、社長または上長が理由を伝える
  4. 資格・経験・現場成果・育成力の4軸で簡単な評価メモを残す
  5. 人が増えてきた段階で、職務手当や資格手当の基準を表にする

ここで大事なのは、完璧な制度を最初から作らないことです。まずは社長の頭の中にある評価を、社員に伝わる言葉へ変えること。そこから制度は育っていきます。

まとめ

若手が定着しない理由は、給与が低いことだけではありません。待遇を良くしていても、評価の理由が伝わっていなければ、社員は「何を頑張ればいいのか」が分からなくなります。

今回の会社のように、職務手当、家族手当、現場手当、昇給、賞与がすでにある会社は少なくありません。ただ、それが「会社の強み」として社員に伝わっていないケースも多いです。

昇給や手当は、支給して終わりではなく、理由を伝えて初めて定着施策になります。

まずは、資格、経験、現場成果、育成力の4つを軸に、今ある評価を整理する。昇給時には、短くてもよいので面談で理由を伝える。現場手当や資格手当のように、分かりやすいところから制度化する。

この順番なら、10名規模の専門工事会社でも無理なく始められます。

うちの昇給や手当をどう整理すべきか迷ったときは

昇給、賞与、現場手当、資格手当、家族手当などは、会社ごとの歴史や現場の実態が色濃く出る部分です。だからこそ、他社の制度をそのまま入れるよりも、まずは自社で今すでにやっていることを整理するのが近道です。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。人材確保や定着のために、評価や手当をどこから見直せばよいか分からない段階でも、一緒に現状を整理できます。

無理な営業はいたしませんので、「うちの場合は、何を評価軸にすればよいか」「今ある手当をどう伝えればよいか」という段階でも、必要に応じてご相談ください。

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