前提

首都圏の電飾・季節装飾会社では、20名弱が取引先常駐で育つ体制が続いている

首都圏で電飾・季節装飾系の工事を手がける、40名規模の専門工事会社の話です。

クリスマス装飾や季節イベントの現場が多く、繁忙期には高所作業や夜間対応も絡みます。専門学校から新卒を採用する流れもあり、フルハーネス特別教育や足場関連の教育を受けた若手が入ってくることもあります。

一方で、この会社では入社後すぐに取引先の現場へ常駐・出向する社員が少なくありません。人数にして20名弱。取引先の名刺を持ち、営業ではなく現場側の人員として動く形です。

社長の言葉を借りると、こうです。

「入社してすぐにお客様のところに預けてしまっている。お客様のところで育っている人間なんです」

この体制は、取引先との関係を支え、若手に現場経験を積ませるうえでは機能してきました。ただ、会社として次の段階を考えたとき、若手が育つ場所と、自社の戦力として活躍する場所が分かれていることが課題になってきます。

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課題

取引先で育った人材ほど戻しづらく、戻ってもすぐ自社の即戦力にはなりにくい

課題は、単に「人が足りない」ではありません。育った人材を自社に戻す循環が作りづらいことです。

社長の理想は明確でした。

「毎年若い子を入れて、出向で行っているメンバーと入れ替えられるといい。ある程度育った人間がこっちに来て、即戦力になる流れが作れると一番いい」

ただし、実際には簡単ではありません。

取引先から見れば、時間をかけて育てた人材です。現場にも慣れ、顔なじみになり、話も早い。そこで「そろそろ戻します」と言われても、すんなり受け入れづらいのは自然です。

さらに、自社に戻した側にも別の難しさがあります。

「技術は持っているんですけど、やり方とか考え方は変わってくる。こっちの仕事自体はしていないので、即戦力ではないんです」

ここが大事な点です。取引先での経験値はある。しかし、自社の段取り・判断基準・お客様対応・現場の進め方には慣れていない。そのため、戻ってきた瞬間から万能に動けるわけではありません。

つまり、この問題は「戻せるかどうか」だけではなく、次の3つが重なっています。

  • 取引先が育った人材を手放しづらい
  • 自社に戻しても、自社流の仕事に慣れる時間が必要
  • 代わりに出せる若手を用意しないと、取引先との関係が崩れやすい

この3つを同時に見ないと、人材循環は仕組みになりません。

背景

取引先任せの育成は合理的だが、自社の基礎教育と帰属意識が薄くなりやすい

取引先に若手を預ける形は、決して悪い仕組みではありません。むしろ、専門性が高く、案件ごとの癖が強い業種では合理的な面があります。

この会社の仕事は、一般的な電気工事や照明工事と重なる部分がありつつ、電飾・イルミネーション特有の段取りがあります。社長自身も「業種的にあまり比較できる会社がない」「電飾だけで独立して見られにくい」と話していました。

そのため、若手に現場を覚えさせるには、実際の案件に入れるのが早い。取引先の現場であれば仕事量もあり、経験も積めます。

ただ、そこで育つほど、若手の中には次のような状態が起きやすくなります。

自社の社員でありながら、日々の判断基準や仕事の型は取引先側で身につく。

これは、技術面だけの話ではありません。

誰に相談するか。どこまで自分で判断するか。お客様との距離感をどう取るか。後輩をどう見るか。そうした仕事の土台が、常駐先の文化に寄っていきます。

社長が「お客様のカルチャーで育っている」と表現したのは、この感覚に近いはずです。

もうひとつ背景にあるのは、会社として「50名を超えない程度で、基盤を固めたい」という規模感です。無理に人を増やして売上を追うより、今の仕事を守りながら次につなげたい。そう考える会社にとって、採用人数を増やすことより、人が育って戻る流れを作ることのほうが重要になります。

解決

出向前・出向中・帰任後をつなぐキャリアプログラムとして設計する

人材循環を作るには、取引先常駐を「その場しのぎの人員配置」ではなく、最初から戻る前提のキャリアプログラムとして設計することが必要です。

まず整理したいのは、戻すタイミングの基準です。

たとえば、次のような観点で社内基準を置きます。

  • 何シーズン、または何案件を経験したら戻す候補にするか
  • どの作業を一人で任せられたら次の段階と見るか
  • 取引先での評価だけでなく、自社側の面談で何を確認するか
  • 戻した後、何ヶ月で自社案件に慣れてもらうか

大切なのは、年数だけで決めないことです。「取引先で重宝されているか」と「自社で次に担ってほしい役割」は別物です。ここを分けて見ないと、取引先から評価されている人ほど戻しづらくなります。

次に、取引先との事前合意です。

人を預ける前に、次のような話をしておくと循環が作りやすくなります。

「この社員は一定期間、現場経験を積ませたい」 「次の若手を入れるタイミングで、先に入っている社員を自社に戻す可能性がある」 「戻す場合は、代替要員の引き継ぎ期間を設ける」

もちろん、取引先の事情もあります。繁忙期に急に戻せば関係に負荷がかかります。だからこそ、戻す話は本人が育ってから切り出すのではなく、預ける前から前提として共有しておくことが大切です。

三つ目は、代替要員の育成です。

取引先から見れば、「育った人を戻される」だけでは困ります。次に入る若手がまったくの未経験であれば、現場負担も増えます。

そのため、自社側で最低限の基礎教育をしてから出すことが重要です。高所作業や安全教育だけでなく、次のような基礎を揃えておきます。

  • 自社の仕事の考え方
  • 電飾・装飾工事で大切にしている品質感
  • 取引先現場での報連相の仕方
  • 自社社員として守るべき判断基準
  • 戻ってくる前提のキャリアイメージ

ここをせずに現場へ出すと、若手は取引先のやり方だけで育ちます。逆に、数ヶ月でも自社の基礎を入れてから出せば、常駐先で経験を積みながらも「自分はどこの社員か」を見失いにくくなります。

四つ目は、出向中の接点です。

常駐している社員を、現場に出したままにしないことです。月次や四半期など、無理のない頻度で本社側と面談し、次のようなことを確認します。

  • どんな現場を経験しているか
  • 何ができるようになったか
  • どの仕事に苦戦しているか
  • 自社に戻ったらどんな役割を担えそうか
  • 本人が今後どう働きたいか

この接点があるだけで、帰属意識は変わります。常駐先で働いていても、育成の主体は自社で持つという姿勢が伝わるからです。

最後に、帰任後の受け皿を決めておきます。

戻ってきた社員をいきなり「即戦力」として見ると、本人も会社も苦しくなります。取引先での経験は武器ですが、自社の案件には慣らし期間が必要です。

そのため、戻した後は次のような役割を段階的に持たせると進めやすくなります。

  • まずは自社案件の段取りを覚える
  • 次に小さな現場や一部工程を任せる
  • その後、後輩や次に出向する若手の教育に関わる
  • 最終的に、取引先常駐と自社案件の橋渡し役にする

ここまで設計すると、人材循環は単なる入れ替えではなくなります。取引先で育った人が、自社に戻って次の若手を育てる側に回る流れになります。

まとめ

取引先に若手を預けて育ててもらう仕組みは、専門工事会社にとって現実的な選択肢です。特に、電飾・季節装飾のように仕事の特殊性が高く、現場で覚えることが多い領域では、実務経験の価値は大きいです。

ただし、預けっぱなしにすると、育成の主導権が取引先側に寄っていきます。すると、育った人ほど戻しづらくなり、戻っても自社の即戦力化に時間がかかります。

整理すべきポイントは、次の5つです。

  • 出向前に、戻す前提と期間の考え方を取引先と共有する
  • 出向前に、自社の基礎教育と帰属意識づくりを行う
  • 出向中も、本社側が定期的に育成状況を把握する
  • 戻すときは、代替要員と引き継ぎをセットで考える
  • 帰任後は、即戦力扱いではなく自社流に慣れる期間を設ける

人材循環は、一度に完成するものではありません。まずは、現在取引先に出ている社員を一覧にし、「誰を、いつ、どんな役割で戻したいか」を仮置きするだけでも、次の打ち手が見えやすくなります。

取引先に育ててもらう仕組みから、自社が育成を設計する仕組みへ。そこに切り替えられると、若手採用も、定着も、次世代への引き継ぎもつながりやすくなります。

自社の人材循環をどう設計するか整理したいときは

常駐・出向している社員をどう戻すか、取引先との関係をどう崩さず進めるかは、会社ごとの事情が大きく出ます。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。人材循環や教育体制についても、「うちの場合は何から整理すべきか」という段階から一緒に考えることができます。

無理な営業はいたしません。まずは現状の整理先として、必要に応じてご相談ください。

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