首都圏の設備工事会社で、1級管工事の受験指導を80代の技術顧問が支えてきた状態
首都圏で設備工事を手がける、社員30名弱の建設会社の話です。社内では、1級管工事施工管理技士を目指す社員が数名おり、長年、社長が若いころからお世話になってきたベテラン技術者が、資格試験対策や技術指導を担っていました。
ただ、その方は80代前半になり、「そろそろ辞めたい」という状況になっていました。これまでの指導は、ほぼ無償に近い形です。社長の言葉を借りると、「昼飯をおごるぐらいで、ずっとやってくれていた」という関係でした。
このような形は、建設業では決して珍しくありません。OB、元上司、協力会社の知人、昔からの恩人。そうした方が、会社の外にいながら、若手や中堅の育成を支えてくれているケースは多くあります。
ただし、ここで整理しておきたいのは、問題は“良い講師がいなくなること”だけではなく、“教育機能そのものが個人の好意に乗っていたこと”です。
今回の会社でも、必要としていたのは単なる座学講師ではありませんでした。1級管工事施工管理技士の試験対策を見られること。技術的な質問に答えられること。受験者の理解度に合わせて伴走できること。できれば、設備工事の現場感も分かること。そうした役割を、1人のベテランが長く担っていたわけです。
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顧問の退任で止まるのは講義ではなく、受験者を合格まで連れていく仕組み
資格取得支援が属人化している会社では、顧問やOBが退任した瞬間に、勉強会そのものよりも先に「誰が進捗を見るのか」が止まりやすくなります。
1級管工事施工管理技士のような資格は、テキストを渡して終わりでは進みません。受験者ごとに経験年数、現場の種類、文章を書く力、過去問への慣れが違います。現場が忙しい時期には勉強が後回しになり、試験日が近づいてから慌てることもあります。
そのため、本来は次のような機能が必要になります。
- 誰が今年受けるのかを決める
- 試験日から逆算して学習計画を組む
- 受験者別に進み具合を確認する
- 苦手分野を把握する
- 過去問や記述対策の添削をする
- 勉強会に出られなかった人をフォローする
- 合格後に、次の受験者へ知見を残す
これらは、すべて「講義」ではありません。資格取得支援の本体は、講師の知識よりも、受験者が途中で止まらないようにする運用にあります。
今回の会社でも、外部の経験豊富な技術者に依頼する案がありました。大手設備系企業のOBで、1級管工事施工管理技士や技術士などの資格を持ち、現場経験も豊富な方です。技術講師としては非常に魅力的です。
一方で、受験対象者は3名ほどでした。社長としては、「社員が10名、15名とまとまって受けるなら費用対効果は合うが、3人だと重い」という感覚がありました。
ここに、中小建設会社らしい現実があります。教育は大事だと分かっていても、少人数の受験者に対して、毎月固定の外部顧問を入れる判断は簡単ではありません。
だからこそ、「今の顧問の代わりを探す」だけでは、判断が難しくなります。考えるべき順番は、誰を呼ぶかの前に、どの教育機能を社内に残し、どこだけ外部に頼るかです。
無償で支えてくれたOBの存在が、教育体制づくりを後回しにしてきた構造
この課題の背景には、建設業に多い「人のつながりで何とかしてきた強さ」があります。
社長自身が若いころに教わった方が、会社の若手にも教えてくれる。専門学校や研修会社ではなく、現場を知っている人が、実務に近い言葉で教えてくれる。これは非常にありがたいことです。社員にとっても、机上の勉強だけでは得にくい学びがあります。
ただ、好意ベースの支援には、どうしても引き継ぎにくさが残ります。
たとえば、次のような情報が頭の中にだけ残りがちです。
- どの教材を使っていたか
- どの順番で教えていたか
- 誰がどこでつまずいていたか
- 過去問をどう見ればよいか
- どの時期に何をやると間に合うか
- 合格した社員と不合格だった社員の違いは何か
ベテラン本人にとっては当たり前でも、会社側に記録がなければ、退任と同時に消えてしまいます。
また、無償に近い支援が続いていると、会社側の費用感もその前提に引っ張られます。外部の有資格者や大手OBに正式に依頼しようとすると、当然ながら対価が発生します。そこで初めて、「これまでどれだけ大きな価値を、好意で受け取っていたのか」に気づくことになります。
社長の「見込みが甘かったのかもしれない」という言葉には、その感覚がにじんでいました。
ただ、これは責められる話ではありません。むしろ、建設業の中小企業ではよく起きることです。長年助けてくれた人がいた会社ほど、教育の仕組み化は後回しになりやすいのです。
もう一つの背景は、資格取得支援が採用や組織拡大ともつながっている点です。
1級管工事施工管理技士を持つ社員が増えれば、会社として対応できる案件の幅が広がります。若手にとっても、資格取得の道筋が見えている会社は働き続けやすくなります。新しい人を受け入れる土台にもなります。
つまり、資格対策は単なる福利厚生ではありません。中小建設会社にとって、技術教育は将来の受注力と組織づくりの基盤です。
外部講師を探す前に、資格取得支援を社内で回せる形に分解すること
顧問の退任が見えてきたら、最初にやるべきことは「後任探し」ではなく、「今まで顧問が担っていた機能の棚卸し」です。
外部のすごい技術者を連れてくること自体は、もちろん選択肢になります。ただし、少人数の受験者に対して固定顧問型で依頼すると、費用対効果が合いにくい場合があります。そこで、教育機能を分解して、社内で持つ部分と外部に頼る部分を分けます。
1. まず、資格取得支援の年間カレンダーをつくる
最初に整えるべきは、試験日から逆算した年間カレンダーです。
難しいものでなくて構いません。A4一枚やスプレッドシートで十分です。
- 受験申込の時期
- 過去問に入る時期
- 苦手分野の確認時期
- 記述対策を始める時期
- 模擬問題を解く時期
- 直前確認の時期
このカレンダーがあるだけで、教育が「顧問が来た日に何となく教えるもの」から、「会社として進めるもの」に変わります。
資格取得支援は、講師の予定表ではなく、受験者の合格までの工程表として設計することが大切です。
建設工事と同じで、工程がなければ遅れは見えません。資格勉強も同じです。誰がどこまで進んでいるかを見えるようにすることで、社長や上司が必要なタイミングで声をかけられます。
2. 教材と指導内容を会社の資産として残す
次に、これまで使っていた教材、過去問、配布資料、添削コメントなどを整理します。
ベテラン顧問がまだ関われる期間が少しでもあるなら、ここは早めに聞き取っておきたいところです。
確認したいのは、次のような内容です。
- どの教材を使うとよいか
- 初学者はどこから始めるべきか
- 例年つまずきやすい単元はどこか
- 現場経験を文章化するときの注意点は何か
- 過去に合格した社員はどんな勉強をしていたか
- 不合格になった社員はどこで止まっていたか
ここで大切なのは、完璧な教育マニュアルを作ろうとしないことです。最初から立派な資料を作ろうとすると、忙しい現場では続きません。
まずは、「来年の受験者が同じことで迷わない」程度の記録で十分です。
たとえば、共有フォルダに「1級管工事_資格支援」という場所を作り、年度別に資料を入れる。勉強会のたびに、実施日、参加者、やった範囲、宿題、次回までの課題を1行で残す。これだけでも、属人性はかなり下がります。
3. 受験者別の進捗管理を、社長ではなく社内担当に持たせる
中小建設会社では、資格取得の声かけを社長が直接やっていることも多いです。ただ、社長がすべて見る形だと、日々の案件対応に追われて続きにくくなります。
そこで、社内に小さな教育担当を置きます。専任でなくて構いません。工事部長、管理側の担当者、すでに資格を持っている社員など、月1回でも進捗を確認できる人を決めます。
その担当者が見るのは、技術指導の中身だけではありません。
- 今月、勉強時間を取れたか
- 過去問を何年分解いたか
- 分からない箇所はどこか
- 次回までに何をやるか
- 外部講師に聞くべき質問は何か
この程度で十分です。
社内担当の役割は、受験者に教えることではなく、勉強が止まっていないかを見える化することです。
ここを社内に持てると、外部講師の使い方が変わります。毎回ゼロから状況説明をする必要がなくなり、限られた時間を技術的な質問や添削に集中できます。
4. 外部専門家は「全部任せる人」ではなく「要所で使う人」として考える
今回のように、受験対象者が3名程度の場合、外部の有資格者を毎月固定で入れるよりも、要所に絞って依頼するほうが合うことがあります。
たとえば、外部専門家の使いどころは次のように分けられます。
- 年度初めに、受験者ごとの学習計画を確認してもらう
- 苦手分野が見えた段階で、重点講義をしてもらう
- 記述対策や経験の整理だけ添削してもらう
- 試験直前に、質問会や模擬確認をしてもらう
- 社内担当者に、進捗管理の見方を教えてもらう
この形であれば、外部の価値を活かしながら、会社側にも教育ノウハウが残ります。
判断軸はシンプルです。外部に頼むべきなのは、社内で代替しにくく、合否への影響が大きい部分です。
逆に、日程調整、教材配布、宿題確認、進捗表の更新といった運用部分は、できるだけ社内に残したほうがよいです。そこまで外部に任せると、また別の人への依存が始まってしまいます。
5. 退任前の顧問から「講義」ではなく「型」を引き継ぐ
今の顧問が完全に退任する前に、可能であれば数回だけでも引き継ぎの場を設けたいところです。
その場でお願いしたいのは、通常の講義だけではありません。むしろ、次のような「型」を聞き出すことです。
- 受験者を見るとき、最初に何を確認しているか
- 合格しやすい人と苦戦する人の違いをどう見ているか
- どの時期にどこまで進んでいれば安心か
- 現場経験をどう試験対策に結びつけているか
- 社内の誰が次に指導役へ回れそうか
長年教えてきた人ほど、言語化されていない判断基準を持っています。ここを拾えると、顧問がいなくなった後も教育の質が落ちにくくなります。
引き継ぐべきものは、ベテランの知識そのものではなく、受験者を見立てる目線です。
まとめ
80代の技術顧問が退任することは、会社にとって一つの区切りです。ただし、それは教育が止まる合図ではなく、資格取得支援を会社の仕組みに変えるタイミングでもあります。
今回のように、1級管工事施工管理技士の受験対象者が数名の場合、外部の技術講師を丸ごと顧問として迎えることが最適とは限りません。費用対効果を見ながら、社内で持つべき運用と、外部に頼るべき専門領域を分けることが現実的です。
整理すべきポイントは、次の5つです。
- 顧問が担っていた役割を、講義・進捗管理・教材・添削・声かけに分解する
- 試験日から逆算した年間カレンダーを作る
- 教材や指導記録を、会社の共有資産として残す
- 受験者別の進捗を見る社内担当を決める
- 外部専門家は、合否に効く要所で使う
資格取得支援は、社員に「勉強しておいて」と言うだけでは続きません。一方で、大がかりな教育制度を作らなければ始められないものでもありません。
まずは、今までベテランが自然にやってくれていたことを、会社の中で見える形にすることです。
そこから、社内で回せる部分と外部の力を借りる部分が見えてきます。
技術教育の引き継ぎ方を、自社の規模に合わせて整理したいときは
資格取得支援や技術教育は、会社の人数、受験者数、現場の忙しさ、社内にいる有資格者の状況によって、ちょうどよい形が変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。技術顧問の退任、資格取得支援の仕組み化、外部専門家の使いどころなども、会社の現実に合わせて一緒に整理できます。
「うちの場合は、社内でどこまで持つべきか」「外部講師を入れるなら、どの範囲が合うのか」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、まずは状況整理の場としてご活用ください。






























