仕事はあふれているのに、人がいれば売上を伸ばせる専門工事会社の現在地
ある専門工事会社では、採用の必要性がかなりはっきりしていました。
背景にあるのは、営業不足ではありません。むしろ社長の感覚としては、受注機会は十分にあります。
「仕事があふれてるからね」
この一言に、状況がよく出ています。
建設業、とくに専門工事では、仕事がないから伸びない会社ばかりではありません。元請けや取引先から声はかかる。現場もある。けれど、受けられる人員が足りないために売上の上限が決まってしまう。こういう会社は少なくありません。
この会社でも、求人媒体にはすでに出稿していました。応募もゼロではありません。給与条件も見直し、未経験者にも相場より高めの条件を出し、経験者にはさらに上乗せすることも検討していました。
つまり、何もしていないわけではありません。
ただ、社長の関心はシンプルでした。
「人を入れられるなら必要。できないなら必要じゃない」
この感覚は、とても自然です。仕事がある会社にとって、採用はきれいな制度づくりではなく、売上を伸ばすためのボトルネック解消だからです。
採用したい理由が売上拡大なのか、承継なのか、高齢化対策なのかで優先順位が変わる
採用を考えるとき、最初に整理したいのは「なぜ採るのか」です。
同じ“人が足りない”でも、目的によって打ち手は変わります。
たとえば、建設会社の採用目的には大きく次のようなものがあります。
- 次世代に会社を引き継ぐため、将来の体制をつくりたい
- 5年後に売上を大きく伸ばすため、頭数を増やしたい
- 職人や現場管理者の平均年齢が上がり、入れ替わりを進めたい
- 目の前の仕事を断らないため、すぐに現場へ入れる人がほしい
この会社の場合、中心にあったのは明らかに売上拡大でした。
「いつまでに」という問いに対して、社長は「明日から」と答えていました。もちろん言葉としては勢いも含まれますが、意味としては、10年後のための採用ではなく、今ある仕事を取り切るための採用です。
ここを間違えると、採用活動がぼやけます。
将来の承継や高齢化対策が目的なら、未経験者を入れてじっくり育てる採用も重要です。一方で、すでに仕事があって、今月・来月の受注量に人員が追いつかないなら、経験者や即戦力に近い人材の優先度が上がります。
もちろん、未経験者を採ってはいけないわけではありません。
ただし、売上拡大が目的なら、採用人数そのものより「いつ戦力化するのか」を見ないと、期待した売上にはつながりにくくなります。
媒体に出して応募は来るが、採用できる会社の型までは社内に残っていない
この会社は、すでに求人媒体を使っていました。
「今やってるのは、普通に媒体に出してるだけですね」
この状態は、多くの中小建設会社に近いと思います。
求人票を出す。給与を上げる。応募を待つ。反応が弱ければ文面を変える。条件を見直す。
どれも必要です。ただ、これだけだと採用は“媒体任せ”になりやすいです。
今回のように、応募がゼロではない場合は特に見落としがちです。応募があるので、問題は求人媒体の選定だけではありません。むしろ見るべきは、応募から採用、入社後の定着までの途中で何が起きているかです。
たとえば、次のような点です。
- 応募者に対して、会社の魅力や仕事の実態を伝え切れているか
- 経験者にとって、入社後の役割や待遇の納得感があるか
- 未経験者にとって、最初の数か月の育ち方が見えるか
- 社長や現場側が「どんな人なら合うか」を言語化できているか
- 入社後に誰が教えるのか、現場に受け入れ余力があるか
求人票は入口です。
ただ、建設業の採用では、入口だけ整えても足りません。求職者は、給与だけでなく「どんな現場か」「誰と働くか」「怒鳴られないか」「続けられそうか」「経験を評価してもらえるか」を見ています。
社長側からすると、「仕事はある」「条件も悪くない」「なぜ決まらないのか」と感じる場面もあります。
しかし候補者側から見ると、まだ判断材料が足りないことがあります。ここで必要なのは、派手なキャッチコピーよりも、自社の働き方を候補者が判断できる言葉にすることです。
もう一つ、社長の発言から見える大事な背景があります。
採用支援の話を何社からも聞くなかで、「どこも同じに聞こえる」「最初だけ自信満々に聞こえる」という疲れです。
建設会社側からすれば、当然です。採用できるかどうかが知りたい。売上につながるかどうかが知りたい。抽象的なノウハウやきれいな資料だけでは判断しにくい。
だからこそ、採用は「絶対に採れるか」だけで考えるより、採用できる確率を上げる仕組みが自社に残るかで見たほうが、経営判断としてはブレにくくなります。
まず採用の目的と緊急度を分け、経験者採用と未経験育成を同じ土俵で判断しない
仕事はあるのに人が足りない会社が最初にやるべきことは、求人票の修正ではありません。
まず、採用の目的と緊急度を分けることです。
特に、次の3つを分けて考えると整理しやすくなります。
1つ目は、売上拡大のための採用です。
これは、いま受けられていない仕事を受けるための採用です。必要なのは、できるだけ早く現場に入れる人です。経験者、または職種経験が近い人の優先度が高くなります。
この場合、見るべき数字は応募数だけではありません。
- 何人入れば、どの程度の仕事を追加で受けられるか
- その人が何か月で戦力化する想定か
- 現場で誰が面倒を見るか
- 既存社員の負担が増えすぎないか
このあたりまで見る必要があります。
2つ目は、将来の体制づくりのための採用です。
事業承継や高齢化対策に近い採用です。この場合は、未経験者や若手を採って育てる意味が大きくなります。ただし、未経験者は採って終わりではありません。
現場に入れて「見て覚えろ」だけでは、今の時代は続きにくいです。最初の1か月、3か月、半年で何を覚えるのか。誰が何を教えるのか。危ない作業に入る前に何を確認するのか。
こうした受け入れ体制がないと、未経験者採用は売上拡大どころか、現場の負担になることもあります。
3つ目は、会社文化に合う人を増やす採用です。
今回の会社でも、「会社の文化や仕事のスタイルに合う人であれば迎え入れたい」という考え方がありました。
これは大事です。建設業では、技術だけでなく、現場での振る舞い、段取り、報連相、車移動や朝の集合への抵抗感、職人同士の距離感などが合うかどうかで定着が変わります。
そのため、採用要件は「経験者」「未経験者」だけで切らないほうがよいです。
たとえば、次のように整理できます。
- 経験者:すぐ任せたい作業範囲、任せられない作業範囲を明確にする
- 未経験者:最初に覚える作業、教育担当、戦力化時期を決める
- 共通要件:時間を守る、報告できる、安全意識がある、現場の空気に合う
ここまで決めると、求人票の書き方も変わります。
「やる気のある方歓迎」ではなく、どんな働き方で、どんな人が合い、どんな順番で成長できるのかを伝えられます。経験者に対しては、何を評価するのかを具体的に出せます。未経験者に対しては、不安を減らせます。
また、給与を上げる場合も、ただ高く見せるだけではなく、何に対してその条件を出すのかを社内で決めておくことが大切です。
経験者に高い条件を出すなら、期待する役割を決める。未経験者に高めの条件を出すなら、育成投資として回収する期間を考える。そこが曖昧なままだと、入社後に既存社員とのバランスが崩れることもあります。
採用の優先順位は、次の順番で決めると現実的です。
- いま断っている仕事、取り切れていない仕事を整理する
- その仕事を受けるために必要な人数と職種を決める
- 経験者でなければならない仕事と、未経験でも育てられる仕事を分ける
- 現場の教育余力を確認する
- 会社に合う人材像を言葉にする
- 求人票、面接、入社後フォローを同じ基準でそろえる
採用は一発勝負ではありません。
とくに中小の専門工事会社では、採用担当者を専任で置けないことも多いです。だからこそ、社長の頭の中にある「こういう人なら合う」「こういう仕事なら任せられる」を、求人と面接と育成に使える形に落とすことが効いてきます。
まとめ
仕事があるのに人が足りない会社にとって、採用は売上を伸ばすための重要な経営テーマです。
ただし、採用と一口に言っても、目的によって優先順位は変わります。
売上拡大が目的なら、まずは戦力化までの時間を見ます。承継や高齢化対策が目的なら、未経験者を育てる体制を見ます。会社文化に合う人を増やしたいなら、経験や資格だけでなく、現場で続く人の特徴を言語化します。
求人媒体に出すことも、給与条件を見直すことも大切です。
しかし、それだけでは採用活動が点で終わってしまいます。大事なのは、採用の目的、緊急度、人材像、受け入れ体制をつなげて考えることです。
「人がいれば売上は伸びる」と見えている会社ほど、採用を急ぎたくなります。その感覚は正しいです。だからこそ、急ぎながらも、どの採用を先にやるのかを決めておくと、動き方がかなり変わります。
自社の採用優先順位を一度整理してみたいときは
「仕事はあるのに人が足りない」「経験者を採るべきか、未経験者を育てるべきか迷う」「求人媒体には出しているが、採用の型が社内に残っていない」。
こうした段階では、いきなり施策を増やすよりも、まず自社の採用目的と現場の受け入れ余力を整理するだけでも、次の一手が見えやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。採用についても、求人票だけでなく、どんな人を採るべきか、入社後にどう戦力化するかまで一緒に考えます。
「うちの場合は、まず何から決めるべきか」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、必要な整理先の一つとしてご相談ください。

































