東海圏の30名弱の専門工事会社でも、若手監督が職人に声をかけられない場面が増えている
安全文化の立て直しは、ルールを増やすことだけでは進みません。現場で「危ないよ」と言える関係をどう作るかが出発点になります。
東海圏で大手ゼネコンの現場に入る、30名弱の左官系専門工事会社の話です。職人の高齢化が進み、若手の定着も簡単ではない中で、現場の安全に対する危機感が強くなっていました。
その会社の代表は、若手の育成について「昔は背中を見て覚えろで通じたけれど、今はそれだけでは難しい」と話していました。技能の継承だけでなく、現場のコミュニケーションそのものが変わってきているという実感です。
その中で特に印象的だったのが、若い現場監督に関する悩みでした。
「若い監督が増えて、職人に話しかけるのを怖がる。危ないことを見ても、見て見ぬふりをしてしまうことがあるんです」
現場には当然、安全ルールがあります。朝礼もあります。KYもあります。ヒヤリハットの仕組みを持っている会社も少なくありません。それでも、目の前で不安全行動が起きたときに、若手監督や担当者が一言を出せない。
これは個人の勇気不足というより、現場の上下関係、経験不足、指摘の仕方、称賛の少なさが重なって起きている組織課題として見る必要があります。
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不安全行動を見ても若手が指摘できず、安全活動が現場で止まってしまう
一番の課題は、不安全行動そのものよりも、それを見た人が声をかけられない状態が当たり前になってしまうことです。
建設現場では、危険に気づく人は一人ではありません。監督、職長、職人、協力会社の担当者など、さまざまな立場の人が同じ現場を見ています。だからこそ、本来であれば「今の動き、少し危ないですよ」「そこ、足元気をつけてください」といった小さな声かけが、事故を防ぐ大事なきっかけになります。
ところが、若手監督や若手担当者にとって、年上の職人に声をかけることは簡単ではありません。
特に、次のような場面では声が止まりやすくなります。
- 相手がベテラン職人で、自分より現場経験が長い
- 以前に注意したら、強く言い返されたことがある
- 「そんなことも知らないのか」と思われるのが怖い
- 注意の言い方が分からず、叱責のようになりそうで避けてしまう
- 所長や職長も普段からあまり声をかけていない
実際に、ある大型現場でも「若手が不安全行動に対して何も指摘できない場面を見て、所長が危機感を持った」という話がありました。
ここで大事なのは、若手を責めても解決しないということです。若手本人も、危ないことに気づいていないわけではありません。むしろ気づいているからこそ、どう言えばいいか迷っていることが多いです。
安全活動が形式化している現場では、書類上の安全と、現場で声をかけ合う安全が分かれてしまいます。
朝礼で「安全第一」と言う。KYシートを書く。ヒヤリハットを集める。これらはもちろん大切です。ただ、それだけでは「目の前の一言」は生まれません。
安全文化を立て直すには、若手が注意できるようにする前に、若手が声をかけても大丈夫だと思える現場の空気を作る必要があります。
上下関係とコミュニケーション経験不足で、注意が叱責に見えやすくなっている
若手が声をかけられない背景には、現場の上下関係だけでなく、「注意=怒ること」と受け取られやすい風土があります。
建設業では、技能も安全も、長く「見て覚える」「背中で学ぶ」文化の中で受け継がれてきました。もちろん、その中で育った強い職人もたくさんいます。言葉にしなくても分かる関係、厳しさの中にある愛情もあったはずです。
ただ、今の若手に同じやり方がそのまま通じるとは限りません。
東海圏の専門工事会社の代表も、「一人前になるまでに何年もかかる仕事なのに、最近の若い人はきつく言われると辞めてしまうことがある」と話していました。これは甘い・弱いという話ではなく、育て方や関わり方の前提が変わってきているということです。
一方で、現場監督側も変化しています。若い監督が増え、職人との距離感をつかむ前に、現場を任される場面があります。書類、工程、品質、安全、施主対応、協力会社調整。やることは多く、余裕がない中で、職人との雑談や小さな声かけの経験が積みにくくなっています。
その結果、声をかける場面が「普段の会話」ではなく、「危ないときの注意」だけになりがちです。
これでは、若手にとっても職人にとっても重くなります。
「危ないですよ」と言っただけのつもりでも、相手には「若い監督に注意された」と映ることがあります。反対に、若手側は「怒らせたらどうしよう」と感じます。こうして、声かけのハードルがさらに上がります。
また、ヒヤリハットの仕組みがあっても、入力が面倒だったり、提出して終わりになっていたりすると、現場の行動変化にはつながりにくくなります。ある大規模現場では、自社開発のヒヤリハット管理があるものの、Excelやマクロ中心で使い勝手に課題があり、現場側が使いやすい仕組みを求めていました。
ヒヤリハットは集めることが目的ではなく、「次に同じ危険を見たとき、誰がどう声をかけるか」までつなげて初めて意味が出ます。
現場はロボットが動かしているわけではありません。人が動き、人が気づき、人が声をかけて止めるものです。
ある現場関係者の「ロボットがやっているわけじゃないから、声をかけてもらえると嬉しいんだよ」という言葉は、まさに安全文化の本質を表しています。
注意ではなく声かけとして始め、所長と職長が見本を見せる仕組みにする
若手が不安全行動を指摘できる現場にするには、「注意しなさい」ではなく「こう声をかければいい」を決めることが有効です。
安全文化を変えるとき、最初から大きな制度を作ろうとすると重くなります。まずは、現場で使う言葉をそろえるところから始めるのが現実的です。
たとえば、若手監督に「危険行動を見たら注意しろ」と言うのではなく、次のような声かけを標準にします。
- 「そこ、足元だけ気をつけてください」
- 「一回止めますね。今の動き、少し危なかったです」
- 「すみません、安全帯だけ確認してもらっていいですか」
- 「今の作業、別のやり方のほうが安全そうです」
- 「ありがとうございます。そこ直してもらえると助かります」
ポイントは、相手を責める言い方ではなく、作業を一度安全側に戻す言い方にすることです。
「何やってるんですか」「危ないじゃないですか」と言うと、相手によっては叱責に聞こえます。もちろん緊急時には強く止める必要がありますが、日常的な不安全行動の多くは、まず声をかけて止めることが大切です。
そのためには、若手だけに任せないことです。所長、工事長、職長、ベテラン職人が見本を見せる必要があります。
具体的には、次の順番で進めると現場に入りやすくなります。
- 所長・職長が、まず自分から短い声かけをする
若手は、上の人がどう言うかを見ています。所長や職長が普段から「ありがとう」「そこ助かります」「今の止め方よかったです」と言っていれば、若手も真似しやすくなります。
- 不安全行動だけでなく、良い行動も共有する
危ないことだけを取り上げると、安全活動は重くなります。「声をかけて止めた」「足場周りを先に片づけた」「新人に危険箇所を教えた」といった良い行動も拾うことで、現場に前向きな空気が出ます。
- ヒヤリハットを“報告書”ではなく“会話の材料”にする
ヒヤリハットは、提出数を増やすだけでは現場が疲れます。朝礼や昼礼で一つだけ取り上げ、「次に見たら何と声をかけるか」まで確認すると、行動に変わりやすくなります。
- 若手が言いやすい場を作る
いきなり作業中のベテランに声をかけるのが難しいなら、職長会や安全打合せで「若手から見て気になったこと」を先に共有する場を作ります。そこで所長や職長が受け止める姿勢を見せると、現場での一言につながります。
- 称賛と改善をセットにする
「危ない行動を注意した人」だけでなく、「声をかけられてすぐ直した人」も評価します。これが大事です。指摘した側だけを褒めると、指摘された側が悪者になりやすいからです。
安全活動は、違反者を探す仕組みではなく、安全側に戻す行動を増やす仕組みにした方が続きます。
判断軸としては、次の3つを見るとよいです。
- 若手が現場で使える「短い声かけ」が決まっているか
- 所長・職長が、その声かけを日常的に見せているか
- ヒヤリハットや良い行動が、現場の会話に戻っているか
この3つがないまま、アプリやシステム、帳票だけを増やしても、現場では「また入力するものが増えた」で終わりやすくなります。逆に、声かけの型と見本がある現場では、ヒヤリハットや称賛の仕組みも活きやすくなります。
大規模現場では、作業員が平均500人、ピークで1,000人近くになることもあります。その規模になると、所長一人、安全担当一人で全てを見ることはできません。だからこそ、気づいた人が声をかけられる状態を、現場全体の安全インフラとして作ることが必要になります。
まとめ
若手監督が職人に声をかけられない問題は、若手個人の弱さではなく、現場の安全文化の設計課題です。
危ないと気づいているのに言えない。言いたいけれど、どう言えばいいか分からない。言った後の空気が怖い。こうした状態が続くと、安全活動は書類や朝礼の中に閉じてしまいます。
立て直しの第一歩は、注意を強化することではありません。
「危ないことを責める」から、「安全側に戻すために声をかける」へ変えることです。
そのためには、若手が使える短い言葉を決め、所長や職長が見本を見せ、ヒヤリハットや良い行動を現場の会話に戻していくことが大切です。
特に中小・専門工事会社では、職人同士の距離が近い分、良い声かけが広がるのも早いです。反対に、言いにくい空気もすぐに定着します。
だからこそ、まずは次の安全打合せで一つだけ決めてみるのがよいです。
「危ないと思ったとき、うちの現場では何と言って止めるか」
この一言をそろえるだけでも、若手にとっては大きな支えになります。
若手が声をかけやすい安全活動を、現場に合わせて整理したい方へ
若手監督や若手担当者が不安全行動を指摘できない背景には、現場ごとの人間関係、職長との距離感、ヒヤリハットの運用、称賛の仕組みなどが複雑に絡んでいます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。安全活動についても、「何から整えればよいか」「声かけやヒヤリハットをどう現場に定着させるか」といった段階から一緒に考えることができます。
うちの場合はどう考えるべきか、まだ整理しきれていないという段階でも構いません。無理な営業はいたしませんので、必要なタイミングでお気軽にご相談ください。






























