前提

首都圏の5名弱の専門工事会社が全国現場を回し、社長が移動しながら判断を拾っている状態

首都圏に本社を置き、関西や四国にも拠点を持つ5名弱の専門工事会社の話です。通信キャリア関連の店舗・施設工事を中心に、愛知、九州、中国地方、離島エリアまで全国の現場を動かしています。

固定客からの依頼が多く、むやみに販路を広げたいわけではありません。むしろ課題は、案件があることではなく、全国に散らばる現場を社長自身が見に走らないと収まりにくいことにあります。

社長は現場を複数抱えながら、新幹線や飛行機で移動し、電話に出られない時間も多い。顧客側もそれを理解していて、メールの内容をLINEで送り直してくれる。社長は移動中にLINEを確認し、判断して、社内メンバーや協力会社に振っていく。そうした動き方が日常になっています。

象徴的だったのは、協力会社とのやり取りです。ある地域の職人と初めて取引する際も、社長がオンラインで顔を合わせ、人となりや話の通じ方を確認したうえで依頼していました。現場のクロス品番が変わりそうになれば、その場で電話を受けて調整する。つまり、現場管理、職人調整、価格交渉、品質判断が社長の手元に集まっている状態です。

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課題

社長が話さないと価格も品質も協力会社も動かない構造

この会社では、現場メンバーがまったくいないわけではありません。ただ、協力会社との調整になると、最後は社長が出ていかざるを得ない場面が多くなっています。

社長の言葉を借りれば、「うちは小さいので別に2人いますけど、その2人が話しても、向こうも親方相手なのでなかなか言うことを聞かない。最終的には僕が話さないと値段の調整が効かない」という状況です。

全国現場では、地域ごとの施工単価や職人の温度感が大きく違います。たとえば、同じ中部圏でもエリアによって施工費用の感覚が異なり、ある地域では「この金額が普通です」と言われる。一方で、別の地域の見積もりや実績を見ると、そこまで高くないこともある。

そのとき社長は、単に「高いから下げてください」と言うのではなく、複数の比較材料を出しながら、「何件も見積もりを取ったけれど、御社は1.5倍になっている。高い理由があるなら教えてほしい」と交渉しています。

これは単なる値切りではありません。地域相場、材料状況、施工条件、相手の納得感を踏まえた調整です。だからこそ、現場メンバーだけでは代替しづらいのです。

さらに品質面でも、初めての協力会社に丸投げすることはできません。「できる」と言われても、実際にやってみると求める水準に届かないことがある。やり直しになれば、最終的に責任を負うのは自社です。

特に通信キャリア関連の工事は、一般的な内装工事とは違い、マニュアルに沿った仕上がりが求められます。クロス屋、床屋、軽鉄ボードの職人を見つければ済む話ではなく、組み上げ方や納め方そのものに業界特有のルールがあります。

そのため、「現地の職人を半分、自社側のメンバーを半分」くらいで入れないと現場がまとまらない。この感覚は、全国対応している小規模会社ほどよく分かるところだと思います。

背景

特殊な施工ルールと職人との関係調整が、社長の暗黙知になっている

なぜ社長が現場を回らないと協力会社が動きにくいのか。背景には、大きく2つの属人化があります。

1つ目は、施工ルールの属人化です。

この会社の仕事では、「1から10まで言わなくても、これは業界の常識としてこうだよね」という前提があります。ただ、その常識は通信キャリア関連工事を何度か経験しないと伝わりません。一般的な店舗修繕や内装工事の感覚で入ってくる職人にとっては、「なぜそこまでやらなければいけないのか」と感じる場面もあります。

社長はそこを現場で説明し、理解させ、必要ならやり直させる。つまり、施工品質を守るための判断基準が、図面や工程表だけでなく、社長の経験と言葉の中に残っているわけです。

2つ目は、協力会社との関係調整の属人化です。

職人を動かすには、指示を出すだけでは足りません。地域によっては「他にも仕事があるから」と離れてしまう職人もいます。強く言いすぎれば動かなくなるし、甘くしすぎれば品質や工程が緩む。社長は「お尻を叩きながら、頭を撫でながら」と表現していました。

この言葉には、小規模建設会社の現場管理の難しさが詰まっています。職人との関係は、契約書や工程表だけでは動きません。相手の事情を見ながら、言うべきことは言い、逃げ道もつくり、でも最終品質は譲らない。その塩梅を社長が担っているのです。

さらに年齢や移動負担もあります。創業当初から40代後半くらいまでは、社長自身が動き回ることで何とかなっていた。しかし、コロナ明け以降、通信キャリア関連の工事が戻り始め、全国現場も増えるなかで、このまま全部を自分で拾い続けるのはしんどいと感じ始めています。

ここで重要なのは、社長が現場から完全に離れることではありません。いきなり任せるのではなく、社長が介入すべき判断と、現場責任者に渡せる判断を分けることです。

解決

社長の判断基準を現場責任者と協力会社が使える形に変えること

この状態を変える第一歩は、協力会社を一気に増やすことでも、現場管理システムを入れることでもありません。まず必要なのは、社長が普段やっている判断を分解することです。

現場を任せられない会社では、「任せられる人がいない」のではなく、任せるための基準が社長の頭の中にしかないことが多いです。基準がなければ、現場責任者は判断できません。協力会社も、何を守れば合格なのか分かりません。

整理したいのは、次のような項目です。

  • 施工前に必ず確認する図面・品番・材料・納まり
  • 通信キャリア関連工事で外してはいけない施工ルール
  • 初回協力会社に事前説明すべき注意点
  • 現場責任者がその場で判断してよい範囲
  • 社長確認が必要な金額差、納期遅延、品質不備の条件
  • LINEで報告すべき写真、文章、タイミング

たとえば、初めての協力会社に対しては、工程表だけを渡して「お願いします」ではなく、施工前チェック資料を用意します。そこには、一般的な内装工事との違い、やってはいけない納め方、過去に手戻りになったポイント、写真で確認すべき箇所を入れます。

ポイントは、分厚いマニュアルを作ることではありません。現場で使われなければ意味がありません。最初はA4数枚でもよいので、協力会社が着工前に読めて、現場責任者が説明に使える資料にすることです。

次に、現場責任者への権限移譲です。

いきなり「全部任せる」は難しいので、判断を3段階に分けると進めやすくなります。

  • 現場責任者だけで決めてよいこと
  • LINE報告後、社長の返信を待って進めること
  • 必ず社長が直接相手と話すこと

たとえば、品番変更や軽微な工程調整は、写真と変更内容をLINEで送れば現場責任者が進められるようにする。一方で、見積金額が一定以上ずれる、初回協力会社が施工ルールに納得していない、手戻りにつながる品質判断が発生した場合は社長が入る。こうした切り分けをしておくと、社長の介入が「全部」から「本当に必要な場面」に絞られます。

LINEの使い方も重要です。すでに顧客からLINEで情報を受け、社長が判断してメンバーへ振る流れがあるなら、それを社内外の報告設計に転用できます。

ただし、単なる連絡手段として使うのではなく、報告フォーマットを決めます。

  • 現場名
  • 協力会社名
  • 相談内容
  • 判断してほしい期限
  • 写真
  • 現場責任者の見立て

この形にしておくと、社長は移動中でも判断しやすくなります。同時に、現場責任者も「自分はどう見ているのか」を書くことになるため、判断力が育ちます。

また、価格交渉についても、社長の交渉材料を蓄積していくことが有効です。地域別の施工単価、材料の入手状況、過去見積、実際に通った金額を一覧化しておけば、現場責任者も協力会社に説明しやすくなります。

社長が毎回ゼロから「この地域は高い」「でも他ではこの金額でできている」と話すのではなく、会社として持っている比較材料を使って交渉する状態に近づけるのです。

最後に、初回協力会社の扱い方です。

この会社のように特殊な施工ルールがある場合、初回から丸投げは危険です。最初の1〜2現場は、自社側のメンバーを厚めに入れ、協力会社の理解度を見ます。そのうえで、2回目、3回目と任せる範囲を広げる。協力会社ごとに「任せられる工種」「注意が必要な工程」「社長確認が必要な場面」を記録していくと、次回以降の判断が楽になります。

つまり、目指すべきは社長不在の現場ではなく、社長の判断基準が現場に移植された状態です。

まとめ

小規模な建設会社で、社長が現場を回り、職人を調整し、価格を交渉し、品質を判断している状態は珍しくありません。特に全国現場や特殊な施工ルールを持つ会社では、社長が動くことで品質と信用を守ってきた面があります。

ただ、年齢や移動負担が重なってくると、同じやり方を続けるのは少しずつ難しくなります。そこで必要なのは、社長の現場感覚を否定することではなく、社長の判断を現場責任者と協力会社が使える形に変えることです。

まずは、施工前チェック、協力会社向け説明資料、LINE報告の型、権限移譲の範囲、社長が介入すべき場面を整理する。これだけでも、社長が拾う判断はかなり絞られます。

協力会社を増やすかどうかは、その後でも構いません。先に任せる基準をつくっておけば、新しい協力会社を迎えるときも、現場責任者に任せるときも、失敗しにくくなります。

社長の現場判断を、会社の仕組みに変えていくために

「うちの場合、どこまで任せられるのか」「現場責任者に何を渡せばよいのか」「協力会社向けの説明資料をどう作ればよいのか」といった整理は、会社ごとの施工内容や取引構造によって変わります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。現場管理の属人化をほどき、ものづくりに集中できる建設業界へ近づけるための進め方を一緒に考えることも可能です。

「まだ具体的な依頼内容までは固まっていない」「何から整理すべきかわからない」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、自社の状況を整理するきっかけとしてご活用ください。

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