首都圏西部の外装・防水会社で、直請けのルートは見え始めている
首都圏西部で外装・防水系の工事を手がける、20名弱の専門工事会社の話です。
現場側には職人が複数名いて、事務方もいる。長年の取引先もあります。ただ、職人の中心は50代、60代で、70代のベテランも残っています。一方で、20代、30代の若手も少しずつ入ってきています。
社長の考えははっきりしていました。
「売上をただ上げたいわけじゃない。良い顧客を増やしたいんだよ」
ここでいう良い顧客とは、単に大きな会社という意味ではありません。妥当な金額で仕事を出してくれて、その期待に対してこちらも良い仕事で返せる相手です。
すでに、大手住宅系の会社や大手ゼネコン系の仕事につながるルートは見えています。以前から付き合いのある営業担当者が別会社に移り、そこから直請けに近い形で仕事が入る可能性も出てきています。
ただし、話が見えていることと、実際に受けられることは別です。
社長はこう話していました。
「ルートはある。でも、今の会社の中身だと与信で引っかかるんだよ」
現状では小口の工事は受けられる。けれど、数千万円規模、さらに大きな案件になると、与信評価や社内体制が壁になります。直請けを増やす局面では、営業力だけでなく“受けられる会社になっているか”が問われます。
営業先を増やす前に、与信・施工管理者・担当ラインが受注上限を決めている
直請け化の課題は、新規営業の件数だけではありません。今回の会社では、主に3つの壁が見えていました。
1つ目は、与信です。
大きな会社から直接仕事を受けるには、工事の腕だけでなく、会社としての信用力を見られます。社長の感覚では、現在の評価は基準ギリギリ。一定ラインを超えれば大きな案件を受けられる可能性がある一方、そこに届かなければ話があっても進みません。
「ここがプラスになっていかないと、そこから入れないんだよ」
そこで、資本性に近い形で評価される資金調達も検討していました。借入として単純に負債が増えるのではなく、一定期間は資本のように見られる可能性があるものです。細かな制度設計は個別確認が必要ですが、社長の狙いは明確です。与信の点数を上げ、大きな案件を受けられる入口に立つことです。
2つ目は、施工管理者の不足です。
直請けや元請けに近い立場で仕事を受けると、現場を見る人が必要になります。職人だけでは回りません。協力会社を手配し、工程を見て、元請けや発注者と調整する人が必要です。
社長は、短期的には外部の施工管理経験者に入ってもらうことも考えていました。
「4ヶ月の現場なら、その期間だけでも、うちの制服を着て現場監督をやってくれる人がいればいい」
これはかなり現実的な悩みです。施工管理者を正社員で採用するのは簡単ではありません。紹介会社を使えば費用も大きい。しかも、資格を持っているからといって、自社の現場に合うとは限りません。
3つ目は、社内の担当ラインです。
社長は将来的に、取引先ごとに担当ラインを分けたいと考えていました。たとえば、大手ゼネコン系、大手住宅系、地場の施設・工場・学校・病院系のように、3本ほどの柱をつくるイメージです。
それぞれに、営業、工事管理、協力会社や職人の手配を紐づける。
「担当者を決めて、営業から工事、人の出し方まで、そのラインでまとめたい」
ここが整わないまま営業だけ増やすと、社長の頭と現場の頑張りだけで回す形になります。最初は何とか回りますが、案件が大きくなるほど無理が出ます。
直請けを増やす前に見るべきなのは、営業先リストではなく、与信・施工管理・担当ラインの3点です。
「良い顧客」を取りに行くほど、財務と人員と教育の未整備が表に出る
この会社が直請けを増やしたい理由は、単に利益率を上げたいからではありません。
社長の言葉に、構造がよく出ていました。
「良い顧客がいないと、良い仕事を取れない。良い仕事がないと、良い人材を育てられない」
これは中小の専門工事会社にとって、かなり大事な視点です。
下請け、二次請け、三次請けの仕事では、こちらの都合で教育計画を組みにくくなります。元請け側から「急ぎだからこっちをやって」「次は別の現場に入って」と言われれば、それに合わせるしかありません。
この会社の工事は、防水、シーリング、シート系、外装補修など、複数の作業が絡みます。若手を入れても、現場ごとにやることが変わり、ひとつの技能を集中的に身につけにくい状態でした。
「3ヶ月やって、次の現場でまた違うことをやる。あと少しで手が動くところまでいっても、また戻っちゃうんだよ」
もし、直請けで一定の工事を安定して受けられれば、教育の組み方が変わります。たとえば、若手を数ヶ月単位でシーリングの協力会社に預ける。次はウレタン防水の現場で半年学ばせる。給与は自社で持ちながら、専門の仕事を毎日経験させる。
社長は、若手を2年ほどで複数の選択肢に進められる状態を描いていました。
- 職人として技能を深める
- 施工管理を目指す
- 営業側に回る
- 協力会社や職人をまとめる側に進む
この構想自体は、とても筋が通っています。直請けの獲得は、売上のためだけでなく、若手を育てる現場を確保するためでもあります。
ただ、そのためには先に整えるものがあります。
与信が足りなければ、大きな顧客に入れません。施工管理者がいなければ、元請けに近い責任を負えません。担当ラインがなければ、社長がすべてを抱えることになります。
つまり、直請け化の本質は「営業を増やすこと」ではありません。良い顧客を受け止められる会社の器をつくることです。
狙う顧客を絞り、受けられる案件規模を広げる順番を決める
直請けを増やすなら、最初にやるべきことは「どこでもいいから新規開拓」ではありません。狙う顧客、受けられる規模、社内で回す体制をセットで決めることです。
今回のような会社であれば、進め方は大きく4段階に分けられます。
1. 与信を先に整え、受けられる案件規模を明確にする
まず、現在どの規模の案件まで受けられるのかを把握します。
小口なら受けられるのか。数千万円規模は難しいのか。どの評価項目が足を引っ張っているのか。資本性資金や金融機関との関係、決算書の見え方で改善できる余地はあるのか。
ここを曖昧にしたまま営業すると、せっかく案件の話が出ても、最後に与信で止まります。
見るべきポイントは、次のような項目です。
- 自己資本の見え方
- 借入と資本性資金の扱い
- 直近決算の利益状況
- 工事経歴や取引実績の見せ方
- 受注したい会社側の与信基準
大事なのは、単に資金を入れることではありません。どの顧客の、どの規模の案件を受けるために、どの数字を改善するのかを決めることです。
2. 施工管理者は「採用」だけでなく「短期確保」と「育成」を分けて考える
施工管理者不足は、多くの専門工事会社で詰まりやすいところです。
いきなり即戦力を正社員で採るのは難しいです。紹介会社経由では費用も大きく、入社後に合わない可能性もあります。だからこそ、短期と中長期を分けます。
短期では、案件単位で現場を見られる人を確保する。資格者や施工管理経験者に、数ヶ月単位で入ってもらう形です。もちろん、法令や契約、責任範囲の整理は必要です。
中長期では、社内の20代、30代を育てる。職人から施工管理へ進む道をつくる。現場経験、資格取得、営業同行、協力会社調整を段階的に経験させる。
施工管理者は、外から採るだけではなく、案件を受けながら育てる設計が必要です。
3. 営業・工事管理・人の手配を取引先別のラインにする
直請けが増えると、社長ひとりの差配では限界が来ます。
大手系の仕事、地場施設の修繕、既存取引先の工事。それぞれで求められる対応は違います。だから、取引先別に担当ラインを分ける考え方が有効です。
たとえば、次のように整理します。
- Aライン:既存の大手系取引先
- Bライン:大手住宅・改修系の新規ルート
- Cライン:地場の工場、病院、学校、自社ビルなどの長期修繕
それぞれに、営業窓口、工事管理、協力会社手配、見積・請求の担当を決めます。最初は兼務でもかまいません。大切なのは、案件が来たときに誰が何を判断するかを先に決めておくことです。
4. 狙う顧客は「近さ」と「継続修繕」で絞る
この会社の場合、地場の顧客についても考え方が明確でした。
遠方の現場ではなく、頻繁に顔を出せる距離。工場、病院、学校、自社ビルのように、建物を長く使い続ける先。何かあったときに「外装や防水ならあの会社に頼もう」と思ってもらえる関係です。
ここで大事なのは、顧客リストを広げすぎないことです。
直請け化の初期段階では、件数を追いすぎると社内が崩れます。狙うべきは、次の条件に合う顧客です。
- 移動時間が現実的で、継続訪問できる
- 建物を長期保有している
- 小修繕から中規模改修まで継続的に発生する
- 価格だけでなく、品質や対応力を見てくれる
- 若手教育にもつながる種類の工事がある
良い顧客を絞ることは、売上機会を狭めることではなく、会社の育ち方を決めることです。
まとめ
下請け中心から直請けを増やすとき、多くの会社は「営業先をどう増やすか」から考えます。もちろん営業は必要です。ただ、今回のようにルートが見えている会社ほど、先に見るべきものがあります。
直請けを受けられるかどうかは、与信、施工管理者、社内の担当ラインで決まります。
与信が整えば、大きな案件の入口に立てます。施工管理者がいれば、元請けに近い責任を担えます。担当ラインがあれば、社長だけに依存せず案件を回せます。
そして、良い顧客を取ることは、単なる売上アップではありません。若手に良い現場を経験させ、職人、施工管理、営業へ進む道をつくることにもつながります。
目の前の案件を取りに行くことと、5年後に渡せる会社をつくること。この2つは分けて考えるものではありません。直請け化は、売上戦略であると同時に、組織づくりと教育の土台づくりでもあります。
直請け化の前に、自社の受注体制を一緒に整理する
「直請けを増やしたいけれど、うちの場合は何から整えるべきか分からない」
そんな段階でも、まずは整理するところから始められます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の販路拡大、資金調達、人材確保、組織活性化、原価管理、デジタル活用まで、会社の現在地に合わせて横断的に整理し、実行まで支援しています。
直請け開拓であれば、営業先を増やすだけでなく、与信、施工管理者の確保、社内の担当ライン、狙う顧客の選定まで含めて考えることが大切です。
「今は営業より先に社内体制かもしれない」「案件はあるが受けきれるか不安」「3本目の柱になる顧客を探したい」といった段階でも大丈夫です。
無理な営業はいたしません。まずは、自社の場合に何から整理するとよいかを一緒に確認できればと思います。































