前提

東海地方の10名規模の専門工事会社で、会長・社長・職人側の実権が親族間に分散している状態

地方の建設会社では、親族が経営と現場の両方を支えていることが珍しくありません。東海地方にある10名規模の専門工事会社でも、父親が会長、兄弟の一方が社長、もう一方が職人側の中心という体制になっていました。

親族だからこそ、長年の信頼関係を前提に素早く判断できる強みがあります。一方で、会社が小さいうちは問題にならなかった関係性が、人を増やす段階で指示系統の分かりにくさとして表に出ることがあります。

たとえば、役職上は社長が責任者でも、現場では会長やベテラン職人の発言力が強い場合があります。親族それぞれに近い従業員が生まれ、周囲からは派閥のように見えることもあります。

家族経営そのものが問題なのではなく、家族内では通じていた暗黙のルールを、入社した人にも分かる会社のルールへ変えられていないことが課題です。

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課題

若手の定着を妨げる「誰の指示を聞けばよいか分からない」状態

若手が辞める直接のきっかけは、仕事の厳しさや待遇だけとは限りません。見過ごされやすいのが、日々の判断に迷い続ける働きにくさです。

相談の中でも、「家族でごちゃごちゃしていると、新しく入った人が辞めてしまう。若手は余計に、誰に話を聞いたらいいか分からない」という声がありました。

社長から言われたことと、会長や職人側の中心人物から言われたことが違う。確認しようにも、誰に聞けば最終回答になるのか分からない。どちらかの指示に従うと、もう一方との関係が悪くなりそうに感じる。こうした状態では、若手が仕事そのものではなく、社内の力関係を読むことに時間を使ってしまいます。

特に入社直後は、技術、現場の段取り、安全上の注意、取引先ごとの進め方など、確認したいことが多い時期です。その段階で相談相手が曖昧だと、質問すること自体が負担になります。

若手の離職を「本人との相性」で片づける前に、誰が指示し、誰が判断し、誰に相談するのかが見える状態だったかを確認する必要があります。

背景

親族の関係性が役職・実権・評価に重なってしまう構造

指示系統が混乱する背景には、役職と実際の影響力のずれがあります。

会社の組織図では社長が最終責任者でも、創業者である会長が重要事項を決めていることがあります。現場では、役職を持たない親族の職人が、経験や人望を背景に実質的な責任者になっている場合もあります。

さらに親族間に過去からの不和があると、会社の判断にも影響が及びます。会長と一方の兄弟は近いものの、社長とは話が通りにくいといった関係が続けば、従業員も無意識に「誰に付くか」を考えるようになります。

ここで難しいのは、家族の問題と会社の問題が同じ会話の中で扱われてしまうことです。昔からの感情や家庭内での立場まで含めて話し始めると、業務上の役割を冷静に決めにくくなります。

役職名だけを決めても、実際に誰が意思決定しているかが変わらなければ、指示系統は整いません。必要なのは、肩書と実権を一致させることです。

また、若手から見れば親族間の事情は分かりません。経営側には「あの人は口を出すが、最後は社長が決める」という共通認識があっても、明文化されていなければ入社した人には伝わりません。

家族内の暗黙知に依存した運営は、採用した人が増えるほど伝達コストと判断の迷いを生みやすくなります。

解決

家族の問題と会社の問題を分け、権限・意思決定・相談経路を整える進め方

最初に取り組みたいのは、親族間の仲を無理に改善することではありません。会社として必要な判断が滞らないように、業務上のルールを先に整えることです。

「家族としてどう思うか」と「会社の役職として何を決めるか」を分けることが、組織を立て直す出発点です。

1.現在の肩書ではなく、実際の意思決定者を書き出す

まず、誰が実際に指示や判断をしているのかを業務ごとに整理します。組織図をきれいに作るより、現状を正確に把握することが先です。

整理したい項目には、次のようなものがあります。

  • 現場の担当者や配置を決める人
  • 工程や施工方法について最終判断する人
  • 資材購入や外注を承認する人
  • 若手へ日常的に指示を出す人
  • 注意、評価、昇給について判断する人
  • 顧客対応やトラブル対応の責任者

同じ項目に複数の名前が挙がる場合は、指示が重複している可能性があります。反対に誰の名前も挙がらなければ、判断が宙に浮いている業務です。

2.業務ごとに最終責任者を一人にする

親族全員が意見を言うことと、最終的に判断する人が複数いることは別です。意見を出す人が何人いても、最終責任者は一人にします。

現場の技術判断は職人側の責任者、採用や評価は社長、一定額以上の投資は経営会議というように、会社に合った分け方を決めます。重要なのは、役職の上下だけで決めるのではなく、経験、責任を負える範囲、本人が確保できる時間を踏まえて設計することです。

一つの業務に対する最終責任者を一人に定め、他の親族はその決定を従業員の前で覆さないことが基本ルールになります。

3.指示が食い違ったときの優先順位を決める

すべての指示を事前に統一するのは難しいため、食い違った場合の扱いを決めておきます。

たとえば、若手が複数の指示を受けたときは、自分で力関係を判断させず、直属の責任者へ戻す流れにします。緊急時や安全に関わる場合は誰の指示を優先するかも、別途決めておく必要があります。

指示を出した親族同士で調整することも大切です。若手を伝言役にすると、本人が対立の間に立つことになるためです。

指示の不一致を調整する責任は経営側にあり、若手に「うまく立ち回ること」を求めない仕組みが必要です。

4.直属の相談先と、別経路の相談先を用意する

日常業務の相談先は一人に絞ります。ただし、その相手との関係で困った場合に備え、社長や別の管理者など、もう一つの相談経路も明確にします。

相談経路は口頭で伝えるだけでなく、簡単な組織図や役割表にして共有します。新入社員には、入社時に次の点を説明できる状態が望ましいです。

  • 普段の業務指示は誰から受けるのか
  • 技術的な質問は誰にするのか
  • 指示が食い違った場合は誰に戻すのか
  • 評価や働き方の相談は誰にするのか

若手に必要なのは複雑な制度ではなく、「この内容なら、この人に聞けば決まる」という分かりやすさです。

5.親族だけで整理できない場合は第三者を進行役にする

親族間で長年の経緯がある場合、当事者だけの話し合いでは過去の感情に戻りやすくなります。そのときは、外部の第三者に判断を委ねるのではなく、論点を整理する進行役として入ってもらう方法があります。

第三者を選ぶ際は、家族関係だけを見るのではなく、建設業の現場と中小企業の意思決定を理解しているかが判断軸になります。現場の指揮命令、安全上の責任、職人の経験を踏まえずに形式だけ整えると、運用されない組織図になりかねません。

進め方としては、親族それぞれから個別に現状を聞き、業務上の事実と家族間の感情を分けたうえで、共通の場で権限と役割を決めます。決めた後は、従業員へ同じ内容を伝え、実際に指示が一本化されているかを確認します。

第三者の役割は親族間の勝ち負けを決めることではなく、従業員が迷わず働ける会社のルールへ翻訳することです。

まとめ

家族経営の建設会社で若手が定着しないときは、採用条件や本人の適性だけでなく、社内の指示系統を見直す必要があります。

父親が会長、兄弟が社長や職人側の中心を担う体制では、役職と実権がずれやすく、親族間の関係が従業員にも影響することがあります。その状態で若手に判断を委ねると、「誰に聞けばよいか分からない」という負担が積み重なります。

整理する順番は、次のとおりです。

  1. 実際に指示や判断をしている人を業務ごとに把握する
  2. 業務ごとの最終責任者を一人に決める
  3. 指示が食い違った場合の優先順位を定める
  4. 若手の直属の相談先と別の相談経路を明示する
  5. 親族だけで進まない場合は第三者を交えて整理する

若手の定着に向けて先に整えたいのは、立派な人事制度ではなく、誰が何を決める会社なのかが全員に伝わる土台です。

親族経営の役割と指示系統を整理するための次の一歩

親族が会社と現場を支えてきたからこそ、役割を見直す話は切り出しにくいものです。「うちの場合は誰を責任者にすべきか」「家族の話と会社の話をどう分ければよいか」という段階から整理しても問題ありません。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、必要に応じて建設業に知見のある顧問とともに実行を支援しています。

若手が迷わず働ける指示系統や相談経路を整えたいものの、親族だけでは話が進みにくい場合は、現状の整理先としてお声がけください。無理に支援を勧めることはありませんので、まだ課題が言葉になっていない段階でも大丈夫です。

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