前提

売上約1億4,000万円まで成長する一方、原価管理ソフトの実績を受注判断に使い切れていない現在地

千葉県を中心に、ビルやマンション、大型施設の電気・内装工事を手がける10名弱の専門工事会社があります。電気工事は1件あたりの売上が大きく、売上構成は電気が約6割、内装が約4割です。ただし、電気工事では協力会社や一人親方への外注も多く使っています。

会社が小さかった頃は、「いただける仕事は幅広く受ける」という方針で売上を伸ばしてきました。その結果、年商は約1億4,000万円まで増えましたが、決算上の利益は100万円程度にとどまっています。

そこで前年から原価管理ソフトを導入し、案件ごとの支出や人工などを入力してきました。約1年分のデータがたまり始めています。

それでも、経営者から出てきたのは次の言葉でした。

「原価管理をしても、それが受注金額に反映されてこないんですよね。これくらいで取れば利益が出る、という基準をつくりたいです」

原価管理ソフトの導入は出発点であり、利益を残すには蓄積した実績を見積金額と受注判断の基準へ変える必要があります。

1週間で 15件の相談 がありました

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  • 8月18日電気設備工事会社京都府原価管理の相談
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課題

工事が終わるまで採算が分からず、売上の増加が利益の増加につながらない状態

大きな課題は、案件の実績原価を記録できても、受注前の判断に使える形になっていないことです。

建設工事では、着工後に数量や人工、工期が変動することがあります。そのため、契約時点で最終利益を完全に確定するのは難しいものです。ただし、「終わってみるまで全く分からない」状態と、「過去の実績から一定の範囲を予測できる」状態には大きな違いがあります。

今回の会社では、対応できる工事を幅広く受けてきたため、案件ごとに次の条件が異なっています。

  • 材料費がどの程度かかったか
  • 外注費がどの程度必要だったか
  • 自社職人が何人工入ったか
  • 予定に対して工期がどの程度かかったか
  • 最終的にいくらで受注し、いくら残ったか

これらを案件単位で確認するだけでは、「この工事は赤字だった」「こちらは利益が出た」という事後確認で終わります。次の見積もりで同じ判断を繰り返さないためには、複数案件を工事種別ごとに束ね、共通する傾向を抽出しなければなりません。

案件別の採算確認だけでは過去の答え合わせにとどまり、工事種別ごとの基準をつくらなければ次の受注金額は変わりません。

背景

受けられる仕事を優先した成長過程と、売上の大きい電気工事ほど外注費も膨らむ収益構造

この状態は、原価管理への意識が低かったから起きたとは限りません。少人数から会社を成長させる段階では、まず仕事を確保し、職人が動ける状態をつくることが優先されます。「対応できる工事は受ける」という判断も、当時の経営には必要だったと考えられます。

一方、人数と売上が増えると、受注量だけでは経営状態を捉えにくくなります。特に今回のように、売上の大きい電気工事で外注を多く使う会社では、売上が増えても外注費が同時に膨らみます。自社施工が中心の案件と外注比率の高い案件を同じ感覚で受けると、売上規模は大きくても利益が薄い工事が増えかねません。

さらに、学校、福祉施設、商業施設、オフィスビルなど、建物用途を問わず対応できることは営業上の強みです。しかし、原価管理では「どの建物を施工したか」だけで分類しても、採算の違いを説明できない場合があります。

電気か内装か、材料と人工のどちらが多いか、外注への依存度はどの程度か、工期が長いか短いか。こうした原価が動く条件で実績を分けることが、受注基準をつくる前提になります。

また、年間で10%を超える利益を目指す場合にも、案件ごとの粗利率と会社全体の最終利益率は分けて考える必要があります。案件で確保した粗利から、工事に直接ひもづかない費用も賄うためです。

売上目標から逆算して一律の利益率を置くのではなく、自社の費用構造を踏まえて案件ごとの目標粗利率を定めることが重要です。

解決

1年分の実績を標準原価、最低受注金額、受注可否の基準へ変える進め方

必要なのは、新しいソフトを追加することよりも、すでに蓄積したデータを意思決定のルールへ変換することです。次の順番で整理すると、実績を見積もりに反映しやすくなります。

1.案件を原価の動き方が近い工事種別に分ける

最初から細かく分類しすぎると、各分類の案件数が少なくなり、比較できません。まずは電気工事と内装工事を分け、そのうえで外注比率や工期など、採算への影響が大きい条件を加えます。

例えば、同じ電気工事でも、自社職人を中心に施工した案件と、協力会社を多く使った案件では原価構造が異なります。この2つを同じ平均値にまとめると、どちらの見積もりにも使いにくい数字になります。

工事種別は名称だけでなく、人工、外注比率、材料費、工期など原価の動き方が近い単位で分類します。

2.案件ごとの実績を同じ項目で並べる

各案件について、少なくとも次の項目を一覧にします。

  • 受注金額
  • 材料費
  • 外注費
  • 自社職人の人工
  • 工期
  • 実績原価
  • 実績粗利額と実績粗利率

自社職人の人工は、人数だけでなく会社として定めた1人工あたりの原価に置き換えます。人工を金額換算しなければ、自社施工の多い案件だけが実際より高採算に見えてしまうためです。

案件ごとに入力項目や計算方法が違う場合は、先に定義をそろえます。ソフト上にデータがあっても、比較条件が統一されていなければ、標準値にはできません。

3.工事種別ごとの標準原価をつくる

分類した案件ごとに、材料費、外注費、人工、工期の実績を比較します。単純な平均だけで決めず、通常の案件から大きく外れたものがないかも確認します。

そのうえで、「この種類の工事を当社が施工すると、通常はどれだけ原価がかかるか」という標準原価を置きます。ここで大切なのは、最初から完璧な数字を求めないことです。まずは1年分の実績から暫定基準をつくり、案件が終わるたびに更新していけば、徐々に精度が上がります。

標準原価は完成された固定値ではなく、完工実績を追加しながら精度を高める社内基準です。

4.目標粗利率から最低受注金額を算出する

標準原価が出たら、目標粗利率を使って最低受注金額を算出します。考え方は次のとおりです。

`最低受注金額 = 標準原価 ÷(1-目標粗利率)`

例えば、目標粗利率を何%にするかは、会社全体で必要な利益や費用構造によって変わります。年間利益率の目標だけをそのまま案件に当てはめず、過去の決算と案件別実績を見ながら設定する必要があります。

最低受注金額は、「これを下回れば絶対に受けない」という単純な線引きに限定する必要はありません。赤字を避ける基準、通常受注する基準、条件が良ければ優先する基準というように、段階を設ける方法もあります。

見積金額は経験だけで決めず、標準原価と目標粗利率から最低受注金額を逆算します。

5.金額だけでなく、タイミングと施工体制を含めて受注可否を決める

経営者が求めていたのは、複数の仕事から「タイミングと金額を見て選べる状態」でした。そのため、受注基準も利益率だけでは足りません。

見積もりや受注の前に、次の点を確認できる形にします。

  • 最低受注金額を上回っているか
  • 必要な人工を確保できるか
  • 外注を使った場合でも目標粗利を残せるか
  • 工期が他案件と重なっていないか
  • 過去の類似工事と比べて条件に無理がないか

金額が高くても、外注費や必要人工が増えれば利益が薄くなることがあります。反対に、受注金額が大きくなくても、自社の施工体制と合い、工期が読みやすい案件は安定して利益を残せる可能性があります。

受注可否は売上額だけでなく、最低受注金額、人工、外注比率、工期を一つの表で判断します。

6.見積時と完工時をつなげる

基準をつくっても、見積もりの際に参照されなければ運用は定着しません。見積段階で標準原価と最低受注金額を確認し、完工後に実績との差を記録する流れを決めます。

差が出た場合は、「見積もりが甘かった」で終わらせず、材料費、外注費、人工、工期のどこがずれたかを確認します。その差分を次の標準原価へ反映することで、原価管理ソフトが単なる記録場所ではなく、受注精度を高める仕組みに変わります。

まとめ

売上が伸びても利益が残らないとき、原価管理ソフトを導入するだけでは状況は変わりません。必要なのは、案件別にためた実績を、次の見積もりと受注判断へ戻す仕組みです。

進め方は次のように整理できます。

  1. 原価の動き方が近い工事種別に案件を分ける
  2. 材料費、外注費、人工、工期を同じ条件で比較する
  3. 工事種別ごとの標準原価をつくる
  4. 目標粗利率から最低受注金額を算出する
  5. 金額、施工体制、工期を含めて受注可否を決める
  6. 完工実績を次の見積もりへ反映する

原価データの価値は、蓄積量ではなく、受注金額と受注可否を変えられるかどうかで決まります。

最初から精緻な基準をつくる必要はありません。すでに1年分のデータがあるなら、件数の多い工事種別から暫定的な標準原価を置くところが、現実的な第一歩になります。

自社の実績を受注基準へ変えるための整理先

「ソフトには入力しているものの、どの数字を基準にすればよいか分からない」「工事種別の分け方や目標粗利率の置き方から整理したい」という段階でも、外部の視点を入れることで進めやすくなることがあります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の原価や収支の実態を整理し、標準原価、最低受注金額、受注可否のルールづくりから実行まで支援しています。自社の場合に何から整理すべきかがまだ明確でなくても問題ありません。無理にサービスを勧めることはありませんので、次の整理先としてご活用ください。

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