売上6億円前後から10億円を目指す一方、初回商談には必ず社長が出ている専門工事会社
関西圏を中心に工事を手がける、20名弱の専門工事会社があります。協力会社は70社ほどあり、売上は6億円前後。2年後には、利益を確保しながら売上10億円を目指しています。
案件を受ける施工体制はあります。課題は、その前段にある営業です。
社長は現状を、次のように話していました。
「新しい案件の話が来たら、最初の商談はいつも僕が行っています。担当者を紹介する2回目の商談も、結局また僕が行かないといけないんです」
新規案件の相談は、協力会社や経営者仲間からの紹介が中心です。内容は通信・電気関連に限らず、足場や解体など幅広く、相談を受けた時点では自社で対応できるか分からない案件も含まれます。
社長は30分ほどの商談で工事内容を聞き、施工可否、協力会社の候補、見積もりの方向性、価格交渉まで判断します。近畿圏内であれば、移動を組み合わせて1日に3〜4件回ることも想定しています。
一方、経営者との面会や会食も重なり、営業体制を考える時間を十分に取れません。「家に帰って寝るだけになっている」という状態です。
案件を施工する力はあっても、受注前の判断が社長に集中しているため、営業の打席数を増やしにくい状態です。
1週間で 15件の相談 がありました
- 9月3日外構工事会社群馬県案件獲得の相談
- 9月3日総合土木広島県協力会社探しの相談
- 9月3日外構工事会社新潟県人材確保の相談
- 9月3日電気設備工事会社福島県協力会社探しの相談
- 9月2日内装工事会社愛知県利益率向上の相談
- 9月2日プラント工事会社群馬県人材確保の相談
- 8月31日内装工事会社茨城県利益率向上の相談
- 8月31日総合建築大分県業務効率化システムの相談
- 8月31日空調設備工事会社埼玉県高卒採用の相談
- 8月31日総合土木広島県業務効率化システムの相談
- 8月30日内装工事会社東京都高卒採用の相談
- 8月30日工務店福岡県利益率向上の相談
- 8月30日電気設備工事会社兵庫県高卒採用の相談
- 8月29日内装工事会社神奈川県案件獲得の相談
- 8月29日総合建築宮崎県業務効率化システムの相談
- 8月28日防水工事会社静岡県業務効率化システムの相談
- 8月28日配管工事会社茨城県原価管理の相談
- 8月28日塗装工事会社茨城県案件獲得の相談
- 8月28日内装工事会社長野県協力会社探しの相談
- 8月27日配管工事会社東京都人材確保の相談
- 8月27日配管工事会社埼玉県業務効率化システムの相談
- 8月27日外構工事会社大阪府人材確保の相談
- 8月27日外構工事会社熊本県業務効率化システムの相談
- 8月26日総合建築神奈川県業務効率化システムの相談
- 8月26日配管工事会社福岡県業務効率化システムの相談
- 8月26日電気設備工事会社兵庫県案件獲得の相談
- 8月24日総合建築京都府高卒採用の相談
- 8月24日電気設備工事会社岐阜県人材育成の相談
- 8月24日塗装工事会社福岡県人材確保の相談
- 8月24日空調設備工事会社兵庫県利益率向上の相談
工事の施工可否と価格をその場で判断できず、社長の商談同行を減らせない状態
表面的には、「社長以外の人は営業トークが苦手」という問題に見えます。しかし、本質は話し方だけではありません。
この会社が扱う工事は、同じ弱電・強電の中でも細かく分野が分かれています。一つの工事を経験しているからといって、隣の分野も同じように受けられるとは限りません。
商談中には、少なくとも次の判断が必要です。
- 自社または協力会社で施工できるか
- どの協力会社へ相談すればよいか
- 希望する工期に対応できるか
- どの程度の金額であれば利益を残せるか
- 相手の提示額に対して、どこまで交渉するか
- その場で受注に前向きな返答をするか、持ち帰るか、断るか
社長の頭の中には、工事分野と協力会社の情報が結びついた状態で入っています。「この内容なら、あの会社に頼めそうだ」と商談中に候補が浮かぶため、その場で話を前に進められます。
社内でも協力会社の情報は見えるようにしていますが、お客様の前でパソコンを開き、条件を一つずつ絞り込んでいては判断が遅くなります。社長が重視しているのは、「やります」「この条件では難しいです」という返答の速さです。
そのため、社員だけで初めて見る案件へ行くと、判断できずに持ち帰ります。すると社長が改めて訪問することになり、一つの案件に対して二度の同行が必要になります。
社長から移すべきなのは営業トークではなく、施工可否、協力会社、見積もり、価格交渉をつなげて判断する機能です。
70社ほどの協力会社情報と価格交渉の経験が、社長の記憶の中で一体化している構造
社長への依存が強くなった背景には、会社の成長過程があります。
協力会社との関係は、もともと社長の信用や個人的なつながりから築かれてきました。どの会社がどの工事を得意としているかだけでなく、対応の速さや現在の余力まで、社長が経験として把握しています。
さらに、案件ごとに工事内容も発注条件も異なります。利益率のよい直接取引がある一方、提示された金額が低すぎて断った案件もあります。案件数を増やすだけでは、売上が増えても利益が残るとは限りません。
社長が商談で行っているのは、単なる受注活動ではなく、次のような複合判断です。
- 工事内容を短時間で把握する
- 自社と協力会社を含めた施工体制を組み立てる
- 原価と必要な利益から受注価格を考える
- 相手の予算との開きを確認する
- 受注、再交渉、辞退のいずれかを決める
これらが一つの「営業」として扱われているため、経験の浅い社員には習得範囲が広すぎます。話し方を練習するだけでは、商談を任せられる状態にはなりません。
社長自身も、完全な再現は求めていませんでした。
「僕が80件決められるとしても、社員は30件、40件でいいんです。数を増やせれば、それでも成り立ちます」
この考え方は、営業を仕組みにするうえで重要です。最初から社長と同じ受注率を目指すと、いつまでも任せられません。社員が対応できる案件を少しずつ増やし、営業全体の商談数を広げるほうが現実的です。
社長の判断を100%再現するのではなく、一定範囲の案件を社員が自力で前に進められる状態をつくることが、権限移譲の出発点です。
営業を「アポイント獲得」と「技術判断」に分け、案件判定と価格交渉を段階的に移す仕組み
営業の仕組み化は、社長の話し方をそのまま台本にするところから始める必要はありません。まず、社長が商談中に行っている判断を分解し、誰にどこまで任せるかを決めます。
この会社では、営業部署を2つの役割で構成する案が出ていました。
- 電話やメールで新規接点をつくり、アポイントを獲得する担当
- 工事経験をもとに施工可否や見積もりの方向性を判断する営業責任者
営業責任者には、現在工事を担当している社員を登用する想定です。現場を知らない営業担当者一人に、案件判断まで任せるのではありません。アポイントをつくる役割と、工事を判断する役割を分けることで、必要な能力を一人に集中させない体制にします。
1.商談を四つの工程に分ける
最初に、現在の営業活動を次の四つに切り分けます。
- アポイント獲得
- 工事内容の確認と施工可否の判定
- 見積もりと価格交渉
- 受注後の担当者への引き継ぎ
社長がすべてを担っている会社でも、この四つを一度に移す必要はありません。アポイント獲得は新しい担当者へ、工事判断は現場経験者へ、例外的な価格交渉だけは当面社長へ残す、といった分担ができます。
誰が何を担当するかを曖昧にすると、案件が来るたびに社長へ確認が集まります。まずは工程ごとに責任者を決め、社長の関与範囲を明文化することが必要です。
2.案件判定基準を「受ける・確認する・断る」の3段階で整える
施工可否を細かなマニュアルだけで網羅しようとすると、工事分野が多い会社ほど運用が重くなります。最初は、案件を三つに分類できる基準から始めるほうが使いやすくなります。
- 受ける候補:過去に同種工事の実績があり、担当できる自社社員または協力会社が明確
- 確認が必要:近い工事の実績はあるが、工期、施工範囲、協力会社の余力などに確認事項がある
- 断る・紹介する候補:自社と既存の協力会社では対応が難しい、または採算条件が合わない
判定表には、工事種別、施工範囲、現場エリア、希望工期、想定金額、候補となる協力会社、確認事項を残します。
大切なのは、すべての案件に即答することではありません。「この条件なら受けられる」「この点だけ確認して当日中に返答する」と、次の動きをその場で示せれば、商談の速度は保てます。
即答できる案件の範囲と、社長確認が必要な案件の境界を決めると、社員は迷わず商談を進めやすくなります。
3.協力会社情報を、営業判断に使える形へ組み替える
協力会社の一覧があっても、会社名と連絡先だけでは商談中の判断には使いにくいものです。社長の記憶に近づけるには、少なくとも次の情報をひもづけます。
- 対応できる工事分野
- 対応エリア
- 過去に依頼した工事内容
- 見積もりや返答の速さ
- 現在の稼働状況
- 担当者と連絡方法
- 過去の見積金額や注意点
最初から70社すべてを完璧に整える必要はありません。直近の商談で候補に挙がった会社、依頼頻度の高い会社、対応分野が広い会社から整理します。
更新担当者も決めます。商談後や工事完了後に情報が更新されなければ、一覧と実態がずれ、結局また社長の記憶に頼ることになるためです。
4.商談記録を残し、社長の判断理由を蓄積する
営業同行を教育機会に変えるには、訪問件数だけでなく判断の記録を残します。
記録するのは、長い議事録である必要はありません。
- どのような相談だったか
- 受注、再交渉、辞退のどれを選んだか
- その判断をした理由
- 候補にした協力会社
- 提示額と交渉後の金額
- 次回、同じ案件が来た場合の対応
特に残したいのは、社長が「なぜ受けたのか」「なぜ断ったのか」です。結論だけを共有しても、別の案件へ応用できません。
電話とメールのどちらがアポイントにつながったか、何件の接触から何件の商談になったかも記録します。社長が話していたように、営業手段は実際に試し、割合を見てから絞り込む必要があります。
商談記録は報告のためではなく、社長の判断を次の案件で再利用するために残します。
5.価格交渉は「最低条件」と「社長確認の条件」を決める
価格交渉を社員へ任せる際、最も避けたいのは、受注を優先して採算が崩れることです。そこで、自由に交渉させるのではなく、判断範囲を設定します。
案件ごとに、次の三つを確認できる形にします。
- 自社施工と協力会社発注を含めた想定原価
- 確保したい利益を反映した提示価格
- これを下回る場合は社長確認とする最低条件
たとえば、基準内の値引きは営業責任者が判断し、最低条件に近づく場合や初めて扱う工事は社長へ確認する、といった区分です。
価格だけでなく、新規取引先では小口案件から始められるか、継続的な発注が見込めるか、施工体制を無理なく組めるかも判断材料になります。
価格交渉の権限移譲では、値段の決め方より先に「どこから社長判断へ戻すか」を決めることが重要です。
6.現場経験者への権限移譲を四段階で進める
営業責任者候補をいきなり現場から外すのは難しい状況です。一人で複数の現場を抱えているため、営業教育を追加すると負担が増えてしまいます。
そのため、移行期間を決めて段階的に進めます。
- 社長同行の場で、候補者が工事内容の聞き取りを担当する
- 候補者が施工可否と協力会社案を出し、社長が最終判断する
- 基準内の案件は候補者が価格提示まで行う
- 例外案件と重要な価格交渉だけ社長が担当する
同行後には、候補者が先に「自分ならどう判断するか」を出します。その後に社長の判断と比べれば、知識不足なのか、協力会社情報が足りないのか、価格判断で迷っているのかが分かります。
移行日を決めず、「育ったら任せる」としていると、現場の忙しさが優先され続けます。候補者が営業へ使う曜日や時間帯を先に確保し、その分の現場業務をどう調整するかまでセットで考える必要があります。
社長の同行をすぐにゼロにするのではなく、同行中の主担当を社員へ移し、社長は判断の補助役へ下がっていきます。
まとめ
社長しか営業できない会社では、話し方の教育だけを進めても、同行はなかなか減りません。建設業の商談には、工事内容の理解、施工可否、協力会社の選定、見積もり、価格交渉が含まれているからです。
まず取り組みたいのは、社長の能力をそのまま再現することではなく、営業を分解することです。
- アポイント獲得と技術判断を分ける
- 案件を「受ける・確認する・断る」に分類する
- 協力会社情報を営業判断に使える形で整理する
- 商談ごとに判断理由を記録する
- 価格交渉の範囲と社長確認の条件を決める
- 現場経験者へ段階的に商談の主導権を移す
社員の受注率が社長の半分でも、対応できる商談数が増えれば、営業全体の成果は伸ばせます。
目指すべき営業の仕組み化は、社長を完全に商談から外すことではなく、社長が出るべき案件を選べる状態にすることです。
社長に集中している営業判断を、どこから移せるか整理する
「案件判定の基準をどうつくればよいか」「現場経験者を営業責任者へ移したいが、現場から外せない」といった悩みは、会社ごとの工事分野や協力会社の構成によって整理の順番が変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の営業体制や案件獲得だけでなく、現場、組織、原価、デジタル活用まで横断して課題を整理し、実行を支援しています。「うちの場合は何から整理すべきか」という段階でも問題ありません。
建設業の経営課題を解決し、未来をつくるパートナーとして、状況に合わない提案や無理な営業はいたしません。社長に集中している判断を一度棚卸ししたいときは、気軽にお声がけください。




























