60代の社長が営業・見積もり・現場管理を担い、施工は外注スタッフが支える専門工事会社
中国地方にある、少人数の専門工事会社の事例です。社長は60代で、営業から見積もり、材料の拾い、現場管理まで広く担っています。施工体制の中心は、社員ではなく長く付き合ってきた外注スタッフや協力会社です。
現在は、病院関連の大規模な整備工事に関わっており、プロジェクトは今後10年以上続く見通しです。社長自身も「やれるところまではやる」と考えていますが、最後まで自分一人で担えるとは限りません。
「次のバトンタッチは、ちゃんとやりたいんです」
一方で、身内に会社を継がせる意向はなく、社内にも明確な後継者はいません。そこで、親族以外への承継や、取引先を含む第三者への売却も選択肢として考え始めています。
ただ、社長には一つの大きな懸念があります。
「うちを買っても、外注スタッフがついてこない可能性のほうが大きい。お客さんも会社ではなく、人と人でつながっているだけだから」
売上や受注残があっても、その仕事を受注する関係と施工する人が社長個人にひも付いていれば、会社だけを切り離して引き継ぐことは難しくなります。
1週間で 17件の相談 がありました
- 8月2日解体工事会社神奈川県利益率向上の相談
- 8月2日内装工事会社大阪府案件獲得の相談
- 8月2日空調設備工事会社秋田県協力会社探しの相談
- 8月2日総合建築群馬県案件獲得の相談
- 8月1日空調設備工事会社福岡県人材確保の相談
- 8月1日工務店京都府業務効率化システムの相談
- 8月1日塗装工事会社埼玉県業務効率化システムの相談
- 8月1日総合土木静岡県人材確保の相談
- 7月31日内装工事会社兵庫県業務効率化システムの相談
- 7月31日電気設備工事会社静岡県原価管理の相談
- 7月31日防水工事会社福島県協力会社探しの相談
- 7月30日造園会社島根県案件獲得の相談
- 7月29日解体工事会社山口県人材育成の相談
- 7月29日電気設備工事会社大阪府案件獲得の相談
- 7月29日空調設備工事会社北海道人材育成の相談
- 7月28日総合建築北海道高卒採用の相談
- 7月28日工務店神奈川県業務効率化システムの相談
- 7月27日総合土木千葉県利益率向上の相談
- 7月26日塗装工事会社神奈川県案件獲得の相談
- 7月26日工務店兵庫県案件獲得の相談
- 7月25日解体工事会社東京都業務効率化システムの相談
- 7月25日総合建築茨城県高卒採用の相談
- 7月25日内装工事会社東京都利益率向上の相談
- 7月24日造園会社岐阜県案件獲得の相談
- 7月24日空調設備工事会社愛知県案件獲得の相談
- 7月24日防水工事会社兵庫県高卒採用の相談
- 7月24日塗装工事会社愛知県案件獲得の相談
- 7月23日電気設備工事会社愛知県高卒採用の相談
- 7月23日工務店埼玉県人材育成の相談
- 7月23日防水工事会社和歌山県人材育成の相談
会社を売れるかではなく、社長が離れた後も仕事と人が残るかという問題
この会社の課題は、買い手が見つかるかどうかだけではありません。より手前にあるのは、社長が第一線を離れた後も、顧客・外注スタッフ・現場運営が同じように機能するかという問題です。
顧客との関係は社長自身が長年築いてきました。仕事の相談や判断も社長に集まり、現場ではその信用を前提に外注スタッフが動いています。そのため、株主や代表者が変わっただけで、関係まで自動的に引き継がれるわけではありません。
買い手から見れば、次の点を確認したくなります。
- 社長が退任しても主要取引先から受注を続けられるか
- 外注スタッフや協力会社が新しい経営体制でも残るか
- 見積もりや材料拾い、図面対応、現場管理を担える人がいるか
- 現場ごとの判断基準や技術が社内に残っているか
- 長期プロジェクトを途中で引き継げる体制があるか
相談した社長自身も、同業他社のM&A後に、買い手側から来た責任者と既存の協力会社がうまくかみ合わなかった例を見ていました。
「知らない人が急に来て仕切ったら、下請け側が反発してしまう。『なんでこの人の言うことを聞かないといけないのか』となりますよね」
建設業では、会社間の契約だけでなく、発注条件、支払いへの信頼、現場での振る舞いといった日々の積み重ねで協力関係ができています。高速代や宿泊費を含む負担への向き合い方一つでも、協力会社との距離は変わります。
M&Aで引き継ぐべき対象は法人格だけではなく、顧客からの信用、施工体制、現場の判断力を含む「仕事が回る仕組み」です。
社長一人のワンオペ経営が、次の担い手に引き継げない仕事量を生んでいる状態
この状態になった背景には、社長の能力不足ではなく、むしろ社長が多くの業務をこなせてしまったことがあります。
営業経験を持つ社長が、自ら取引先との関係を築き、見積もりを行い、現場を管理する。施工は信頼できる外注スタッフに任せる。この形は、固定費を抑えながら機動的に仕事を進めるうえで合理的でした。会社の仕事量を考えると、社員を増やして分業するほどではない時期も長くありました。
しかし、承継の場面では、この強みがそのまま難しさになります。
「社長が見積もりから営業、現場まで全部やっている。それを次の一人にも求めるのは、たぶん無理ですよ」
社長もその指摘には納得していました。
「何もかも自分でやっていたら会社は大きくならないと、昔から言われていました。分業して、人に任せない限り、ワンオペには限界があります」
さらに、現在の若い世代へ、社長と同じ働き方をそのまま求めることにも無理があります。社長自身、家庭を後回しにして仕事を優先してきた面があり、「今の若い人に同じことができるのか」と感じています。
ここで整理したいのは、後継者の覚悟の問題だけではありません。営業、見積もり、現場管理、外注先の手配を一人で担う設計のままでは、候補者が見つかっても引き継ぎにくいということです。
また、施工を支える外注スタッフには、社員とは異なる事情があります。収入や自由度を理由に外注という働き方を選んでいる人へ、一律に社員化を求めても、関係が維持できるとは限りません。
後継者探しだけを先行させても、社長一人分の仕事を丸ごと渡す構造が変わらなければ、承継後に人と取引が離れる懸念は残ります。
顧客・施工・経営判断を分けて引き継ぎ、親族承継と第三者承継を比較できる会社づくり
必要なのは、M&Aを急いで決めることではなく、どの承継方法を選んでも事業が残る状態を先につくることです。親族承継、社内や外部人材への第三者承継、他社への売却を並行して比較できるようにします。
1.社長だけが持つ顧客接点を複線化する
最初に着手したいのは、取引先との関係を社長一人のものにしないことです。
後継候補や幹部候補を顧客対応へ段階的に加え、誰とどのような経緯で取引が始まり、現在どの工事を担い、今後どのような案件が見込まれるのかを共有します。長期プロジェクトであれば、現場の関係者や判断経路も一緒に整理しておく必要があります。
いきなり窓口を交代するのではなく、当面は社長と次の担当者が並んで対応する形が現実的です。取引先にとっても、顔の見える引き継ぎ期間があるほうが受け入れやすくなります。
顧客名簿を渡すだけでは関係承継になりません。社長がいる間に、次の担当者が顧客から直接認識される状態をつくることが重要です。
2.外注スタッフとの関係を、個人関係から会社間の関係へ移す
外注スタッフについては、全員を社員化すればよいわけではありません。まず、誰がどの工事に対応でき、どのような条件や関係性で動いているのかを整理します。
そのうえで、今後も外注として付き合う人、社員化を相談できる人、別の協力会社も含めて複線化すべき領域を分けます。社長以外の担当者からも継続的に連絡し、発注や支払い、現場対応の考え方を会社として共有していくことが欠かせません。
買い手候補がいる場合も、買収後に突然引き合わせるのでは遅くなります。互いの現場の進め方や人柄を理解できる期間を設け、協力会社として仕事を行き来させながら相性を見る方法もあります。
外注依存そのものが問題なのではなく、外注先との関係を社長しか説明・維持できないことが承継上の弱点になります。
3.「次の社長一人」ではなく、役割を分けて担える人材を確保する
現在の社長と同じ万能型の後継者を一人探すと、候補は極端に少なくなります。実際の業務を分けると、営業や顧客対応を担う人と、見積もり・図面・現場管理を担う人が必要です。
対話の中でも、「営業と現場管理を二人で担わせないと、一人では難しい」という考えが出ていました。後継者を探す際も、社長候補という肩書だけで募集するのではなく、まず右腕や工事部門の責任者として一緒に働き、適性と本人の意思を見ていくほうが進めやすくなります。
中堅人材の採用には半年から1年ほどかかることも想定し、入社後に現場と顧客を理解する期間も確保したいところです。長期プロジェクトが動いている今は、候補者が社長と並んで経験を積める貴重な期間でもあります。
後継者を一人探す発想から、営業・現場管理・経営判断を複数人で引き継ぐ発想へ変えると、承継の現実性が高まります。
4.見積もり・図面・現場判断を、次の人が再現できる形にする
人を採用しても、社長の頭の中にしか判断基準がなければ任せられません。見積もり、材料拾い、図面対応、外注先の手配、現場管理について、どの順番で何を確認しているのかを整理します。
すべてを一度に細かなマニュアルへ落とし込む必要はありません。まずは、現在進んでいる工事を題材にして、社長が行っている作業と判断を他の人が追える状態にします。実務を一緒に進めながら、任せられる範囲を広げるほうが現場にはなじみます。
判断軸は、「社長が数週間現場を離れても、見積もりと施工の準備が止まらないか」です。止まる業務があれば、そこから優先して人と情報を移します。
標準化の目的は社長のやり方を完全に文章化することではなく、社長以外の人が仕事を前へ進められる状態をつくることです。
5.承継方法は、会社の希望だけでなく「残せるもの」で比較する
体制整備と並行して、三つの方向を比較します。
- 親族を含む身内への承継が現実的か
- 採用した幹部や外部人材への第三者承継ができるか
- 取引先や同業他社への売却・グループ入りが適するか
この会社では、身内への承継を前提にしていません。それでも、幹部候補を確保し、顧客接点と施工体制を会社側へ移しておけば、第三者承継にも売却にも進みやすくなります。途中で候補者が「社長になるのは難しい」と判断した場合でも、幹部として残る道や、体制が整った状態で他社へ引き継ぐ道を検討できます。
承継方法を早く一つに決めるより、複数の道を選べる会社に整えるほうが、社長・取引先・外注スタッフの納得をつくりやすくなります。
まとめ
社長の人脈で受注し、外注スタッフの施工力で現場を回す会社でも、M&Aによる承継は選択肢になり得ます。ただし、売却の話を進める前に、社長が離れても仕事が続く状態をつくる必要があります。
整理する順番は、次のとおりです。
- 顧客との接点を社長以外にも広げる
- 外注スタッフとの関係と役割を整理する
- 営業と現場管理を担う幹部人材を確保する
- 見積もりや図面、現場判断を引き継げる形にする
- 親族承継、第三者承継、売却を同じ土台で比較する
会社の承継可能性は、社長がどれだけ長く働けるかではなく、社長が元気なうちに顧客・人材・業務をどこまで会社へ移せるかで変わります。
長期プロジェクトを抱えている会社ほど、目の前の工事を進めながら次の担い手を育てられます。まだ承継方法を決め切れていない段階でも、顧客、人材、業務の棚卸しから始めれば、次の選択肢は少しずつ具体的になります。
自社に合う承継の形を、顧客・人材・現場の順に整理するために
「うちの場合、そもそも何を引き継げるのか」「後継者採用とM&Aのどちらから考えるべきか」と迷う場合は、会社の現状を分けて整理するところから始められます。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。事業承継についても、後継候補となる人材の確保や役割分担、顧客・協力会社との関係整理など、会社の実情に合わせて次の手順を組み立てます。
まだ売却や承継を決めておらず、「何から整理すべきかわからない」という段階でも問題ありません。無理に特定の方法を勧めることはありませんので、今後の選択肢を確認する場としてご活用ください。






























