令和8年5月25日、国土交通省と気象庁は、全国初の「高潮予報海岸」として、富山湾沿岸の黒部市・入善町・朝日町を指定すると発表しました。

これは、令和8年5月29日に施行される「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律」に合わせたものです。高潮予報海岸とは、高潮によって重大な損害を生ずるおそれがある海岸として、国土交通大臣が指定する海岸です。

今回の指定により、指定された海岸では、国土交通省・気象庁・都道府県が共同して、潮位に加えて「波の打上げ高」も反映した、より精緻な高潮予報を行うことになります。

沿岸部に現場を持つ建設会社にとっては、単なる防災情報の更新ではありません。現場を止める判断、作業員を退避させる判断、重機・資材を守る判断に使う情報が変わっていくという意味があります。

何が変わるのか

今回のポイントは、高潮予報がこれまでよりも現場実態に近づくことです。

国土交通省の資料では、高潮に関する情報の改善として、主に次の内容が示されています。

  • 高潮予報海岸における共同予報・警報の創設
  • 潮位予測に加え、海岸地形や施設を考慮した「波の打上げ高」を反映
  • 国土交通省、気象庁、都道府県の三者共同による、より精緻な高潮予報
  • レベル5高潮特別警報の発表基準を、台風等を要因とする基準から、浸水被害が発生する潮位に変更
  • レベル2〜4の高潮情報は、浸水被害のおそれがある潮位になる時間からリードタイムを取る形に見直し
  • 氾濫通報について、発生前でも危険が切迫していれば通報できるよう基準を明確化

建設会社の実務に引き寄せると、特に大きいのは、「潮位だけではなく、波の打上げ高も見る必要がある」という点です。

海沿いの現場では、潮位そのものがまだ許容範囲に見えても、波が護岸や海岸施設に打ち上がることで、作業場所、仮設、資材置場、搬入路に危険が及ぶことがあります。今回の仕組みは、そうした実際の危険に近い情報を出そうとするものです。

今回指定されたのは富山湾沿岸

今回、全国初の高潮予報海岸として指定されるのは、富山湾沿岸のうち、黒部市・入善町・朝日町の区域です。

発表資料では、この地域について、かねてより度重なる高潮・高波被害を受けてきたこと、また平成20年2月には下新川海岸で高波による甚大な被害が発生したことが触れられています。

つまり今回の指定は、単に制度を始めるための形式的な第一号ではなく、過去に大きな高潮・高波被害を経験してきた地域から、予報と避難判断の精度を高めていく動きと見るべきです。

国土交通省は、今後も引き続き全国の各海岸の指定手続きを進めるとしています。現時点で自社の地域が指定されていなくても、沿岸部で施工・維持管理・災害対応に関わる会社は、今後の指定拡大を前提に情報を見ておく価値があります

中小建設業がまず確認したいこと

今回の発表を受けて、中小建設業が最初に確認したいのは、次の3点です。

1つ目は、自社の現場、資材置場、車両・重機の保管場所が、高潮・高波の影響を受けやすい場所にあるかです。

対象は、海岸工事だけではありません。沿岸部の道路、河口部の橋梁、港湾周辺の民間工事、海に近い工場・倉庫の改修、インフラ維持管理なども関係します。現場そのものが海岸から少し離れていても、搬入路や退避ルートが浸水の影響を受けることがあります。

2つ目は、高潮・高波時の作業中止基準が、社内で明文化されているかです。

「現場代理人が危ないと思ったら止める」だけでは、判断が遅れたり、人によって基準がぶれたりします。今回のように防災気象情報が見直されていく局面では、警戒レベルや高潮情報を、社内の行動基準に結びつけることが重要です。

たとえば、次のような整理です。

  • どの情報が出たら、朝礼時点で作業可否を再判断するのか
  • どの情報が出たら、海側・低地側の作業を中止するのか
  • どの情報が出たら、資材・仮設・車両を移動するのか
  • どの情報が出たら、作業員を退避させるのか
  • 誰が発注者、協力会社、近隣関係者に連絡するのか

3つ目は、情報を誰が、いつ、どこで確認するのかです。

防災情報は、存在しているだけでは会社を守れません。実際には、朝の段取り、昼の天候変化、夕方以降の夜間養生、休日中の現場管理など、判断のタイミングがいくつもあります。

特に中小建設業では、社長、工事部長、現場代理人、安全担当、総務担当がそれぞれ別の業務を抱えています。だからこそ、「誰かが見るだろう」ではなく、「この情報はこの人が見る」と決めておくことが大切です。

高潮・高波リスクは「安全」と「利益」の両方に関わる

高潮・高波への備えというと、安全管理の話に見えます。もちろん、最優先は人命です。

ただ、建設会社の経営として見ると、これは利益管理と信用管理の話でもあります

現場の判断が遅れると、仮設材の流出、資材の水濡れ、重機・車両の損傷、工程遅延、再施工、近隣対応などが発生する可能性があります。発注者や元請との連絡が後手に回れば、「なぜ事前に動かなかったのか」という話にもなります。

一方で、早めに情報をつかみ、現場を止める・動かす・守る判断ができれば、損失を小さくできます。現場の職長や協力会社も、「この会社は危ない時に無理をさせない」と感じます。

防災情報を現場運営に組み込むことは、社員と協力会社を守り、会社の信用を守る経営判断です。

これからの沿岸部工事で見ておきたい視点

今回の制度改正で、すぐに全ての地域の情報が変わるわけではありません。今回指定されたのは富山湾沿岸の一部です。

ただし、国土交通省は今後も全国の各海岸の指定手続きを進めるとしています。つまり、沿岸部の建設会社にとっては、高潮・高波の情報が、より細かく、より行動判断に近い形へ変わっていく流れが始まったと受け止めるのがよさそうです。

今後、各社で見ておきたいのは次の点です。

  • 自社地域が高潮予報海岸に指定される可能性があるか
  • 高潮・高波時の現場中止基準が古いままになっていないか
  • 発注者・元請・協力会社との緊急連絡ルートが実際に機能するか
  • 休日・夜間に警報や通報が出た場合の確認体制があるか
  • 資材置場、車両基地、仮設ヤードの浸水・波浪リスクを把握しているか

特に、普段は内陸工事が中心でも、災害復旧、維持補修、港湾・河川・海岸周辺の工事を受ける会社は、今回のような制度変更を安全書類や施工計画の見直しにつなげておくとよいでしょう。

「情報が増える時代」は、社内ルールに落とし込める会社が強い

今回の発表で大事なのは、単に「富山湾沿岸が指定された」という事実だけではありません。

本質は、防災情報が高度化し、現場の判断材料が増えていく時代に入っているということです。

情報が精緻になるほど、会社側には「その情報をどう使うか」が問われます。警報や予報が出ても、社内の行動基準が曖昧であれば、現場は迷います。逆に、判断基準が整理されていれば、現場は早く動けます。

中小建設業にとって、完璧な仕組みを一気に作る必要はありません。まずは、沿岸部・低地・河口部など、自社に関係の深い現場から、どの防災情報を見て、誰が判断し、誰に連絡し、どこまで作業を止めるのかを整理することが現実的です。

その小さな整理が、いざという時に人を守り、現場を守り、会社を守ります。

自社の現場ルールにどう落とし込むかを整理する

今回のような制度改正は、「うちの会社にどこまで関係するのか」が見えにくいものです。沿岸部の現場が多い会社、資材置場が低地にある会社、協力会社を多く抱える会社では、見るべきポイントも変わります。

ネクスゲートでは、建設企業の持続的成長を支援する立場から、現場・安全・組織・原価・デジタル活用まで横断して、経営課題の整理と実行を支援しています。今回のような防災情報の見直しについても、自社の現場中止基準、緊急連絡体制、協力会社との役割分担をどう整えるかという形で、一緒に考えることができます。

「うちの場合は、まず何を確認すればいいのか」「安全管理のルールを作りたいが、現場に合う形にしたい」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、必要な整理先として気軽に使ってください。

お問い合わせはこちら