国土交通省は令和8年5月25日、地方公共団体が所有する廃校・古民家などの遊休公的施設を、民間事業者と連携して利活用する「スモールコンセッション」の手引きを公表しました。

今回公表されたのは、「スモールコンセッションのすすめ(遊休公的施設の利活用のための手引き)」です。地方公共団体の職員などが、事業構想段階から公募・選定段階まで進めやすくなるよう、先進事例、手続きの簡素化、契約作成のポイント、活用可能な支援制度などが整理されています。

建設業向けの制度改正そのものではありません。ただし、中小建設業にとっては見逃せない内容です。なぜなら、地域の廃校、旧庁舎、古民家、観光施設などの再生は、改修工事・維持管理・用途変更対応・地域事業者との連携が重なる領域だからです。

スモールコンセッションとは何か

手引きでは、スモールコンセッションを、地方公共団体が所有する遊休公的施設を、民間事業者と協力しながら活用し、地域課題の解決やエリア価値の向上につなげる取組と説明しています。

対象として想定されているのは、廃校、空き家、古民家などの身近な遊休公的施設です。手引きでは、原則として事業費10億円未満程度の小規模なPPP/PFI事業として整理されています。

事業手法は一つではありません。案件に応じて、次のような方式が想定されています。

  • コンセッション方式
  • 指定管理者制度
  • 賃貸借
  • その他、個別案件に応じた官民連携手法

中小建設業の目線で見ると、これは単なる「施設運営の話」ではありません。既存施設を活用する以上、現場では必ず、建物の状態確認、耐震性、設備、雨漏り、用途変更、修繕範囲、将来の維持管理費、工事費負担の整理が論点になります。

つまり、地域の建設会社が持っている“建物を見立てる力”が、事業の入口で価値を持つ可能性があるということです。

手引きが示した「3つの壁」

今回の手引きでは、地方公共団体がスモールコンセッションに取り組む際にぶつかりやすい壁として、次の3つが示されています。

  1. イメージの壁:事業の進め方や施設の活用イメージが湧きにくい
  2. パートナーの壁:官民連携のメリットが分からない、民間事業者が見つからない
  3. 事業化の壁:煩雑な手続きなどにより実施までたどり着かない

手引きでは、先進事例のプロセス、民間事業者との意見交換のコツ、手続きの簡素化、契約作成のポイントなどを通じて、この3つの壁を越えるための考え方が整理されています。

ここで中小建設業が注目したいのは、特に「パートナーの壁」です。

地方公共団体側から見ると、「この施設をどう使えばよいか」「誰に声をかければよいか」が分からないケースがあります。一方で、地域の建設会社は、地域の土地勘、建物の状態、協力会社ネットワーク、地元企業との関係を持っています。

今後、遊休公的施設の利活用では、工事を受注するだけでなく、構想段階で“現実的に直せるか、使えるか、いくらかかるか”を示せる会社の存在感が増していきます。

手続き簡素化のポイント

今回の手引きでは、スモールコンセッションを進めやすくするための手続き簡素化も示されています。

主な内容は次の通りです。

  • 管理運営に公的な支出が予定されない事業については、VFMの算定が不要
  • 要求水準書や事業者選定基準は、募集要項に一括して作成可能
  • 基本構想・基本計画などの詳細計画は、事業構想としてまとめて作成可能

VFMとは、従来方式とPFI方式で事業を実施した場合の公共の支払見込額の差を計算する考え方です。手引きでは、独立採算型のコンセッション事業など、公的支出が原則不要となる場合には、歳出削減効果が明確であるため、VFM計算によらず客観的評価が可能とされています。

これは地方公共団体側の手続き負担を下げる話ですが、民間側にも影響があります。手続きが重すぎると、地域の中小企業は入りにくくなります。逆に、手続きが整理されるほど、大企業だけでなく、地域企業や専門工事会社が、運営事業者・協力会社・施工会社・維持管理会社として関わる余地が広がる可能性があります。

先進事例から見える建設会社の関わりどころ

手引きでは、山口県萩市、石川県小松市、茨城県笠間市、京都府舞鶴市などの事例が紹介されています。

たとえば、萩市の「本と美容室萩店」では、伝統的なまちなみを構成する古民家を活用し、本屋と美容室を組み合わせた事業が行われています。保存整備工事には約6,400万円がかかり、空き家対策総合支援事業も活用されています。

小松市の「オーベルジュオーフ」では、廃校となった小学校を宿泊施設・レストラン・レンタルスペースとして活用しています。施設改修工事費は約5億6,000万円とされています。

笠間市の「ETOWA KASAMA」では、観光施設をグランピング施設として活用し、開業前の改修工事は事業者負担で実施されています。内外装、給排水設備、空調設備、客室設備、ネット環境整備などが対象となり、金額は約1億4,200万円とされています。

舞鶴市の「atick」では、未活用施設が複合商業施設として再生されています。市内企業が運営事業者となり、修繕費が予想以上に大きな投資となったことにも触れられています。

これらの事例から読み取れるのは、遊休公的施設の利活用では、事業アイデアだけでなく、改修費・修繕リスク・設備更新・資金調達が事業成立の重要な分かれ目になるということです。

建設会社にとっては、ここに実務上の関わりどころがあります。

  • 建物調査、劣化状況の確認
  • 概算改修費の整理
  • 用途変更に伴う建築基準法上の論点確認
  • 耐震性、設備、インフラ状況の把握
  • 運営開始後の修繕計画
  • 地元協力会社を含めた施工体制づくり
  • 地域金融機関や運営事業者との連携

「公募が出たら入札する」だけではなく、「公募前に事業が成立する条件を一緒に考える」動きが重要になります。

特に注意したいのは修繕リスクです

手引きでは、スモールコンセッションにおいて特に留意が必要なリスクとして、民間事業者の倒産リスク、施設の修繕リスク、不可抗力リスクなどが挙げられています。

中小建設業として特に見ておきたいのは、施設の修繕リスクです。

遊休公的施設は、老朽化した既存施設であることが多くなります。事業開始時点で必要な修繕だけでなく、運営期間中に発生する設備故障、雨漏り、躯体の劣化、外構やインフラの不具合なども想定されます。

手引きでは、事業者に期待する修繕の範囲、対象、金額、官民の役割分担について、あらかじめルール化することが重要とされています。また、事業者が対応困難な修繕については、協議の余地を残しておくことも有効とされています。

これは、施工側にとっても大切です。改修工事だけを切り出して見るのではなく、誰がどこまで直すのか、将来壊れたときに誰が負担するのか、契約上どのように整理されているのかを確認しなければ、事業全体の採算や責任範囲を読み違える可能性があります。

特に、運営事業者と組んで参画する場合は、初期工事費だけでなく、維持管理費、更新費、不可抗力時の対応まで含めて、早い段階で話し合っておくことが大切です。

中小建設業が今から見ておきたい3つのこと

今回の手引きは、地方公共団体向けの実務資料という性格が強いものです。ただし、地域の建設会社にとっても、次の3点は早めに見ておく価値があります。

1. 自社エリアの遊休公的施設を把握する

まずは、自社の営業エリアにある廃校、旧公共施設、古民家、観光施設、使われていない公有施設を把握することです。

地域のどこに、どのような建物が眠っているかを知っている会社は、官民連携の初期段階で相談されやすくなります。

2. 「概算で語れる力」を持つ

スモールコンセッションでは、構想段階で詳細設計まで進んでいないこともあります。その段階で求められるのは、精密な見積だけではありません。

「この用途なら、まずここを直す必要がありそうです」 「給排水と空調は大きな論点になります」 「この建物は、外観保存と内部改修の切り分けが必要です」

このように、事業者や自治体が判断できる粗さで、現実的な改修論点を示せる力が重要になります。

3. 運営事業者・地元企業・金融機関との接点を持つ

手引きでは、民間事業者との意見交換、地域金融機関や商工会議所との連携も有効とされています。

建設会社単独で施設運営まで担う必要はありません。宿泊、飲食、物販、観光、福祉、教育、地域交流など、施設の使い方によって主役は変わります。

ただし、建設会社が地域の事業者と組み、建物面・施工面・維持管理面を支えることで、事業全体の実現性を高められる可能性があります。

これは「小さなPPP」が地域に広がるサインです

今回の手引きから見える大きな流れは、公共施設の活用が、従来の大規模PFIだけでなく、地域に近い小規模な官民連携へ広がっていくことです。

人口減少が進む地域では、使われなくなった公共施設が増えていきます。一方で、自治体だけで維持管理し続けることは難しくなります。そこで、民間の発想、運営力、投資、地域企業の実行力を組み合わせる動きが強まります。

中小建設業にとって、これは単なる新しい制度ではありません。

地域の建物を壊すか、残すか。残すなら、どう使い、誰が直し、誰が維持するか。その議論に、建設会社が早い段階から関わる時代に入っているということです。

公共工事の発注を待つだけでなく、地域の事業づくりに関わる。施工だけでなく、建物の見立て、事業条件の整理、維持管理の現実解を出す。そうした会社は、地域の中で一段深い役割を担えるはずです。

自社の地域でどう関わるかを整理する

スモールコンセッションは、すべての建設会社がすぐに運営事業者になるべき、という話ではありません。むしろ最初に考えるべきことは、自社がどの立ち位置で地域の遊休施設活用に関われるかです。

改修工事を担うのか。維持管理まで含めて関わるのか。地元事業者とチームを組むのか。自治体の構想段階で建物調査や概算整理を支えるのか。会社ごとに現実的な関わり方は違います。

「うちの地域にも廃校や古い公共施設があるが、どう見ればよいか」「運営までは難しいが、建設会社として関われる余地を整理したい」という段階でも、考えを整理する価値があります。

ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。ものづくりに集中できる建設業界へ向けて、こうした地域案件への向き合い方も一緒に整理できます。無理な営業はいたしませんので、まずは自社の場合の論点整理としてご相談ください。

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