首都圏の設備工事会社でも、スマートビル対応は電気・通信・自動制御が別々に動きがちな状況
ビルのDX化が進むほど、現場で必要になる工事は複雑になっています。
照明や受変電などの電気工事だけではありません。通信、ネットワーク、センサー、カメラ、空調の自動制御、監視システム、ソフトウェア連携まで、建物の中でつながる対象が増えています。
ただ、首都圏のある設備工事会社とのやり取りでも、印象的な言葉がありました。
「今のビルってDXの関係もあって、通信の世界になってきていますよね。でも、電気工事と通信工事と自動制御がバラバラなんです」
この感覚は、多くの電気・設備工事会社にとって他人事ではないと思います。
建物側のニーズは、“つながる建物”へ進んでいる。一方で、工事会社側の体制は、まだ電気・通信・制御の縦割りで動いている。このズレが、スマートビル対応の入口にあります。
スマートビル案件で求められる一体提案に、施工側の専門分野が追いつきにくい
スマートビル対応では、単に機器を取り付けるだけでは足りません。
たとえば、カメラを設置するだけなら弱電や通信の話で済むかもしれません。空調を制御するだけなら自動制御の話で済むかもしれません。電源を確保するだけなら電気工事の話です。
しかし、実際にはそれらがつながります。
- センサーで人の動きを取る
- カメラやデバイスから情報を集める
- 通信ネットワークでデータを送る
- 空調や照明の制御に反映する
- 管理画面やソフトウェアで見える化する
- 異常時には通知や監視につなげる
ここまで来ると、現場では工事区分の境目をまたぐ調整力が必要になります。
ところが、現実には「電気工事は電気工事」「通信工事は通信工事」「自動制御は自動制御」と分かれがちです。ある大手電気工事会社の中でも、通信部門と電気部門は別の畑として動いており、同じ会社の中でも融合が簡単ではない、という話が出ていました。
「同じ会社でも部門が違うんです。畑が違う。電気のエンジニアと通信のエンジニアが、なかなか融合しない」
ここに、中小の電気・設備工事会社にとっての難しさがあります。
元請や大手サブコンから見れば、スマートビル対応では「現場でまとめて動ける会社」がありがたい。一方で、中小側から見ると、通信・制御・ソフトウェアまで一気に抱えるのは重い。人も足りない。教育も必要。資格や体制も絡みます。
だからこそ、全部を自社だけで抱えようとしない設計が大事になります。
ビルDXの現場では、デバイス・通信・ソフトウェアをつなぐ実装役が不足している
スマートビルの話は、ソフトウェアやAIの話に見えがちです。
しかし、建設現場で本当に詰まるのは、最後の実装です。機器をどこに置くか。電源をどう取るか。通信が届くか。既存設備とどう接続するか。制御盤や監視側とどう連携するか。現場の納まりや工程にどう入れるか。
机上のDXだけでは、建物は動きません。
この点は、ロボットやAI開発の話にも通じます。大手企業やベンチャーが新しい技術を開発しても、現場で試せる場所と、現場を知る人がいなければ、実装には進みにくいという話がありました。
「頭はいいんだけど、実際の実証のステージをちゃんと用意してあげないとダメなんです」
スマートビルでも同じです。
センサー会社、カメラメーカー、通信事業者、ソフトウェア会社は、それぞれ強みを持っています。ただ、建物の現場でそれらをつなぎ、施工として成立させるには、現場実装をわかる工事会社の役割が欠かせません。
ここに、中小企業の成長機会があります。
大手は技術開発や標準化を進めます。メーカーは製品を出します。ソフト会社は管理画面や分析機能を作ります。けれど、現場で「電気も通信も制御も見ながら、実際に納める」会社はまだ多くありません。
つまり、中小の電気・設備工事会社にとっては、施工請負から一歩進んだ提案領域が生まれています。
ただし、いきなり「スマートビル全体を提案します」と掲げる必要はありません。むしろ危険です。最初は、得意な工事領域を軸に、隣接領域を少しずつ足していく方が現実的です。
最初から全部を内製せず、得意工事を軸に通信・制御・デバイス連携を足していく進め方
スマートビル対応に取り組むなら、最初に整理したいのは「何を自社で持ち、何を外部と組むか」です。
中小の電気・設備工事会社が、いきなり通信、制御、ソフトウェア、AI、ロボット、センサー設計まで内製するのは現実的ではありません。必要なのは、一体提案の窓口になれる力です。
そのためには、次の4つを順番に整理すると進めやすくなります。
1. 自社の軸を決める
まず、自社が強い工事領域を軸にします。
電気工事が強い会社なら、電源、盤、配線、照明、弱電まわりを起点にする。空調や計装に強い会社なら、自動制御や監視まわりを起点にする。通信工事に近い会社なら、ネットワークやデバイス接続を起点にする。
大切なのは、自社の勝ち筋から外れすぎないことです。
スマートビルという言葉に引っ張られて、最初から大きく構えすぎると、現場も営業も混乱します。まずは「既存顧客に追加提案できる範囲」から考える方が、受注にも教育にもつながります。
2. 足りない領域は外部パートナーで補う
次に、外部パートナーを整理します。
必要になりやすいのは、次のような相手です。
- 通信ネットワークに詳しい会社
- センサー、カメラ、デバイスメーカー
- 空調や照明の自動制御に詳しい会社
- 監視システムやダッシュボードを作れるソフトウェア会社
- 実証実験やPoCに慣れた技術者
ここでのポイントは、単なる外注先探しではありません。
スマートビル対応では、案件ごとに「誰が仕様を決めるのか」「誰が現場調整をするのか」「不具合時に誰が切り分けるのか」が曖昧になりやすいです。だから、外部パートナーとは、責任範囲と切り分けのルールを先に決めておく必要があります。
特に通信と制御は、トラブル時に原因が見えにくくなります。電源なのか、通信なのか、機器なのか、ソフトなのか。ここを現場で整理できる人がいるかどうかで、案件の安定感が変わります。
3. 教育領域は「施工」ではなく「つなぎ目」から始める
スマートビル対応の教育というと、最新技術を学ばせる話になりがちです。
もちろん知識は必要です。ただ、中小企業で最初に効くのは、最新技術そのものよりも、専門分野同士のつなぎ目を理解する教育です。
たとえば、現場担当者に次のような基本を押さえてもらうだけでも、提案力は変わります。
- センサーやカメラが何のデータを取るのか
- そのデータがどの通信経路で送られるのか
- 制御側は何を受け取れば動けるのか
- 電源、配線、盤、通信機器の施工上の注意点は何か
- 不具合時にどこから確認するのか
営業担当にも同じことが言えます。
「センサーもできます」「DXもできます」ではなく、「人感センサーで利用状況を取り、空調制御に反映するところまで、電源・通信・制御の関係者をまとめて整理できます」と言えるかどうかです。
この言い方ができる会社は、元請や大手サブコンから見ても相談しやすくなります。
4. 最初に狙う案件は、既存顧客の小さな改善から始める
最初の案件選びも大切です。
いきなり大型新築ビルのスマートビル全体提案を狙うより、既存顧客の小さな改善から始める方が現実的です。
たとえば、次のような案件です。
- 既存ビルの一部フロアでのセンサー設置
- 空調や照明の簡易的な見える化
- カメラや入退室データと設備管理の連携
- 老朽設備更新に合わせた通信・制御の追加提案
- テナント入替時の弱電・通信・制御まわりの整理
小さくても、電気・通信・制御をまたぐ経験が残ります。
その経験を標準化して、次の案件で使える提案書、チェックリスト、施工手順、パートナー体制にしていく。これが、中小企業に合ったスマートビル対応の進め方です。
特に人手不足の中では、実績を一つずつ積むことが教育にもなります。現場で一度経験した担当者が、次の案件で社内の起点になります。
まとめ
スマートビル対応は、単に新しい機器を扱う話ではありません。
本質は、電気・通信・自動制御・デバイス・ソフトウェアを現場でつなぐ力です。
建物のDX化が進むほど、専門分野の境目をまたぐ仕事は増えます。一方で、業界の体制はまだ縦割りが残っています。同じ大手企業の中でも、電気部門と通信部門が別々に動くことがあります。
だからこそ、中小の電気・設備工事会社にもチャンスがあります。
全部を自社で抱える必要はありません。自社の得意工事を軸に、通信、制御、センサー、カメラ、ソフトウェアのパートナーを組み合わせる。現場で切り分けできる人材を育てる。最初は小さな改善案件から始める。
この積み上げが、単なる施工請負から、スマートビルの実装を担える会社への一歩になります。
自社ならどの領域からスマートビル対応を始めるべきか整理する
スマートビル対応は、会社ごとに入口が違います。
電気工事から入る会社もあれば、空調・計装から入る会社もあります。通信や弱電に近い会社なら、デバイス連携から始める方が自然な場合もあります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。スマートビル対応についても、「どの案件から始めるべきか」「どの外部パートナーが必要か」「社内で誰を育てるべきか」といった段階から一緒に整理できます。
うちの場合はどう考えるべきか、まだ何から整理すべきかわからない、という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、まずは状況の整理先としてご活用ください。
































