国土交通省港湾局と港湾空港技術研究所は、藻場などのブルーカーボン生態系を地図上で可視化できるシステム「Blue carbon Data Archive System」、通称 BDAS(ビーダス) の利用開始を発表しました。
今回のポイントは、次のとおりです。
- システム名:Blue carbon Data Archive System(BDAS)
- 内容:藻場の分布や面積をWebGIS上で可視化
- 今回の公開範囲:数値モデルを用いて算定した藻場の分布・面積の一般公開
- 利用開始ページ:<https://bluecarbon-data-archive-system.jp/>
- 今後の予定:グリーンレーザー搭載ドローン等による計測データのアップロード・確認機能は8月上旬に利用可能となる予定
- 関連ソフト:計測データの誤差処理やアノテーション処理を行う SAVANS も8月上旬の利用開始を予定
- 関連資料:グリーンレーザーによる藻場計測マニュアル も公開
建設業全体から見ると、少し専門的なニュースに見えるかもしれません。
ただ、港湾、漁港、海岸、河川河口部、環境護岸、浚渫、測量、ドローン活用に関わる会社にとっては、かなり大事な流れです。
これまで「環境配慮」は、工事の付帯条件として扱われがちでした。これからは、藻場・干潟などを整備し、その効果をデータで確認する仕事 が増えていく可能性があります。
BDASとは何か
BDASは、藻場の分布や面積を算定し、その結果を地図で確認できるシステムです。
国土交通省の説明では、次のようなデータを使います。
- グリーンレーザー搭載ドローンなどのリモートセンシング技術による計測データ
- 水深、底質、水温、透明度などの環境データ
- それらを用いた数値モデル
BDAS上では、これらを解析・処理し、藻場の分布や面積をWebGISで確認 できるようにします。
ブルーカーボン生態系は、CO₂吸収源として注目されています。
同時に、海洋環境の改善、水産振興、環境教育、地域活性化にもつながるとされています。国土交通省港湾局は、こうした生態系を活用した ブルーインフラ の整備を全国で進めています。
つまりBDASは、単なる地図サービスではありません。
ブルーインフラの整備効果を、目で見える形にしていくための基盤 と見た方がよさそうです。
中小建設業に関係するのは「計測」と「効果確認」の仕事
中小建設業にとって見ておきたいのは、BDASそのものよりも、その周辺で必要になる実務です。
特に関係が出やすいのは、次のような会社です。
- 港湾・漁港・海岸工事に関わる会社
- 護岸、消波、浚渫、海上工事に関わる会社
- 測量会社
- ドローン測量に取り組む会社
- 環境調査会社
- 元請・発注者支援・施工管理に関わる会社
公開されたマニュアルでは、グリーンレーザーを使った藻場計測について、計測計画、許可申請、安全確保、点群データ、解析、BDAS取込用フォーマットまで整理されています。
ここから見えるのは、潜水士による目視確認だけに頼るモニタリングから、ICTを使った定量的な効果確認へ移っていく流れ です。
現場で言えば、こんな会話が増えていくかもしれません。
「この藻場、どのくらい回復したのか」
「施工前後で面積は変わったのか」
「CO₂吸収量の算定に使えるデータになっているのか」
「そのデータはBDASに取り込める形式になっているのか」
この問いに答えるには、施工だけでは足りません。
測る、記録する、処理する、説明する という力が必要になります。
8月上旬予定の機能追加は、実務会社にとっての注目点
今回、すでに一般公開が始まったのは、数値モデルを用いて算定した藻場の分布や面積です。
一方で、グリーンレーザー搭載ドローンなどで取得した計測データをアップロードし、その結果を確認する機能は、8月上旬に利用可能となる予定 とされています。
また、計測データをBDASに取り込むため、誤差処理やアノテーション処理などを自動で行うソフト SAVANS も開発中で、こちらも 8月上旬の利用開始予定 です。
ただし、国土交通省は、誤差やアノテーション処理等のソフトに規定はないとしています。
つまり、SAVANS以外で処理した計測データでも、BDASに取り込むことは可能 とされています。
ここは実務上、かなり大きなポイントです。
既に点群処理、ドローン測量、GIS、環境データ処理に取り組んでいる会社は、既存の技術を生かせる可能性があります。
新しく参入する会社も、いきなり大型投資を考える前に、まずはマニュアルを読み、自社がどこまで担えるかを確認するのが現実的です。
マニュアルで特に見ておきたい実務ポイント
公開された「ブルーカーボンデータ計測マニュアル」はかなり技術的です。
中小建設企業の経営者がまず見るなら、細部の解析手法よりも、次の実務ポイントです。
1. 計測前の許可・調整
ドローンを使う場合、飛行内容によっては航空法に基づく許可・承認手続が必要です。
マニュアルでは、目視外飛行、人口密集地域、第三者や物件から30m以内の飛行、150m以上の空域などについて触れています。
また、海上作業を伴う場合は、海上作業の許可・届出、関係法令に基づく申請、関係機関や関係者への周知も必要になります。
特に海上作業の許可申請については、マニュアル内で 原則として着手日の1か月前 に管轄の港長または海上保安部署等へ行う旨が示されています。
ドローンを飛ばせるだけでは足りず、海上作業としての段取り力が問われる ということです。
2. 安全管理
計測時には、ドローンの離着陸地点、飛行経路、周辺の人や物件、海域での作業安全を確認する必要があります。
マニュアルでは、施設管理者等への事前周知、作業スペースの確保、立入制限、警戒船の配置、KY活動などが挙げられています。
これは建設会社にとっては得意領域です。
現場安全を組み立てる力は、環境計測の現場でもそのまま価値になります。
3. 計測できる条件の見極め
マニュアルでは、海域の状況が計測精度に影響するとされています。
例えば、水深が透明度の1.5倍以上のときは、点群データの取得が困難と想定されるため計測を中止 とされています。
海は、机上の計画どおりにいきません。
濁り、波、潮位、漂流物、海藻の繁茂状況。どれも結果に影響します。
だからこそ、現場を知っている会社ほど、計測計画の質を高めやすい と言えます。
4. BDASに取り込むデータ形式
マニュアルでは、グリーンレーザーによるBDAS取込用データについて、CSV形式とされています。
データの並びは、左から次の項目です。
- x(m)
- y(m)
- 植生高さ(m)
- 反射強度
また、観測年月日、藻場タイプ、座標系などのメタデータも必要とされています。
ここで重要なのは、測っただけでは終わらない ことです。
発注者や関係機関が使える形に整える必要があります。
今後、現場データを扱える会社と、扱えない会社の差は広がっていきそうです。
「環境対応」はコストではなく、次の公共工事の入口になる
ブルーカーボンやブルーインフラという言葉は、まだ日常の建設現場では聞き慣れないかもしれません。
ただ、公共工事の世界では、環境、脱炭素、生物多様性、地域活性化が少しずつ同じテーブルに乗り始めています。
今回のBDAS公開は、その流れを支えるデータ基盤の一つです。
中小建設業としては、すぐに専用機材を買うかどうかよりも、まず次の問いを持っておくとよいです。
- 自社の施工エリアに、港湾・漁港・海岸・河口部の仕事はあるか
- 藻場、干潟、環境護岸、生物共生型構造物に関係する工事はあるか
- 測量会社、ドローン会社、環境調査会社との連携先はあるか
- 施工後のモニタリングや効果確認まで提案できる余地はあるか
- 点群、GIS、CSV、メタデータを扱える人材は社内外にいるか
全部を自社で持つ必要はありません。
むしろ、地域の中小企業にとっては、施工会社、測量会社、ドローン事業者、環境調査会社が組んで対応する形 が現実的です。
「うちは工事屋だから関係ない」と切り離すより、少しだけ視野を広げておく。
それだけで、次の案件の見え方が変わります。
まずは自社に関係する海域・工種から確認したい
今回のニュースは、全国すべての建設会社にすぐ影響するものではありません。
ただし、港湾・海岸・漁港・沿岸部の仕事をしている会社には、見逃せない兆しです。
ブルーインフラは、施工と環境データがセットで語られる分野になっていく可能性があります。
まずはBDASを実際に開き、自社の営業エリアや施工エリアの近くで、どのように藻場が表示されるのかを見てみるのがよさそうです。
そして、公開マニュアルのうち、計測計画、許可申請、安全管理、データフォーマットの部分だけでも確認しておく。
それだけでも、次に発注者から「環境モニタリングも含めて考えたい」と言われたときの反応が変わります。
自社ならどこまで関われるかを整理する
ブルーインフラやBDASのような新しい動きは、最初から完璧に理解しようとすると重たく感じます。
大事なのは、まず自社の現在地を整理することです。
「施工だけで関わるのか」
「測量会社と組んで計測まで広げるのか」
「ドローンや点群処理を内製化するのか」
「公共工事の提案力として環境データを扱うのか」
このあたりを一度言語化しておくと、次の一手が見えやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。今回のような新しい制度・技術の動きについても、「うちの場合はどう考えるべきか」「何から整理すべきかわからない」という段階から壁打ちできます。
無理な営業はいたしません。建設企業の持続的成長に向けて、必要な論点を一緒に整理する場として使ってください。



























