国土交通省は令和8年5月29日、「土木鋼構造用塗膜剥離剤技術」の技術比較表を追加公表しました。
対象は、鋼道路橋の塗替え塗装工事などで、化学的作用により既存塗膜を除去する技術です。平成30年度に10技術の比較表が公表されていましたが、公表から5年以上が経過し、新たな技術が確認されたため、令和5年度に追加公募が行われました。
今回、応募のあった7技術のうち、選定結果取り消し申請のあった4技術を除き、3技術の現場実証結果が追加公表されています。資料はNETISにも掲載されています。
今回追加されたのは「3技術」の現場実証結果です
今回の追加公表版では、次の3技術が掲載されています。
- 中性型水系剥離剤ECO「STRIPPER」
- ハクリタイトエコST
- パントレ工法
比較表には、技術名、剥離剤名称、NETIS番号、応募者、概算標準施工費、剥離剤塗付量、塗付方法、剥離性能、安全性、化学成分、臭気、塗替え塗膜の耐久性・防食性などが整理されています。
特に経営者目線で見ておきたいのは、この比較表が「同一条件下で比較された情報」であることです。
新技術は、メーカー資料だけを見ると違いが分かりにくいものです。今回のように、国土交通省のテーマ設定型の技術公募で、性能評価項目や試験方法をそろえて整理された資料は、公共工事で技術選定を検討する際の入口になります。
ただし、資料は「暫定版」です。試験継続中の評価項目もあります。採用判断では、NETISの情報だけで完結させず、最新の性能や施工条件を開発者に確認することが前提になります。
見積で注意したいのは「比較表の金額に含まれない費用」です
今回の資料で重要なのは、概算標準施工費に関する注意書きです。
比較表に記載されている概算標準施工費は、開発者からの見積であり、剥離後の処分費と運搬費は含まれていません。
また、資料では、剥離剤の塗布回数は処分費に影響するため、選定時に留意することとされています。
これは現場の利益に直結します。
塗膜剥離剤の工法比較では、どうしても1,000㎡あたりの施工費に目が行きます。今回追加された3技術でも、概算標準施工費は資料上、1,000㎡あたり4,450,500円、6,041,600円、6,872,000円と示されています。
しかし、実際の現場ではここに、仮設、足場、交通誘導、安全施設、剥離した塗膜の処分、運搬などが乗ってきます。比較表の金額は、あくまで条件付きの目安です。
中小建設会社としては、「技術単体の安さ」ではなく、「現場全体の総原価」で見ることが大切です。
見積時には、少なくとも次を確認しておきたいところです。
- 剥離剤の塗布回数は何回想定か
- 剥離後の塗膜量はどの程度になるか
- 処分費、運搬費を誰がどの条件で見込むか
- 足場や養生、安全設備は別途どの程度必要か
- 気温や施工部位によって作業効率が変わるか
- メーカー立会いや講習が必要な場合、その費用や日程はどうなるか
比較表は「そのまま見積に転記する表」ではなく、見積条件の抜け漏れを点検する表として使うのが実務的です。
安全管理では、火災と化学物質を軽く見ないことが重要です
今回の別紙では、過去に土木鋼構造用塗膜剥離剤による塗膜除去作業中に火災が発生し、重大な事故につながった事例があることにも触れられています。
そのうえで、塗膜剥離剤を用いて塗膜の剥離作業を行う際には、火災安全性の確保に十分留意することとされています。
この一文は重いです。
橋梁の塗替え現場では、狭い足場内、養生シート、既存塗膜、薬剤、工具、気温、換気、作業員の動線が重なります。ひとつひとつは管理できる要素でも、現場では複合的なリスクになります。
比較表には、引火点、粉じん発生量、生分解性、魚毒性、化学成分、SDS、関連法規との照合なども整理されています。
中小企業にとって重要なのは、「この薬剤は使えるか」だけでなく、「自社の現場管理体制で安全に使い切れるか」です。
確認したいポイントは次の通りです。
- SDSを事前に確認しているか
- 作業員への安全教育を実施できるか
- 保護具、化学防護服、呼吸用保護具の運用ができるか
- 保管時の施錠や数量管理ができるか
- 火気管理、換気、養生、緊急時対応を施工計画に落とし込めるか
- メーカーや販売店から施工要領書、技術資料、講習、立会い支援を受けられるか
今回追加された技術の中にも、施工要領書、カタログ、SDSの提供、講習会、安全教育、リスクアセスメント作成支援、メーカー立会いなどの取り組みが記載されています。
安全管理の支援体制まで含めて技術を選ぶ。これが、これからの補修・維持管理工事ではより重要になります。
NETIS情報は、提案力と社内標準づくりに使えます
今回の情報はNETISに掲載されています。
NETISは、国土交通省が運用する新技術情報提供システムです。公共工事で新技術の活用を検討する際、発注者、元請、専門工事会社の間で共通言語になりやすい情報源です。
中小建設企業にとっては、NETIS情報を「営業資料」ではなく「社内の技術選定ルール」に落とし込むことが価値になります。
たとえば、橋梁塗替えや鋼構造物補修に関わる会社であれば、次のような使い方ができます。
- 見積前に、候補技術の性能・安全性・費用条件を確認する
- 元請や発注者への技術提案時に、比較表を根拠資料として参照する
- 協力会社に任せきりにせず、自社として安全管理項目を確認する
- 若手や現場代理人向けに、塗膜剥離剤選定のチェックリストを作る
- 処分費、運搬費、仮設費を含めた原価管理の型を作る
公共工事では、技術を知っている会社と、知らない会社の差が出ます。
ただし、知っているだけでは足りません。自社の見積、施工計画、安全教育、協力会社管理にどう反映するかが問われます。
中小建設企業は「新技術の採用可否」より先に、判断基準を持ちたい
今回の公表は、特定の技術をすぐ採用すべきという話ではありません。
むしろ、中小建設企業にとっての示唆は、新技術を選ぶときの判断基準を会社として持つべき時代になっているということです。
橋梁や鋼構造物の維持補修は、今後も重要な市場です。一方で、現場は簡単ではありません。安全管理、環境対応、化学物質管理、処分費、技能者教育、原価管理が絡みます。
だからこそ、技術比較表を見るときは、次の順番が実務的です。
- 施工対象に合うか
- 必要な性能を満たすか
- 総原価で見て利益が残るか
- 安全管理を自社で運用できるか
- メーカー支援を受けられるか
- 発注者や元請に説明できる根拠があるか
新技術の活用は、単なる工法選定ではなく、会社の現場管理力を高めるきっかけになります。
今回の比較表は、そのための良い材料です。
自社の見積・安全管理にどう落とし込むかを整理する
塗膜剥離剤技術のように、費用、安全、化学物質、処分、公共工事の説明責任が重なるテーマは、現場任せにすると判断がばらつきやすくなります。
「この工法を使うかどうか」だけでなく、自社ではどの条件なら採用できるのか、見積で何を確認するのか、安全教育を誰が担うのかまで整理しておくと、次の案件で動きやすくなります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場、採用、組織、原価管理、デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。建設企業の持続的成長を支援し、ものづくりに集中できる建設業界へ近づけるための伴走です。
「うちの場合は、どこから見直すべきか」「見積や安全管理のチェック項目を整理したい」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、状況整理の相手として必要なときにお声がけください。
































