国土交通省は、令和12(2030)年度までの5年間を計画期間とする第3次「自転車活用推進計画」を閣議決定しました。
今回の計画は、自転車を単なる移動手段ではなく、地域交通、脱炭素、健康、観光、まちづくりを支える社会基盤として位置付けるものです。
中小建設業にとっては、「自転車の話」で終わらせる内容ではありません。道路空間の再配分、自転車通行空間、駐輪場、シェアサイクルポート、ゾーン30プラス、無電柱化、観光ルート整備など、地域の小規模・中規模工事に直結しやすいテーマが多く含まれています。
まず押さえたい計画の全体像
今回の計画では、初めて「ビジョン」が示されました。
目指す姿は、安全・快適に自転車を活用できる環境を実現し、自転車交通の役割を拡大することです。期間は令和12年度までです。
計画の目標は5つです。
- 安全で快適な走行環境等の整備
- 自転車事故のない安全で安心な社会の実現
- 自転車交通の役割拡大による地域の移動環境の形成
- 健康長寿社会や脱炭素社会への貢献
- サイクルツーリズム等による観光地域づくり・地域活性化
建設業として特に見るべきは、1、2、3、5です。つまり、道路・交通安全・地域交通・観光インフラです。
建設業に関係が深い数値目標
計画には、いくつかの具体的な指標が置かれています。
中小建設業が見ておきたい主なものは次の通りです。
| 項目 | 現状 | 目標 | |---|---:|---:| | 自転車活用推進計画を策定した市区町村数 | 317市区町村(令和7年度) | 800市区町村(令和12年度) | | 自転車ネットワーク計画を策定した市区町村数 | 401市区町村(令和7年度) | 800市区町村(令和12年度) | | 自転車通行空間の整備延長 | 9,841km(令和6年度速報値) | 12,000km(令和12年度) | | シェアサイクルの導入市区町村数 | 323市区町村(令和6年度) | 500市区町村(令和12年度) | | 「自転車通勤推進企業」宣言企業・団体数 | 95企業・団体(令和7年度) | 250企業・団体(令和12年度) |
ここで重要なのは、国が「自転車利用を増やしたい」と言っているだけではないことです。
自治体の計画策定数、自転車ネットワーク計画、自転車通行空間の整備延長まで、具体的に増やす方向が示されています。
これは、地域ごとに道路整備、路面表示、標識、駐輪場、サイクルポート、交通安全対策などの案件が出てくる可能性を意味します。
受注機会として見たい工事領域
今回の計画で、建設会社が特に注目したい工事領域は次の通りです。
- 自転車通行空間の整備
- 自転車専用通行帯の停車抑制対策
- 路外駐車場・荷さばきスペースの整備
- 地域の駐輪ニーズに応じた自転車駐車場整備
- シェアサイクルポートを含むモビリティハブの設置
- ゾーン30プラスの整備
- 無電柱化と合わせた自転車通行空間の確保
- 道の駅、鉄道駅、空港、商業施設等でのサイクリスト受入環境整備
- サイクリングルートの走行環境・受入環境整備
特に地域の土木・舗装・外構・道路付属物に関わる会社にとっては、大規模な新設工事だけでなく、既存道路や既存施設を少しずつ作り替える仕事として現れる可能性があります。
たとえば、道路幅員に余裕がない生活道路であれば、通行空間の表示、速度抑制、交差点まわりの安全対策、駐停車対策が組み合わさります。
観光地であれば、サイクリングルートの案内、休憩・駐輪機能、道の駅や駅周辺の受入環境が論点になります。
「自転車インフラ」は、道路工事、交通安全施設、観光施設、地域交通の交差点にあるテーマとして見ておくとよさそうです。
自社のエリアで見るべき資料
今回の計画を読んだ後、中小建設業がまず確認したいのは、自社所在地や営業エリアの自治体資料です。
見るべきものは、主に次の4つです。
- 市区町村の自転車活用推進計画
- 自転車ネットワーク計画
- 地域公共交通計画
- まちづくり、観光、道路、無電柱化に関する計画
今回の国の計画では、地方公共団体に対して、地域の実情に応じた計画策定や実行を促す方向が示されています。
つまり、今後の案件は、国の計画そのものから直接出るというより、各自治体の計画・予算・発注に落ちてくると見るのが自然です。
営業面では、単に「道路工事がありませんか」と聞くより、
- 自転車ネットワークの整備予定はあるか
- 通学路の安全対策と連動する箇所はあるか
- 駅前や中心市街地の駐輪対策はあるか
- シェアサイクルポートやモビリティハブの検討はあるか
- 観光ルートや道の駅の受入環境整備はあるか
といった切り口で地域を見ると、動きがつかみやすくなります。
工事中の安全管理にも影響する可能性があります
もう一つ、現場側の視点もあります。
計画では、自転車専用通行帯における停車抑制対策や、違法駐車取締りの推進も示されています。
これは、道路工事や街中の現場において、工事車両、資材搬入、荷さばき、仮置きの管理がより重要になるということです。
自転車通行空間が整備された道路では、従来の感覚で車両を止めると、自転車の通行を妨げる場面が出てきます。
もちろん、実際の運用は道路管理者や警察、現場条件によります。ただ、流れとしては、歩行者・自転車・自動車をどう安全に分けるかがより重視されます。
現場管理では、次のような点を早めに確認しておきたいところです。
- 自転車通行空間をふさがない搬入計画になっているか
- 交通誘導員が自転車の流れも見ているか
- 仮設計画で歩行者と自転車の動線を分けられるか
- 道路使用・占用の協議時に自転車通行への配慮を説明できるか
小さなことに見えますが、街中の現場では差が出ます。
これからの道路工事では、自動車だけでなく、自転車を含めた交通処理が現場品質の一部になると考えておくとよさそうです。
自転車通勤は「福利厚生」だけでなく安全管理のテーマです
計画では、自転車通勤の促進も盛り込まれています。
「自転車通勤導入に関する手引き」の周知や、「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクトの拡大も示されています。
建設業では、車通勤が多い会社も少なくありません。一方で、都市部や駅近くの事務所では、自転車通勤をしている社員もいます。
ここで大事なのは、自転車通勤を認めるなら、ルールもセットで整えることです。
計画では、ヘルメット着用、自転車損害賠償責任保険等への加入、交通安全教育、自転車の点検整備も重視されています。
さらに、令和8年4月からは、自転車の交通違反に対する交通反則通告制度、いわゆる青切符の導入も計画内で触れられています。
会社としては、少なくとも次の整理はしておきたいところです。
- 自転車通勤を認めているか、黙認しているか
- 通勤経路や駐輪場所の考え方はあるか
- 保険加入を確認しているか
- ヘルメット着用をどう扱うか
- 業務中に自転車を使う場合のルールはあるか
自転車通勤は、健康や脱炭素の話であると同時に、労務・安全・事故対応の話でもあります。
中小建設業は「地域の移動環境づくり」に関われる
今回の計画の大きな読みどころは、自転車を「地域交通」の一部として扱っている点です。
人口減少や担い手不足により、地域交通の維持が難しくなる中で、公共交通と自転車の連携、シェアサイクル、サイクルトレインなどが位置付けられています。
これは、地方の建設会社にとっても重要です。
道路を直す。駐輪場をつくる。案内表示を整える。道の駅を使いやすくする。駅前の回遊性を高める。
一つひとつは小さな工事でも、つながると地域の移動環境そのものをつくる仕事になります。
公共工事の見方も、少し変わります。
これからは、単独の舗装修繕だけでなく、
- 通学路の安全
- 高齢者の外出
- 観光客の回遊
- 駅前の利便性
- 脱炭素
- 生活道路の安全
といった政策目的とセットで工事が組まれやすくなります。
自社の施工力を、地域課題の解決にどう結びつけるか。 ここが営業や提案の力になります。
まずは営業エリアの計画と現場ルールを確認したい
今回の計画は、すぐに全社が大きく方針転換するような話ではありません。
ただし、道路・外構・交通安全・観光地整備に関わる会社にとっては、令和12年度まで続く公共投資の方向性を読む材料になります。
まずは次の2つからで十分です。
- 営業エリアの自治体が、自転車活用推進計画や自転車ネットワーク計画を持っているか確認する
- 自社の工事車両・自転車通勤・交通誘導のルールを見直す
自転車政策は、派手なテーマではありません。けれど、道路の使い方が変わると、街の工事の中身も少しずつ変わります。
その変化を早めに読める会社ほど、地域の小さな工事を確実に拾いやすくなります。
自社の地域ではどう関係するかを整理する
「自転車インフラが自社の仕事につながるのか」「自治体計画をどう読めばよいのか」「自転車通勤の社内ルールをどこまで整えるべきか」は、会社の地域、業種、社員の通勤実態によって変わります。
ネクスゲートでは、中小・専門工事会社の経営課題を、現場・採用・組織・原価・デジタル活用まで横断して整理し、実行まで支援しています。公共工事の動向を自社の営業や安全管理にどう落とし込むか、という段階から一緒に考えることもできます。
「うちの場合は関係があるのか」「何から確認すべきかわからない」という段階でも大丈夫です。無理な営業はいたしませんので、必要な整理先として活用してください。
































