前提|長く高校生を職人として育ててきた工務店が、いまは1人来るか来ないかの採用環境

長年、若い高校生を採用して職人として育ててきた、ある住宅系の工務店があります。

以前は地方のつながりや工業高校との関係から、毎年のように若手が入ってきていました。大工を中心に、基礎工事や電気工事などの職種も含めて、社内に職人を育てていきたいという考えもありました。

ところが、ここ十数年は状況が変わっています。

「本来は毎年2名ずつ採用したいんです。でも、いまは1名来るか来ないかです」

こうした声は、建設業の中小企業では珍しくありません。採用したい気持ちはある。職人がいないと会社の形が成り立たないことも分かっている。けれど、以前のように自然と若手が集まる時代ではなくなっています。

課題|業界団体経由の採用に頼るだけでは、会社の魅力が高校生に届きにくい状態

この会社では、求人票を広く出すというより、業界団体や学校とのつながりを通じた採用が中心になっていました。

そのルート自体は大切です。むしろ、いまでも毎年のように候補者が来る可能性があるなら、それは非常に貴重な財産です。

ただ、問題は「それだけで十分か」という点です。

高校生や保護者、先生が会社を知ろうとしたとき、ホームページやSNS、求人ページに十分な情報がなければ、判断材料がありません。現場の仕事の魅力、職人として育つ道筋、住まいの支援、どんな先輩がいるのか。そうした情報が見えないと、せっかくの歴史や人柄も伝わりません。

特に若い世代は、気になった会社をすぐに検索します。そこで印象が薄ければ、候補から外れてしまうこともあります。

「パッと見てインパクトがなかったら、すっとかわされてしまう」

採用は、求人票を出すだけではなく、選ばれる理由を先に見える形にしておく必要があります。

背景|地元志向の強まりと採用競争の中で、昔の成功パターンが通用しにくくなっている流れ

かつては、地方から都市部へ出て働くことに前向きな高校生も多くいました。しかし今は、地元で働きたいという志向が強くなっています。

加えて、建設業以外の会社も高校生採用に力を入れています。先生や保護者から見ても、安心して送り出せる会社かどうかがより重視されます。

この会社にも、過去に学校との関係が途切れてしまった経験がありました。長く築いてきた関係でも、ひとつの行き違いや伝え方のズレで、採用の流れが止まることがあります。

一方で、過去に卒業生を受け入れてきた実績、職人を育ててきた歴史、社員用の住まいを用意していること、複数職種を経験できる可能性など、伝え方次第で武器になる要素はあります。

重要なのは、「うちは昔からやっている」だけで終わらせないことです。

高校生本人には、仕事の面白さが分かる言葉が必要です。先生には、安心して紹介できる育成体制が必要です。保護者には、生活面や将来像が見える情報が必要です。

解決|既存の太いパイプを活かしながら、自社の育成力と職人の未来像を見える化する採用づくり

採用を立て直すうえで、まず捨ててはいけないのは既存のつながりです。

業界団体や学校との関係が残っているなら、それは採用の土台になります。そこに加えて、自社として直接伝える力を持つことが大切です。

たとえば、次のような整理が有効です。

  • どんな職人を育てたいのかを明確にする
  • 大工だけでなく、基礎や電気など複数職種の可能性を伝える
  • 若手が入社後にどう育つのかを、1年目・3年目のイメージで示す
  • 社員寮や生活支援など、保護者が安心できる情報を出す
  • 学校訪問や説明会で、社長や若手社員が自分の言葉で話す
  • ホームページやSNSに、現場の雰囲気や先輩の声を載せる

特に工務店の場合、「家をつくる仕事の面白さ」は伝え方で大きく変わります。

「建築に興味ある?」と聞くだけでは、18歳の生徒はうまく答えられません。まだ仕事を知らないからです。

だからこそ、「家づくりにはこんな工程があって、うちではこういう技術を身につけられる」「大工だけでなく、電気や基礎も分かる職人を目指せる」と、具体的に見せていく必要があります。

採用活動は、待つだけではなく、こちらから出向いて伝える活動です。学校訪問、説明会、見学会、SNS、採用ページ。それぞれを別々に考えるのではなく、同じメッセージでつなげていくと、会社の印象は強くなります。

まとめ

高校生採用が難しくなったからといって、すぐに諦める必要はありません。

むしろ、過去に若手を採用し、職人として育ててきた会社には、言語化できていない強みが残っていることが多いです。

ただし、昔のように「関係があるから来てくれる」「求人票を出せば分かってもらえる」という時代ではありません。

これからは、既存のパイプを大切にしながら、自社の育成力、職人の未来像、生活面の安心、現場の人柄をきちんと見える形にすることが必要です。

毎年2名を採りたいなら、まずは「なぜこの会社で職人を目指す意味があるのか」を、高校生にも先生にも保護者にも伝わる言葉にしていくことです。そこから、採用は少しずつ会社の力に変わっていきます。