前提|採用と職人育成を担ってきた担当者が次世代へ残す基盤づくりを急いでいる状況
ここでは、採用や職人育成を長く担ってきた担当者が、会社の次の世代に何を残すべきか悩んでいるケースを扱います。
ある専門工事会社では、若手採用と職人育成を大切にしてきました。長く会社を支えてきた人たちも、もともとは若手として入社し、現場で育ってきた人たちです。
ただ、ここ数年は採用も育成も以前のようには進みません。若手が入りにくい。入っても続きにくい。学校とのつながりも細くなっている。職人層だけでなく、職人を束ねる管理側の人材も増やしたい。
担当者には、強い危機感がありました。
「この後、誰かに引き継がなきゃいけない。そのための基盤を残していきたいんです」
これは、単なる採用担当者の悩みではありません。会社を次の世代へどうつなぐかという経営課題です。
課題|採用を頑張る以前に社内の向きがそろわず、社員がどちらへ進めばよいか迷っている
課題は、採用施策そのものだけではありません。社内の向きがそろっていないことです。
担当者は会社を変えたいと思っています。若手に選ばれる会社にしたい。職人が育つ仕組みをつくりたい。次の世代へ渡せる体制を残したい。
一方で、社内には変化に前向きではない人もいます。
「もうこの会社はそんなに変わらなくてもいいのではないか」 「採用や育成にはあまり関わりたくない」
こうした空気があると、社員は迷います。誰についていけばいいのか。会社は本当に変わるつもりがあるのか。自分も動いていいのか。
担当者はこう話していました。
「前を向きたいタイプと向かないタイプが同じ会社の中にいて、社員がどっちを向いていいか困るんです」
採用活動は、求人票を出せば完結するものではありません。学校訪問にはOBの協力が必要になるかもしれません。若手育成には現場の職人の協力が必要です。採用ページをつくるにも、社員の声や写真が必要になります。
つまり、社内の協力が得られなければ、採用も育成も前に進みにくいのです。
背景|過去のやり方を否定したくない思いと、変えなければ進まない現実がぶつかっている
背景には、過去への敬意と変化への必要性が同時にあります。
これまでのやり方が間違っていたわけではありません。実際、そのやり方で育った人たちが会社を支えてきました。学校とのつながり、職人同士の紹介、現場で覚える文化。どれも会社の財産です。
ただ、今は採用市場も若手の感覚も変わっています。
以前より働く時間は短くなり、若手は会社をよく調べてから選びます。親御さんも安心できる会社かどうかを見ています。教え方も、昔のように「見て覚えろ」だけでは通じにくくなっています。
だから、担当者は過去を否定したいわけではなく、会社の原点に立ち返りたいのです。
「会社でバックアップしながら人を育てる。それがうちの原点なんです」
この言葉には、変化の方向性が見えています。
変えるべきなのは、会社らしさそのものではありません。会社らしさを今の時代に伝わる形へ整えることです。そこを社内で共有できると、変化は対立ではなく、継承になります。
解決|第三者の現状把握を起点に、採用と育成を社内プロジェクトとして動かす
解決の入口は、社内の状態を見える化することです。
経営者や担当者だけで考えていると、自社の良さも課題も見えにくくなります。長くいる人ほど「当たり前」になってしまうからです。
そこで有効なのが、社員への聞き取りや現場の現状把握です。たとえば、社員に次のようなことを聞いていきます。
- 会社の良いところは何か
- 若手に伝えたい仕事の魅力は何か
- 新人がつまずきやすい場面はどこか
- 今のルールで分かりづらいところは何か
- 採用や育成に自分が関われる余地はあるか
こうした声を集めると、経営陣が気づいていなかった強みや課題が見えてきます。
「この社員は、後輩を育てたいと思っていたのか」 「自由度が高いことが、逆に不安につながっていたのか」
このような発見が、次の打ち手につながります。
そのうえで、採用と育成を社内プロジェクトとして進めます。学校訪問、求人原稿、採用ページ、若手の育成カリキュラム、面談の仕組み。これらを担当者一人で抱え込むのではなく、役割を分けて動かしていきます。
最初から全員が前向きになる必要はありません。OBが母校訪問に一度同行する。若手の写真撮影に協力する。新人の1か月面談に同席する。小さな関わりを増やすことで、少しずつ会社の空気は変わります。
場合によっては、外部の人事経験者や第三者が入り、プロジェクトの進行役を担うことも有効です。社内だけでは言いづらいことを整理し、感情論ではなく「会社をどう残すか」というテーマに戻しやすくなります。
まとめ
会社を変えたいのに、前を向く人と向かない人がいる。社員がどちらへ進めばよいか迷っている。
これは、採用難に悩む建設会社でよく起きる問題です。求人媒体や学校訪問の前に、社内の向きがそろっていないと、採用も育成も続きません。
大切なのは、過去のやり方を否定することではありません。これまで大事にしてきた「人を育てる会社」という原点を、今の時代に合う形へ整えることです。
そのためには、社員の声を聞き、強みと課題を見える化し、採用と育成を社内プロジェクトとして進めることが必要です。担当者一人の熱意に頼るのではなく、会社全体で少しずつ役割を持つ形にしていく。
変化は、一気に起こすものではありません。小さな参加の機会をつくり、社員が「自分も関わっていいんだ」と感じられる状態を増やしていくことです。
次の世代へ会社をつなぐために、採用と育成は経営の中心テーマになっています。